第93羽♡ 3N落とし穴大作戦


「――と言うわけで前園と宮姫が仲直りできるように皆の力を借りたい」


 放課後の僅かな時間で誰もいなくなった教室で楓、リナ、さくら、俺の四人を集め簡単な打ち合わせをする。


「ふむ……兄ちゃんの話はわかった。わたしとしても凛ちゃんとすずには仲良くしてほしいと思う」

「そうだねリナちゃん」


 楓は賛同し、さくらも無言で頷く。


「まず凛ちゃんとすずがふたりきりになれる状況を作った方が良いかな」

 

 珍しくウチの義妹もどきがまともなことを言っている。

 勉強は苦手かもしれないが、アホの子ではないと俺は信じてる。


「具体的には何か良い方法はあるか?」

「グラウンドに縦横5m高さ2mの正方形の落とし穴を設置し、穴底にふわふわマットを敷いて凛ちゃんは待機、後はすずが落ちてきてご対面」


 前言撤回――やっぱりアホの子だった。


「ふわふわマットを敷いてても普通に危ないだろ!」


「そうだよリナちゃん、怪我するリスクを考えると高さ2mじゃ足りないよ。

 落下角度や底で待つ凛ちゃんのいる位置も考慮して、高さは4m縦横10m位にした方が良いと思う」

 

 楓さんツッコむところそこなの?

 高さ4mって深くない? 

 そもそもその大規模工事計画は何!?

 

「うちのグループ会社に建築部門があるからブルドーザーを1台リースできるか確認するわ」


 何やらスマホ操作を始めるさくら。

 早速赤城グループの力を使おうとしてる!?

 

「穴を勝手に掘るわけにはいかないから学園側への許可が必要だと思う、生徒会にも」


 楓さん……どんどん落とし穴建設計画の実現性が増してる気がするけど……。 

 

「学園側、理事長は大丈夫よ。この前理事長室で会談したわ。旧冬星館跡に建設予定の新冬星館建設の援助を頼まれているの。便宜への見返りの一つとして、落とし穴建設の許可をお願いすれば恐らく通ると思う」

 

 さくらたんが普通に恐い事を言ってだけど――!

 白花学園はもう大魔王さくらたんの支配下なの――!?


「後はどうやってすずちゃんをどうやって落とし穴に誘導するかだね」


 顎に手を当てて考える楓さん。 

 あの……宮姫さんは俺たちの大切な幼馴染だよ。

 わかってるよね?

  

「体育の後、更衣室で着替えるすずの後ろに回り込み、素早くブラホックを外しゲットする。後は制服ノーブラで全力で走れないすずと適度な距離を維持し、落とし穴に誘導すればOK!」


「犯罪だろそれ……」


「JK同士のかわいい戯れだよ。学園には女子しかいないし問題ないでしょ」

「いや白花は共学だから男が沢山いるから……それにこの作戦、後で宮姫にめちゃくちゃ怒られるぞ!」


「う……それは困る。じゃあすずだけに恥ずかしい思いをさせるのは止めて、わたしもノーブラ、ノーパンで作戦に臨もう。事が終わった後『ごめん、わたしもブラもパンツもないよ。ほら、すずと同じ』と言えば、きっと許してくれるはず」


「何でパンツまで脱ごうとしてるんだよ!?」


「それは兄ちゃん、せっかくだしスカートがまくれて見えちゃうギリギリのスリルも堪能しようかと! でもノーブラで走るとおっぱいが揺れた拍子に先っちょがこすれて痛くなりそうだからニップレスは張っておくべきか?」


 ノーブラ、ノーパン、ニップレスってマニアック過ぎないか妹よ?


「大丈夫よリナ……あなたの胸は揺れるほどないから擦れない」

「そんなことない! 絶賛成長中だし――ぽよんぽよん揺れるもん!」


「無理ね……更地さらちはいつまでも更地のままよ」


 さくらさんにリナさんや……そういう話はボクのいないところでしてくれないかな。思春期なのでドキドキしちゃいます。

 

「うきぃいいいいい――なんだとぉおおお!? さくらだってわたしと大きさは変わらないくせに!」

「何か言ったかしら……わたしは16歳女子の平均サイズはあるわ! あなたと一緒にしないで、ちゃんと揺れるから」


 ……だから男の子のボクもいるんですけどさくらたん。

 

「わざわざ16歳女子の平均サイズを調べてるのはわたし小さいのかしら?って気にしてるからだよね~でも楓ちゃんの大玉スイカに比べれば、公園の砂場で作った山と変わらないし~つまりさくらも更地、やーい」


「……どうやらこの小娘は天国への階段を駆け上がりたいようね」


「んだと~やるのかゴラァ!」

「ふん、望むところよ!」


「ちょっとリナちゃん、赤城さん落ち着いて!」


 楓さんや……申し訳ないけど義妹もどきと俺のフィアンセを止めてもらっていいかな。ネタ的に口を挟みづらいのです。


「楓ちゃん言い忘れたけど、このノーブラ、ノーパン、ニップレスの頭文字をとった3Nは、わたしだけじゃなくて、作戦の理解度、団結力を高めるためにさくらと楓ちゃん、凛ちゃんにもやってもらうから!」


「えっ!?」

「もちろん兄ちゃんもだからね」


「俺もかよ! 男がノーパン、ニップレスって変態過ぎるだろ」


「まぁまぁそれも一興かと、ノーブラで天空から落ちてきたすずに、凛ちゃんが『ノーブラノーパンで待ってたよすず。お互い隠すところもないし、包み隠さず心の内を話そう』と言えば、上手くいくこと間違いなし!」


「すごいリナちゃん……考えが深いね。


 何がわかったの楓さん!?

 それ絶対わからなくていい事だよ!


 あと深いのは考えじゃなくて、落とし穴だよね。

 皆お願いだから正気に戻って――!


「わたしはやらないわ……望月さんもリナのおバカに乗ってはダメよ」

「え? う、うん。わかった。赤城さんがそう言うなら」

 

 さくらに制止され考えを改めてる楓、しょんぼりしているように見えるのは気のせいだよね?


「なんやて――貴様、裏切るのかさくら!?」

「3Nなんて淑女のすることじゃないわ」


「さくらさん、ごもっともな意見ありがとうございます。リナもやるなよ、これお兄ちゃん命令だから」


「くっ……わかったよ兄ちゃん、3Nはふたりきりの時に……では凛ちゃん、すずのためにそろそろ真面目に話をしましょうか」

「最初からそうしてください」

 

 こうして前園、宮姫攻略のために作戦本部長リナ・タカヤマ上級大将が提案した

 3N(ノーブラ、ノーパン、ニップレス)落とし穴大作戦は中止になった。


「仲直りも何もわたしにはすずと凛ちゃんは今も互いの事が大好きに見えるんだよね。いつも互いを視線で追いかけてるし」

「でもあのふたりはほとんど口を利かないだろ」


「だからってわたしたちが仲直りしろってワーって言ったら、ますます歩み寄れなくならない? だったら全員でやるより兄ちゃん、凛ちゃん、すずの三人で話し始めて頃合いを見てふたりにさせた方が良くないかな」


 うちの義妹もどきはアホの子じゃないらしい。

 だけど前園、宮姫の間に挟まれる俺のさじ加減は難しそう。

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