番外編第2羽♡ 緒方霞縞パン裁判 閉廷後

 ※本編と違い三人称視点となっています。


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 (ぬぐぐっ……なぜこうなったのだろう?)

 

 夏休みに入った某日、緒方霞は頭を抱えていた。

 よんどころない事情により自室に縞パンがあることさくらとリナに話していた。

 

 ふたりとも十分に事情を理解してくれたので何の問題もないはずだった。

 だがしかしは現実は甘くなかった。


 さくら、莉菜を含む霞と親しい5人の少女達が連名で、縞パン所持の罰として反省文を書くよう命じられた。

 

 反省文は題名や条件が厳しく指定されていた。

 

 題名は『自室に縞パンを隠し持つ変態ドスケベでごめんなさい』。

 

 PCパソコン使用は可で文字数は最低10万字以上。文中で「ごめんなさい」の使用回数は10回まで、期限は白花学園高等部二学期始業式当日となる。

 

 学校とは別に夏休みの宿題をもう一つ出されたようなものだ。かなりきつい。

 

 しかも文字数10万字以上は多い。


 作文用紙が1枚400字のため250枚分に相当する。8月1日から1カ月間、休みなく毎日書いたとしても1日3300字以上、つまり作文用紙8枚半分程度となる。普段から文章を書き慣れている人でないと大変だろう。

   

 (そもそも10万字も何を反省すれば良いの?)

 

 (縞パンを持っててごめんなさい。よこしまなことをちょっとだけ考えちゃってごめんなさいの他に何がある?)

 

 書き始めてすぐに10万字が途方もない量であることを悟った霞は焦燥感に駆られていた。

 

 これまで課題で出された小論文も最大で3000字程度しか書いたことない。

 しかも条件で禁止されているため「ごめんなさい」を連発して文字数を稼ぐこともできない。

 

 だが冷酷非情に思える罰を与えた方も、無罪放免になるチャンスは用意していた。

 

 考案者不明の『現役JKおパンツ当てクイズ』。

 

 これはスマホに送られてきたおパンツ写真 (未使用)を見て、5人の内、誰の持ち物か当てるクイズだった。見事5人分全おパンツを当てれば勝ち抜けとなる。

 

 だが楓と莉菜と前園の三人分を何とか当てることができたが、宮姫とさくらについては取違え、惜しくも『現役JKおパンツ当てクイズ』は無念にも敗退となった。

 

 しかし敗退後も起死回生のダブルチャンスが用意されていた。

 

 ダブルチャンスは至ってシンプルでクイズでもなかった。

 

 5人のうち霞の持つ縞パンを履かせたいのは誰か、1人選べば良いだけ。


 だが霞は選ぶことができなった。

 選べなかった理由も答えなかった。

 

 こうして反省文10万字が確定した。

 

 「くっ……ダメだ……ネタ切れで書けない!」

 

 何とか3000字程度は書いたものの『私が悪かったです。申し訳ございません。今後を心を入れ替えます』を膨らませのも限度がある。

 

 「あ――! このままだと絶対夏休み中になんか終わらん!」

 

 「兄ちゃん、少し休憩するのだ」

 「……ありがとうリナ」

 

 霞の絶叫に合わせ、お菓子とジュースを持った莉菜が部屋に入っている。

 言われた通り、少し休憩することにした。

 

 「ポテチうまうま」

 

 バーベキュー味のポテトチップスを美味しそうにもきゅもきゅするリナが、リスのように頬っぺたをパンパンにしながら嬉しそうにする。

 

 「ほどほどにしとけよ。莉菜はアスリートなんだから」

 「ぶ~わかってるもん」

 

 「ねぇ兄ちゃん」

 「ん?」

 

 「わたひたちのしゅくだいをやらないでもいいのら」

 「口のポテチ全部なくなってたから喋ろうな、まぁそうなんだけどさ……」

 

 夏休みが終わる頃には、宿題を出したことすら忘れてそう。どうせネタだろうし。

   

 そもそも10万字の反省文なんて書けたところで、罰を課した側も途中で読むのを飽きてしまいそうだ。

 

 (誰も読まないかもしれないものを必死に書き続けるのも辛い)


 (……待てよ、どうせ誰も読まないなら出だしだけちゃんと書いて、途中からは好き勝手に書けば良いんじゃないか!? これなら……いけそうだ!)

