第160羽♡ 天使の行方

  

 「あの……ノーラさん良いでしょうか?」

 「何かしら?」

 

 「さすがに高校生の男女がふたりだけで住むのはアウトかと」

 「あらそう?」

 

 「学校だけでなく世間的も黙っていないと思います」

 「では予定通り凜はパリの学校に転校するしかないわね」

 

 「それも困ります」

 「でも他に方法はないでしょ?」

 

 ……確かに俺の頭の中には今、良い案がない。

 

 ノーラさんはオレと前園の同棲というとんでもない提案をしてきた。

 

 でも最初からそんな事をさせる気はないのでは。

 

 頭ごなしに日本に残る方法を全て否定するのではなく、俺や前園に無理だと理解させた上で、前園のパリ行きが確定する。

 

 大人らしいスマートな話の進め方だとは思う。

 

 そしてノーラさんの呑める妥協案は、時任蓮司の実家への下宿だけ。

 

 ――いや待て、ひょっとしたらこっちがノーラさんの本命かもしれない。

 

 家に前園がいることで蓮司さんは気まずいと思ったが、ふたりが急接近する可能性もある。

 

 少なくてもノーラさんは昨日知った俺より、旧知の蓮司さんを信頼しているのは当然だ。


 俺としてはもちろん面白くはないが……。


 では学生寮でも時任家でもない、どこかの一般家庭で下宿先はあるだろうか。仮にあったとしても見つけるのは簡単ではない。

 

 そもそも高校生の俺には、出来ることが限られている。だからと言ってそう簡単に諦めるわけにはいかない。

 

 わずかでも前園を助ける可能性があるなら俺は何でもする。



 

 7月31日を皆で超えるために……


 

 

 「すみません。ちょっと席を外して良いですか?」

 「……えぇ構わないわ」

 

 「緒方どうかしたか?」

 「ごめん、ちょっとトイレ」

 

 「そっか……行ってらっしゃい」

 

 前園は笑顔こそ浮かべているが、何時ものとは違う。

 今のところ、日本に残る良い方法が模索できず不安なのかもしれない。

  

 ……ごめん前園、俺が必ず何とかする。

 だからちょっとだけ待っていてくれ。

  

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 前園親子を個室に残し、俺は寿司店から外に出てスマホの通話ボタンを押す。

 

 5コールほどして後に、相手から反応があった。

 

 『はい……』

 「もしもし宮姫、悪い、今大丈夫か?」

 

 『うん……お食事会はもう終わったの?』

 「まだ継続中だよ。ちょっと相談したい事があって」

 

 『何かな?』

 

 「このままだと前園が日本に残るのは難しい。蓮司さんの実家に下宿すれば可能だけど、俺はマズいと思っている。蓮司さんがいる事自体が」

 

 『あの人はとても素敵な人だよ。お凛ちゃんの事をとても大切に想っている。でも今のお凛ちゃんは蓮司さんの気持ちには応えられない』

 

 ……やはり宮姫は蓮司さんと前園の両方の気持ちを理解している。

   

 「前園の下宿先を探さないといけない、どこか心当たりはないかな?」

 

 『急に言われても困るよ。都内に親戚が何軒かあるけど、どこも頼むのは難しいと思う』

 

 「そうだよな……無理強いはしないけど、おじさんとおばさんにも良さそうな知り合いがいないか、それとなく聞いて貰えないか」

 

 『わかった。わたし以外にも他に当てはあるの?』

 

 「ふたつほどある……一つはあまり使いたくない、もう一つは……俺がウチに前園を住ませるって言ったら宮姫はどう思う?」

 

 『それだけは絶対に嫌、何が何でも嫌!』

 

 「……だよな。変な事を聞いてごめん、さすがにそれはないよ」

 

 『冗談でもやめて』

 

 宮姫らしくないすごい剣幕で怒られた。

 

 そう言ってくれると思っていた。

 予想通りの回答に何だか安心する。

 

 「せめて俺達が大学生なら、他の方法があったかもしれない。例えば宮姫と前園が同じアパートにルームメイトとして住むとか」 


 『そうだね……でも今のわたし達じゃどうしようもないよ』

 

 そうだ……俺達はまだ高校生で、どう背伸びしてもまだ子供だ。 

 だから宮姫には今の俺達にできそうな解決方法を一緒に探してほしい。

 

 

 『緒方君がさっき言っていた使いたくないもう一つの方法って?』

 

 「とある豪邸に住むことだよ。が住んでいるけど前園なら大丈夫だろ、家主は恐らくダメと言わないし、ノーラさんも安心できる環境だと思う。……と言うか恐縮するかもしれない」

 

 『それってもしかして……』

 「宮姫もよく知っているの家だよ」

 

 『緒方君……自分がやろうとしていることをちゃんと分かっている?』


 幼馴染はたしなめるように俺に言う。

 

 俺の事情を知っている宮姫だからこそ、そう考えるのが普通だよな。

 あの家に前園が住めば、俺は少なからず影響がある。

 

 前園には隠していたことも、明かさないといけない。

 

 「わかっているよ……でも前園のためなら」

 『緒方君がそこまで覚悟を決めているなら、わたしもできる限り頑張るよ』 

 

 「あぁ頼む」

 『じゃあ切るね……お凛ちゃんの事を教えてくれてありがとう』

  

 宮姫との電話を終えた後、俺はすぐにあの人に連絡を入れた。

 

 確認すると一度は電話を切ったが、数分後には前園受け入れOKの一報が届いた。

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