第63羽♡ 宮姫すずとの協力関係


 朝のホームルーム前にこっそり教室を抜けたし、第七資料室に移動する。

 

 誰もいない部屋の片隅で、古びたノートパソコンやデスクトップパソコンを順々に起動してゆく。


 ほとんどのパソコンには初期化するためにテープに油性ペンで書いたパスワードが張り付けてある。

 

 これらは前年まで同好会や部活などで使用されていたものだ。


 大して古くないものについては再利用するため、学園職員が初期化を行うが、そうした仕事は地味に時間が掛かるため中々進まない。


 そのため、いつまでもこうして放置されることが多いようだ。

 使えるものを使わないのは勿体ないと思うけど、今の俺にとっては都合がいい。


 白花学園は現在中等部、高等部合わせて千人以上の生徒が在学している。

 これだけの生徒がいれば、日々色々な噂が飛び交うし、誰かと噂について話したくなるヤツは必ずいる。

 

 これまでも自宅のパソコンから白花学園に関する裏サイトなどを探してきたが、少し探したくらいで見つかる様なサイトには目ぼしい情報がなかった。

 

 俺の欲しい情報があるとしたら、簡単にはたどり着けないところ、SNSなら第三者に割り込まれない様に鍵が掛かっているところにあるだろう。

 

 でも辿りつくのは容易ではない。

 

 だったら闇雲にネット上を探すのではなく、書き込みに使ったであろう端末を抑えた方が手っ取り早い。

 

 学園内の未使用端末は、資料室などに眠っている。校内から闇サイトにアクセスした人間も必ずいるはず。


 眠る未使用端末から俺は情報を貰う。


 ……と思ったけど、昨日の放課後に調査したパソコンは全て空振りだった。

 

 資料室にあったパソコンで未調査はデスクトップ型が1台、このパソコンはパスワードが不明のため昨日はログインできず調査できなかった。

 

 今日は家から持ってきた自作のパスワード解読プログラムを使用し解除に当たる。

 これならいけるはず……。

 

 DVDドライブからプログラムがインストールされた工学メディアを起動する。

 プログラムは自動実行され一分もかからないうちにパスワードは解除される。

 

 次にメニューを選択し、代わりに新しいパスワードを適当に設定しOSにログインする。

 

「さてさて……」


 昨日調査したパソコンと同じように残っているメールデータやブラウザ閲覧履歴などを確認する。

 

 メールソフトを起動し残った受信メールを確認するが目ぼしい情報はない。

 さすがに分かりやすいところには何も残ってなさそうだ。

 

 次にブラウザ閲覧履歴を確認する。

 しばらく調査するとSNS閲覧履歴の中から、怪しいものが見つかった。

 

 ……………………  

 


 ………… 



 …


 

 出てきた情報は多岐に渡ってた。

 

 高等部、中等部のそれぞれの噂。

 学園七不思議の真実。

 教職員同士が付き合っている噂。

 

 見つけたSNSからは他のSNSへのリンクも残っており、芋づる式に新しい情報を入手できた。

 

 全体の分析には時間がかかる。だけどこの場で行う必要はない。

 持ってきたUSBメモリにデータをコピーし、家に持ち帰る。

 

 ここでの調査は無事完了。

 

 さて……

 残るは第七資料室に入る名目である宮姫が先生に頼まれた資料整理。

 こちらも怪しまれないようにするために、確実に終わらせなければならない。 


 昨日も多少は進めたが、まだ残っている。

 とは言え明日中に終わらせればいいから焦る必要はない。 


 整理整頓しながら、不要な紙類はシュレッダーで裁断しゴミ袋に詰める。


「おはよう、どう順調?」


 資料室のドアがゆっくりと開き宮姫が入ってきた。

 

「それっぽいのが見つかったよ。分析に時間が必要だけど……」

「すごい……やっぱり緒方君はコンピュータに強いよね。将来はそっちに進むの?」


「いや、考えたこともない。ただの趣味だよ」


 親父がコンピュータ関連の仕事をしているから、昔から家にコンピュータが何台もあり設備は充実していた。

 

 現在も親父のお古を使っているけど、ハイスペックマシンのためパソコンゲームなどでスペック不足に陥ることはない。

 

 コンピュータプログラムについても親父の見様見真似で覚えた。

 

「仮に非公式生徒会の情報を引き出せたとしても交渉に応じるかな?」

「やってみないとわからないけど、堕天使遊戯を終わらせる方法の一つとして押さえておきたいよね」


「そうだな……」


 このまま非公式生徒会が終わりと言うまで堕天使遊戯が続けるか、それとも非公式生徒会の正体を暴き、堕天使遊戯を途中で終わらせるか。

 

 現状打破するための糸口を掴みたい。

 今のところは、成果がないに等しいけど。

 

「そういえば白花祭関連の天使同盟の集まりっていつだっけ?」

「例年だと期末テスト終了後の翌週だと思う」


「まだ連絡はないんだよな」

「うん」


 堕天使遊戯とは別に、天使同盟一堂に集まる表のイベントが存在する。

 毎年十月中旬に開催される白花祭での天使同盟メンバーによる催し物。

 

 何をするかは選ばれた十二名の天使が意見を出し合って決める。

 なお、非公式生徒会とは別に白花祭で天使達をサポートする組織が毎年作られる。

 

 こちらは生徒会公認組織であり、あやしいものではない。

 

 過去に白花祭でやったものは、バンドライブやアイドル風コンサート、演劇やクイズ大会などで、近年はミスコンは実施していない。

 

「じゃあ『群青の天使』も来るってことだよな」

「恐らくだけど」


「十二名の中で名前がわからない唯一の天使『群青の天使』。宮姫はどう思う?」

「何とも言えないな……上級生の天使と同じで今のところは堕天使遊戯に関わって無さそうだし」


 天使メールを見る限り現在、堕天使遊戯に関わっているのは望月楓、前園凛、宮姫すず、赤城さくら、高山莉菜の五名と俺だけ。

 

 群青の天使以外の他六名の天使はいずれも上級生となる。

 

「宮姫は上級生の天使のうち何人かは顔見知りだったよな?」

「うん、わたしと同じく中等部出身者がいるからね。ところで……今日のノルマどうする?」


「ここなら都合がいいし、今でもいいか?」

「大丈夫だよ。でもその前に言わなきゃいけないことがある」


「なんだ?」

「改めて言うけど、わたしたちは目的を果たすための協力関係で、わたしは今も緒方君を許してないから」


「あぁそうだったな」

「これは緒方君だけを責めてるんじゃなくて、忘れそうになったわたし自身への戒め」


「わかった。気を付けるよ」

「ごめんね。もういいよキスしても……」


 その瞳はゆっくりと閉じられる。

 俺は一息ついた後、いつものように宮姫の唇を奪う。


 熱いぬくもりと柔らかな感触は昨日と変わらず心を溶かしていく。

  

 宮姫と協力関係を結ぶ時、最初に言われたこと、すーちゃんは過去に裏切った俺を決して許さない。互いの目的を果たすためだけに協力する。決して慣れ合わない。

 

 堕天使遊戯が終われば、俺たちは再び疎遠になる。

 

 それでもすーちゃんが何も心配せず笑って過ごせるなら俺はそれでいい。

 

 俺は宮姫との明日を願ってはならない……。

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