第161羽♡ 突然ですが婿になりませんか? 今なら山が付いてきます!
「なんと!? 凛ちゃんがさくらの家に住むかもしれないと?」
「……まだ分からないけどな」
前園親子との会談は答えが出ないまま、お開きとなった。
ノーラさんが俺と前園のルームメイトの話を出してきたのは想定外だったし、俺が前園の下宿先として、あるお屋敷を提案したのもノーラさんは想定外だっただろう。
帰宅後、事の顛末を家で待っていたリナに説明する。
お土産としてコンビニで買ったシークワーサー入り野菜ジュースを「何でスイーツじゃないのだ?」と不満を言いながらも美味しそうに飲んでいる。
「しかしそれは由々しき事なり」
「ん……何かマズいか?」
「君は、赤城さくらが何の見返りもなしに協力してくれると思うのかね?」
「普通に協力してくれるだろ、さくらはああ見えて結構お人好しだし、普段から誰に対しても親切」
「ちがーーう、そうじゃないのだよ緒方君!」
俺が喋る終える前にリナが絶叫し言葉を遮った。
「何がだよ高山さん?」
「ここは『そうだなリナ、あのさくらの事だ悪の組織で胸元強調、超ミニスカ、へそ出しルックを着た女幹部として、世界征服の片棒を担がせるつもりかもしれないな』と苦言を呈するところだぜ!」
「なぜにへそ出しルック?」
「悪の女幹部はお色気ムンムンと、20世紀にテレビの地上波放送が始まった頃から相場が決まっている」
お前は21世紀生まれだろ、懐かしのヒーロー戦隊特集でも見たのか?
「さくらなら前園の力を借りなくても一人で世界征服くらいしそうだし」
「せやな、あっさりと世界征服してしまいそうでござる……で凛ちゃんはこの後どうなるのだ?」
「明後日の7月21日、お母さんのノーラさんと一緒に赤城家を訪問する予定」
「へ~わたしは行った事ないけど、さくらの家って凄いわけでしょ?」
「まぁな……お城というか忍者屋敷というか」
「よくわからないけど、凛ちゃんママもびっくりするかもしれないのだ」
「そうだな……でも今の前園家はタワマンだし、割と平気だったりして」
「何だと!? セレブしかおらんのか我々の学園には……わたしの実家はどうなる?」
「少なくてもウチは一般家庭だし。リナの実家は好きだぞ、風が良く通るから気持ち良いし、縁側で風鈴の音を聞きながら、
「にゅふ!?」
「どうした変な声を出して?」
「に、兄様に至急お伝えする事がござる……父上が新たにゲットしたレトロゲーコレクションを見せたいから顔を出せと」
「そうだな……やりたいなぁレトロゲー、おじさんはゲーム機も昔のヤツに
「あと兄様が料理にハマっているって伝えたら、母上が作り方を教えたいと」
「おばさんの筑前煮や煮っころがしはマジで美味いからなぁ。あの味をイメージして作るけどまだまだでし……是非、聞きたいな」
「あとばーちゃんが……」
「うん」
「えと……あの」
「ん? どうした?」
「爺ちゃんが迎えに来る前に、早く婿を連れてこいって、自分は晩婚で体力的に子育てが大変だったから、早めに産んだ方が良いよって」
「そ、そうなんだ。ばーちゃんらしいな」
「う、うん……」
婿って誰の事でしょう?
何てすっとぼける事はできない。
リナのいないところで事ある毎に、ばーちゃんには甲斐性なしとか、早く覚悟を決めろとか、散々言われたから。
「家は今風にイノベーションしても良いし、落ち着くまでは、東京との二拠点生活でも良いって、どうかな兄ちゃん……おまけでわたしが付いてくるけど」
もじもじしたリナが俺の様子を窺うように赤い顔をして上目遣いで言う。
いきなり提示された条件が破格過ぎる。
高山家は、のんびりした水田農家だが、既に亡くなっているリナのお祖父さんは、村議会議長を長年務めていた事があり、村内では知らない人はいない有力家の一つだ。
もちろん都心にある旧華族の赤城家とでは比べようもないが、裏山、家、田畑を合わせた総面積は、恐らくプロ野球を行うドーム球場の10個分以上はある。
通った小学校まで徒歩で30分近くかかったが、そもそも高山家の敷地から出るのに10分以上かかった。
「リナが食べるから沢山お米を作らないと大変だな」
「う、うん……でもご飯もデザートも控えめにするのだ」
「トラクターって免許を取るの大変そうだよな、あとトラックも運転するから大型免許とか」
「レーシングゲームとか操縦系は得意だし、わたしがやるから大丈夫なのだ、兄ちゃんはやりたい事だけやってくれれば……」
「そもそもリナは高校卒業後はサッカー選手としてプロ志望じゃないのか?」
「……決めてない。プロ契約の話は去年幾つかのクラブから貰ったけど断ったし」
そもそもリナは今の段階で普通の高校女子サッカー部に在籍するレベルではない。
年代別女子サッカー日本代表でもリナとさくらは飛び級で選出されており、常に年齢より上の年代カテゴリでプレーしている。選手としての将来を考えるなら、すぐにでもプロクラブと契約すべきだろう。
リナは敢えて部活動の範囲に留まっている。
普通の高校生として白花学園に通うためか……。
「先の事はじっくり考えないといけないな俺もリナも……」
「う、うん……そうだね。すぐには決められないよね。 あっ! 今はわたしの話じゃなくて凛ちゃんの話だった! ごめん兄ちゃん」
「そ、そうだな……じゃあ話を戻すか」
決められないからとりあえず保留にする。
リナがどれだけの覚悟で言ったのかはわからない。
「兄ちゃんは、凛ちゃんがさくらの家に住む事は平気なの?」
「前園が納得するなら……リナならわかるだろうけど、元々家族じゃなかった人の家に住むのは大変だし」
「わたしは参考にならないよ……それよりどうして『前園、黙って俺の家に住め』と言わなかったの?」
「さすがにウチは無理だろ……親父もうんとは言わないだろうし」
「ふーん、ちょっと待っているのだ。とう!」
ソファーから飛び上がると身軽な猫のようにスタっと軽やかに着地する。
そのまま一人リビングから出ると、小走りで親父の部屋に向かう。
「おじさん。拙者でござる! 御免~」
へっぽこ忍者は、ルール無用で仕事時間中の親父がいる部屋に侵入し、そのままドアを閉まる。
中の声は聞こえない……。
それから待つこと五分、RIMEの着信音が鳴り、親父から『向こうの親御さんが納得している事、高校生として恥ずべき行為をしないならOK』とメッセージが届く。
え――!?
クラスメイトを住ませるとか、いくら何でも自由過ぎるだろ、どうなっているの緒方家!?
どうしてそんな易々とリナは親父の部屋に入れるの?
普段からそうなの?
俺は今週一度も親父を見てないよ?
前園と一緒に暮らしてもリナは平気なの?
自分の家なのにわからない事ばかりで頭がバグる。
こうして急転直下で、前園下宿先の候補として明日緒方家も提案する事になった。
怒られるから宮姫がいるところでは絶対に言いたくない……。
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