第183羽♡ 魔女の正体
「緒方、魔女に騙されるな!」
俺に抱きついてきた風見刹那を広田がはがす。
「おっと広田君少し強引じゃないかい?」
「だまれ! 緒方が困っているだろ」
「そうかな? まぁいいや。ごめんね緒方君びっくりした?」
「……あぁ風見さん、女の子は冗談でもこんな事しちゃダメだよ」
「ボクのことを心配してくれるのかい? 優しいなぁ……広田君とは違うね」
「ふん、貴様に優しくする理由などヒトカケラもないからな」
「ボクは君に何かしたかな? 話すのも今日が初めてだと思うけど」
「あぁ……そうだ、だが俺はかつての貴様に酷く失望させられたからな」
「ボクがキミを? あ、ひょっとしてボクのこと知っているのかい?」
「まぁな」
どうやら広田と風見さんの間には何やら因縁があるらしい。
でも初めて話したと言っているのにどういうことだ?
「ふふっ、そっかぁ上手く紛れてたつもりだけど、そうでもなかったかな?」
「わからなかったさ……だが調べた限り高等部入学組で一番不自然だったのが風見だからな」
「広田、俺にもわかるように話してくれない?」
「いいだろう……さて同志緒方よ、風見刹那を見てどう思う?」
お前……その同志緒方って言うの気に入ってるだろ。
でも俺は超古代文明シモーキ・タザワに興味ないから。
「女の子に向けてどう思うは無いだろ……でもそうだな、何か引っかかるのと言うか、一度見たら忘れられないと言うか」
「風見のことは何度も見た事あるはずだ、何年も前からな」
「でも俺の中学には風見さんはいなかったし、そもそも俺と広田も中学は別々で、ん? どういうことだ?」
「風見刹那というのが恐らく本名だろう、一般には
「え? 遠野奏多ってあの芸能人の!?」
「そうだ。わずか数年で芸能界の頂点まで駆け上がり、突然消えたあの遠野奏多だ」
「でもテレビで見たのと大分印象が違うぞ」
「髪型だけでなく色々変えているからな……恐らくこの学園に潜伏するため」
「……ボクは静かな学園生活を送りたい。ただそれだけだよ。周りに迷惑も掛かるから姿を変えている」
そう告げると風見さんは優雅な笑みを浮かべる。
第二音楽室で厨二発言を繰り返し、先ほど突然抱きついてきた猫ミミ眼鏡っ子風見刹那は、少し前までテレビや映画で引っ張りだこだった若手天才女優の遠野奏多だった。
衝撃の事実ではある。
だけど今は芸能人遠野奏多ではなく、非公式生徒会を知っているであろう風見刹那に用がある。
「静かな生活を望むなら、なぜ非公式生徒会に関わる?」
広田がもっともな疑問を投げかける。
「好きで関わっているわけじゃないよ。ボクも巻き込まれたんだ。そこにいる緒方君と同様に」
「なんだと?」
「緒方君、君ならわかるはずだ。ある日突然、怪しげな舞台に出演する事が決まった。ところが開演直前で役を外された。だからボクは外された理由を探ることにした。そして演者であるあの子と出会った」
「あの子とは?」
「悪いが言えない……でも怪しい人間ではないし非公式生徒会でもない。ボク等と同様に非公式生徒会を追う者だよ」
風見さんの裏にもう一人いる。
そしてその人物も非公式生徒会を追っている。
その人物の狙いは何なのだろう?
ますますわからないことばかりだ。
「どうやって俺達がここに来ることを知った?」
「ふたりとも、非公式生徒会と非公式生徒会以外から監視対象だよ。広田君は非公式生徒会を嗅ぎ回り過ぎ、緒方君は天使と近すぎる。今日ボクがここにいるのはそんな君等に警告するためだ。広田君は第三新聞部を守りたいなら今まで同様に余計な事をしない。緒方君は期限通り役割をはたす。彼らのシナリオ通りに進めば、恐らく最悪のBADエンドは免れるはずだよ。悪くない話だと思うけど」
「最悪のBADエンドじゃなくても、誰か一人でも不幸になるなら意味がない。全員が幸せにならないと」
「それは君のエゴだよ……不幸なんてものは世界中にありふれている、皆を幸せになるなんて絵空事だよ」
「そうかもしれない……でもまだ結果は確定していない以上、諦めるわけにはいかない」
「無茶をすればもっと悪いエンディングを迎えるかもよ?」
「でもまだシナリオを書き換えることができるはずだ。より良いエンディングだってあるよね?」
「ふーんそっかぁ。君は諦めないのか、困ったなぁ」
やれやれと言った様子で猫ミミ眼鏡っ子少女は両手を広げる。
その口ぶりほど困っているようには見えない。
「風見さん俺からも聞いてもいい? わざわざこの部室で俺達を止めようとした理由は何? ここに何か重大な秘密があるからじゃないかな?」
「だったら部室の外で君等を止めるよ、わざわざ危険な所に君等を招き入れる理由が無い」
「恐らくだけど、最初から風見さんは隠す気がないと俺は思う。風見さんの言うあの子と風見さんはそれぞれ目的が別じゃないかって」
「……どうしてそう思うの?」
「うーん、何となくかな」
「……そう。ボクがうっかり口を滑らせちゃったとしても、あの子に責められる理由はないんだよね」
「やっぱり何か知っているんだね」
「ん~どうだろ? でも話を聞きたいなら、君たちはやることがあるにゃん♡」
「えっ?」
「むぅ?」
「あ~全然わかってない鈍感ボーイがふたりもいるにゃん♡ これじゃあ前園にゃんも瑞穂にゃんも苦労するわけだにゃん♡」
「何だとぉ?!」
「風見さん、悪いヒント頂戴」
「もうしょうがないにゃあ、ボクの愛情たっぷり甘口カレーを食べるにゃん♡」
「そういう事か……わ、わかったにゃん♡」
普段からカスミンとして、かわいいを意識して喋っているせいか何の躊躇いもなかった。しかし……
「広田にゃんも返事するにゃん♡」
「くっ……わかった」
「広田にゃん、語尾が足りないにゃん♡」
「ぬぐぅうううう……!? わかった……にゃん」
「ブブ~っ、かわいさが足りないにゃん♡ MAXにゃんこパワーを炸裂させて言うにゃん♡ 早く早く~」
「……わかったにゃん♡」
広田のMAXにゃんこパワーでの『にゃん♡』を聞いた風見さんがその場に笑い転げたのは言うまでもない。
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