第122羽♡ はじめての夫婦ライフ(#12 夫婦の語らい その1)


 「疲れたぁ」


 バイトが終わり赤城家に戻るとすぐにお風呂に入り、その後寝室に入るとそのままベッドにダイブした。

 

 行儀が悪いと思うが、体力の限界だ。

 少し休まないとマジで動けない……。

 

 カフェレストランでのバイトは、さくらやリナが来たことを除けば、いつも通りだった。

 

 問題はバイト終了一時間前から行ったアイドル活動に向けてのダンスレッスン。

 

 今日が初日だったけど、とてつもなくきつい。

 ステップ、リズム、ポーズといった基本動作が何一つ上手くできない。

 

 ずぶの素人だから当然と言えば当然だが、自分で思っている以上に身体が動かない。

 

 とは言え、下手なのは一緒に活動する加恋さんや葵ちゃんも同じと思っていた。

 

 ところが加恋さんはヒップホップダンスの経験があり、葵ちゃんも中学の途中までバレエを習っていたらしく、俺とは明らかに違う。

 

 俺が初歩でつまずいたのに対し、ふたりは順調に次の課題に進んでいった。

 

 すっかりお荷物となった俺は、レッスン以外の時間も一人でできる素人向けの自主課題メニューを課された。ドレッドヘアーでマッチョ筋肉なダンスの先生はかなりの鬼だ。とにかく厳しい。


 店長とは旧知の仲らしいが、どんな繋がりだろう。

 

 明日はさくらのお爺さんの誕生日に出席するためバイトは休みだが、明後日はバイトのシフトが入ってる。

 

 それまでに少しでもマシにしていかないといけない。

 このままではまたマッチョ筋肉にシバかれる。

 

 でも全く時間がない……。


 ベッドにダイブし意識が徐々にあやふやになり始めた頃だった。

 

 ――コンコン

 

 誰かがドアをノックする音がする。

 

 「はぁい~」


 急に声を出したせいか、少し声が裏返った。

 

 「わたしよ……ちょっといいかしら」

 「ちょっと待って……」

 

 慌てて身体を起こすとベットを直し、着衣の乱れがない程度に身支度をする。

 

 「どうぞ」

 「失礼するわ」

 

 俺同様に、お風呂上りのさくらが入ってくる。

 そう言えば、昨日と違い今日はさくらとふたりでお風呂に入るトンデモイベントは無かったな。


 良かった良かった。

 ……ちょっと残念な気もするけど。

  

 さくらはいつものポニーテールでなく、胸元くらいまである髪を下ろしたままにしている。なんだか妙に艶っぽい。

 

 「わたしに何かついてるかしら?」

 「いや……」

 

 「視線を感じたのだけど」

 「ごめん、ちょっと見とれた」

 

 「あら、どの辺を?」

 「首元がつるとしてるところとか」

 

 「そう……ダーリンがそう言ってくれるのは嬉しいけど、日焼けしてるから恥ずかしいわ。綺麗に焼けてないし」

 

 さくらは元々色が白い。

 焼けても小麦色になるというより赤くなる感じ。

 

 「肌を休めるために冷却や保湿はしっかりしろよ」

 「さすがに詳しいわねは……ところでダーリンは随分疲れているわね」


 「そうでもないぞ」


 あっさり見抜かれてしまったが、俺より頑張っている人の前で、疲れた素振りを見せるわけにはいかない。


 「ダーリンは普段も戦闘力は5しかないのに今は2まで下がっているわ」

 

 「俺の戦闘力マジで低いのね。ザコレベルじゃん! まぁ弱い自覚はあるけど」

 「ちなみに望月さんの戦闘力は18000、そしてわたしはと言うと……」

  

 「530000だよね?」

 

 1000000以上でも不思議とは思わない


 「失礼ね……10よ。ダーリンよりちょっと強いくらい」

 「さくらさんの戦闘力計測器スカ〇タ―壊れてない?」

 

 「壊れてないわ。赤城グループが総力を挙げて作ったの最新型よ、なんと驚きの15年保証付き」

 「冗談なのはわかるんだけど、赤城グループなら戦闘力計測器も作れそうで怖いんだよね」

 

 「もちろん冗談よ。それより女子サッカー部の練習どうだったかしら?」

 

 「遠くから見てた限りだけど、雰囲気も良さそうだし、よくまとまってるように見えた」

 

 「ありがとう、でももっと具体的な指摘が欲しいわ、どこが良かったとか悪かったとか」

 

 「じゃあ正直に言う……ふたりとも今のシステムにあまり合ってない様に見えた。さくらは守備的MFボランチにしては下がり過ぎだし、リナはFWフォワードに入ってたけど、シュートはともかく元々ポストプレーやハイボールが得意じゃない。もう一列下の方が持ち味を出せると思う。後はふたりの距離が遠すぎるな。近い位置でプレーした方が良いんじゃないかな」


 さくらとリナは連携して突破できる。

 今のままでは強力な攻撃オプションの一つが使えない。

  

 「そうしたいのは山々なのだけど……」

 

 さくらが苦笑いを浮かべる。

 俺の指摘するまでもなく、問題点に気づいているのだろう。


 「でも今のポジションを変えてさくらのポジションを上げるとディフェンス強度が下がりそうだし、リナより得点力ある選手もいないよな」

 

 「えぇ……だからバランスを考えると今のところこれが最適解だと思ってる。だけど強豪校相手には厳しいわね」

 

 中学時代から年代別代表として切磋琢磨してきたさくらとリナは高校生としては全国でもトップクラスだろう。

 

 だけどサッカーはふたりでやるわけではない。強豪校に勝つには残り9人のクオリティーがどうしても必要だ。

 

 見た限りふたりと同等または近いレベルの選手は部内にはいない。

 さくらにしろリナにしろ、去年まで所属していたクラブの方が数段レベルは上だろう。


 そもそも白花学園高等部女子サッカー部は強豪ではない。

 近年の成績は一昨年の3回戦進出がベストだ。


 「厳しいのはわかってるけど負けられないの。三年生の先輩達は夏の大会が終われば受験に専念するため全員引退なる。だから何とか一緒に全国に行きたい。それにわたしも負けたくない」

 

 真っすぐな瞳でさくらは語る。

 高いレベルの競技者は、モチベーションが高く何より負けず嫌いだ。

 

 元々の才能もある。だけどひた向きな姿勢がさくらを年代別代表に選ばれるところまで引き上げた。

 

 ずっと前に投げだした人間からするとその姿は眩しい。

 

 「良ければ幾つか提案があるんだけど、ポジションは大きくいじららないで、ある程度の効果は出せると思う」

 

 「あら是非聞いてみたいわ」

 

 さくらが用意したルーズリーフに次々と改善ポイントを書き込んでいく。

 

 不明確なことろあればすぐに質問が飛んでくる。

 互いにアイデアを出し合い答えを探してしく。

 

 「すごいわ……リナがいつも言ってる通りね。でもダーリンはどうしてサッカーを辞めてしまったの?」

 

 「体を動かすより家で大人しく漫画を読んでる方が楽しくなっただけだよ。でリナは俺のこと何て言ってたんだ?」

 

 「わたしは全然すごくない。本当にすごいのは兄ちゃんだって」

 

 どうも妹の兄ちゃん評価は高すぎるなぁ。

 いつか暴落しそうで恐い。


 でも、かわいいことを言う妹には今度美味しいものを食べさせてやろう。

 

 それとも心を鬼にして健康第一の青汁プロテイン割りの方が良いかな。

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