 

 「ん? 兄ちゃんどうかしたのか?」

 「いや……反省文何とかなりそうだなと思って」


 「そうなのか? それはすごいのだ。ふわぁ~」

 

 莉菜は大きなあくびをすると、そのままカスミのベッドに上がり、こてんと寝っ転がった。

 

 「食べた後にすぐに寝るのは良くないぞ」

 「ん~でも眼がしぱしぱする。兄ちゃんも一緒に寝るのだ」

 

 「俺はいいよ」


 「ぶ~一緒がいいのに……ところで兄ちゃんは、何でダブルチャンスで誰も選ばなかったのだ?」


 「ん~それはだなぁ……」


 選ばれた人も選ばれなかった人も良い気分がしなさそうだから。

 そう思ったので霞は1人を選べなかった。

 

 選ばれた人、縞パンを履いて欲しいと言われた人は当然気持ち悪いだろう。

 

 では選ばれなかった人はどう思うだろうか。


 (俺が選んだ人以外はどうでも良いと思ってるみたいで、面白くないかもしれない……気にし過ぎかもしれないけど)

 

 「ってあれ……リナ?」

 「す~~~~」

 

 話し終える前に、莉菜が寝てしまった。

 ポテチ袋はいつの間にか空だが、霞は二口しか食べてない。

 

 「さっさと反省文を終わらせるかな……夏休みはイベント多いし」

 

 のんびりしていられるほど霞の日常は平和ではない。

  黙っていても五人の少女たちが何か問題を持ちかけてくる。

 

 風邪をひかない様に莉菜にタオルケットをかけて、霞は再び反省文を書き始めた。

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇

 

 二学期始業式前日、霞は見事10万字反省文を書き終え、五人宛にメールで送った。

 

 出来上がった反省文だが、元々面白くない内容をこれでもかと言うくらいにつまらなく書いたので、霞の想定通り楓とさくら以外の3人は途中で読むのを止めた。

 

 だが反省文が反省文らしいのは冒頭4000字だけで、残り9万6000字は、緒方霞の処女作である

 

 『ガテン系縞パン極貧男爵令嬢の私、ドケチ伯爵様と婚約破棄後になぜかモフモフ犬系皇太子殿下に溺愛されてます!』

 

 が記されていた。

 

 10万字書ききるなら、自分が面白いと思えるものでないと書ききれない。

 

 そう考えた霞は、9万6000字を大好きな令嬢モノ小説にした。

 

 誰も読まないしだろうし、恥ずかしいので読んで欲しくない。

 

 それでも書き終えた霞には十分すぎる満足感があった。

 

 だが霞の想定に反し、生真面目な楓は脱落することなく読みきったので、読了後に小説内容について質問攻めされた。


 なぜ冒頭から婚約破棄されたのか、令嬢モノのセオリーから霞は説明することとなった。

 

 さくらも多忙の合間に読み終えていた。

 

 しかも国内屈指の小説投稿サイト「お小説を書いてやるZE♡ ヒャッハー!」にカスミン名義で、『ガテン系縞パン極貧男爵令嬢~』を勝手に投稿してしまった。

 

 『ガテン系縞パン極貧男爵令嬢~』は残念ながらヒットとならなかったが数件程度、読者から感想が届いた。

 

 だがいずれの感想も「縞パンネタがなければ良いお話」というものだった。


 読者感想を一つ一つ目を通しながら、さくらはひとり呟く。


 「ざまぁはちゃんと書けてたけど、やっぱり縞パン要素は不要ね……次回作で縞パンを入れようとしてたらプロット段階で先生を止めないと」


 カスミン先生担当さくら編集は反省と課題定義を怠らない。

 

 だが人生一度きりの16歳夏にノリノリで令嬢モノ小説を書いた緒方霞は知らぬ間にネット小説デビューした事実を知らない。

 


 緒方霞縞パン裁判 完


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☆おまけ 縞パン小説界の鬼才カスミン先生次作品候補  


・恋と檸檬と縞パン宇宙……(青春・セカイ系)

・晩夏の蝉時雨と縞パン(純文学)

・第28縞パン艦隊インテグラル回廊攻防戦 (スペースオペラ)

・明日から俺、縞パン履きます! 死苦夜呂しくよろ!(TS)

・誰が縞パンを洗濯したか (推理・ミステリー)

・恋に恋する縞パン (ポエム)

・縞パン転売から始まる異世界スローライフ (異世界転移・転生)

・縞パン好きがバレた俺、勇者パーティーから追放されたけどS級スキル縞パン無双で美少女だらけのハーレムギルドを作ることにしました。前のパーティーが大ピンチらしいけど知りません! (追放もの)

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