第143羽♡ 楓を探せ!

 

 ――7月17日火曜日の放課後。

 

 午後の授業もイマイチ身が入らなかった。

 俺と同様に朝から色々あった宮姫は、その後大丈夫だっただろうか。

 

 誰かに宮姫の様子を聞こうにも、同じA組のリナやさくらはインターハイ予選で不在のため他に話せる友達はいない。

 

 やはり学生生活において人望がないのはキツい。 

 

 よし!

 後で友達の作り方をネットで調べてみよう。

 既に100回くらい検索したと思うけど。


 「緒方、大丈夫か?」

 「あぁ、ちょっとだけ体調が悪かったけど今は大丈夫だ。昼飯を食べてないから腹は減ったけど」

 

 四時間目の授業をサボったことを気にかけてくれたのか、数少ない男友達の広田が声をかけてくれた。嘘を付くのは気が引けるが他に言い様もないため体調が悪かったことにした。

 

 もう一人の男友達、残念イケメンこと水野は男子サッカーインターハイ予選のため今日は不在だ。

 

 「ならいいが、ところ宮姫と付き合ってるのか? 昼頃から緒方や宮姫の噂が飛び交っているのだが」


 「そんなことは絶対にない。どう考えても俺と宮姫じゃ釣り合わないだろ」

 

 「うむ……確かにそうだが、今朝緒方と宮姫と一緒に登校してたのを朝練のある生徒が目撃してたようだ。しかも、さっき緒方が授業を欠席した時間帯に宮姫もA組の教室にいなかったらしい。それでふたりがどこかで密会していたという噂まで流れている」

 

 「なっ!?」

 

 実際、密会とも言えなくもない状況だった訳だが、当然事実として認めるわけにはいかない。

 

 「宮姫とのことが本気なら止めない。もし誤解なら早めに手を打った方がいい。この学園で宮姫と前園に手を出すことは、生徒の大半を敵に回るのと同義、命がいくつあっても足りん」


 「だから手なんか出してないって!」

 

 「それに今日は望月さんが一人で登校してたらしいな、寂しそうにしている姿を目撃されている」


 今朝はエリーの散歩後、宮姫と登校したため普段俺と一緒に登校している楓には一人で登校してもらった。

  

 そう言えば、朝から一度も楓と話していない。

 いつもなら休み時間に必ず声をかけてくれるのに……。

 

 噂は楓の耳にも届いているかもしれない。

 

 気にしていないかもしれないが、話せる範囲で宮姫とのことを早めに話しておいた方が良い気がする。


 教壇そばの楓の席を見る。

 鞄が机の上に置いたままなので、どうやら校内には残っているようだ。

 

 ポケットからスマホを取り出し、楓に電話をかける。

 15コールほど待ったが、出る様子はない……。

 

 「くそ……」

 何だか無性に気になる。

 

 「広田、楓がどこに行ったか知らないか?」

 「さっきクラスの女子達と出て言った気がするが、ひょっとしたら見間違えかもしれん」


 「そっか。悪い俺ちょっと楓を探してくる、またな」

 「うむ」

 

 広田と別れると俺は教室の外を走り出した。

 

 図書室、職員室前、屋上出口、カフェテラス。

 一通り見て回ったが、楓は見つからない。

 

 グラウンドや体育館は、運動部が使っているため楓がいるのは

 考えにくい。

 

 下手に動き回らず、大人しく教室で待っていた方が良いだろうか。教室に戻って来た楓とすれ違ってしまうかもしれない。

 

 いや……もう一か所だけ確認した方が良さそうなところがある。

 あそこを探してもダメなら一旦諦めよう。


 俺はわらにもすがる思いで、再び目的地に走り出す。

 

  



 いた……。

 

 朝顔のプランターが並ぶ中庭に見慣れた黒髪の少女は佇んでいた。

 

 知らない上級生の男子と供に……。

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