第123羽♡ はじめての夫婦ライフ(#13 夫婦の語らい その2)


 「ではダーリンおやすみなさい」

 「ちょっと待てさくら」


 午後23時を回る前に自室に戻ろうとするさくらを止める。


 「あら何かしら?」

 「まだ明日のことを何も聞いてない、お祖父さんや誕生日会に出席する親戚の人たちのこととか」


 「今日はもう遅いし明日の朝にしましょう」

 「少しだけでいいから教えてくれないか、頭の中で整理しておきたい」


 「ダーリンが積極的に関わろうとしてくれるのは嬉しいけど、考えすぎると明日に支障がでるわ」

 

 「眠くなったらさっさと寝るよ、俺はそんなに真面目じゃないし」

 「……カスミ君らしいわね、じゃあちょっとだけ」

 

 さくらは現在の取り巻く状況を簡潔に教えてくれた。

 それは一般家庭で育った俺には到底理解できないものだった。


 親、兄弟を除けば親族すら味方とは言えない現実。


 小説や映画のように野心や陰謀、権力と金銭が蔓延はびこる世界で日々駆け引きをしている。過去には信用していた人物が仲の良くない親族側のスパイだったこともあるらしい。

  

 「別に話を盛ってないわよ」

 「わかってるよ、でもあまりにもさくらが……」

 

 「大変そうに感じる? でもね大きな家に生まれ何不自由なく育ったのだから、多少のいざこざに巻き込まれるのは仕方のないことなの」


 「多少じゃないだろ」

 

 「敵は多いけど、わたしに協力してくれる人もいるわ。それにいざという時はダーリンが力を貸してくれるわけだし」

 

 「もちろんそのつもりだけど、俺はだぞ。大した力にはならない」

 

 「そうね……ダーリンは放課後ミニスカを履いて、かわいい笑顔を振りまきながらバイトをしているだったわね」

 

 「学校のそばでホントすみません!」


 「別にバカにしているわけじゃないわ。わたしの親族には家事をしながら、学校とバイトを両立させているような人はいない。人生経験が豊富という点ではダーリンは決して彼らに負けてない」


 「確かに色々やってるけどさ、だったらさくらも部活と仕事と学校を上手くこなしているだろ」

 

 「……そう見えるかしら? 赤城さくらも対立する親族と同様で恵まれた環境で、できることをやっているだけよ。本当のわたしは全然大したことないし、一人では何もできない」


 らしくない弱気な発言だった。

 俺は知っている。元々さくらは気の強い方ではない。

  

 今も明日のことで不安がいっぱいなのかもしれない。


 「なぁさくら、俺はさくらが凄いのを知ってるし、それ以前に誰よりも努力しているのを知ってる。それにいざという時はフィアンセの俺もいるだろ」


 「えぇそうね……ねぇカスミ君、本当は……」

 

 「ん?どうした?」

 「ごめんなさい。何でもないわ」

 

 何か言おうと言葉を飲み込む。

 恐らく大切なこと言おうとしたに違いない。


 さくらは何を告げようとしたのか?

   

 俺には見当も付かない。

 普段軽口を叩いても肝心なことは何一つわかってあげることができない。


 そんな頼りにならない俺だけど、やるべきことはわかっている。

 

 明日は反感を持つ連中からさくらを守り、尚且つお祖父さんに気に入られて誕生日会を成功させる。どう考えても難易度高のSランククエストにしか思えない。

 

 だけど必ずやり切る。


 「明日は大船に乗ったつもりで普通の男子高校生の俺に任せろ」

 「えぇカスミ君、信じてる」


 疑うこともなく真っすぐな瞳を俺を向ける。

 さくらは昔からずっとそうだった。


 俺はさくらを何度も裏切ってきた嘘つきなのに……

 







 「あ、そうそう。怒られる前に言っておくけどバイト先で今度アイドルをやることになったから」


 「え?」


 発言が唐突過ぎたのかさくらが驚いて目を丸くする。

 

 「女の子三人組の夏季限定アイドルで……って俺はまぁ女の子じゃないけど」

 「……何をどうしたらそんなことになるのかしら?」

 

 「俺にも正直よくわからん」

 「やっぱりダーリンは普通の男子高校生じゃない、何かがおかしいわ」


 「一応言っておくけど絶対に見に来るなよ」

 「ええ……もちろん見に行くわ! たとえ槍が降ろうと」

 

 ですよね……

 こんな風に言えば、冷やかし半分で見に来ますよね。

 

 バイトしてる姿以上に、アイドル活動してる姿は見られたくないのに。

 下手なのは仕方ないけど、少しでも無様な姿をさらさないように頑張ろう。

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