第146羽♡ 第六の天使
「あの……質問良いですか?」
「もち、いいぞよ」
加恋さんの語尾は変わらず怪しい。
と言うか、どんどん訳が分からなくなっていく。
「どうして中等部からの編入組と高等部受験組で学園が二分されるんですか?」
「編入組は中学三年間で人付き合いが出来上がってるでしょ。それを見て受験組は近寄りがたい壁を感じるらしいよ。一方受験組には尖っている子、マイペースの子が多いように編入組は感じる。あとは受験で狭き門を突破しているから、やる気スイッチが入る高三くらいまでは、編入組より受験組の方が成績の良い子が多いの。だから受験組に対して若干の
言われてみると、学園には中等部出身者だけのコミュニティのようなものが存在する。わたしはそうした事情に関係なく安定ボッチだから、気にしてないけど。
「それで生徒会選挙で同じ役職に編入組、受験組の双方から立候補者が出ると、編入組の生徒は、大抵は同じ編入組の候補者に票を入れるってわけ。絶対ではないけどね」
「では選挙戦に勝つには、その辺の事情を考慮して戦略を立てないとダメですね」
「そうだね。楓が本当に立候補するならね」
「ありがとうございます。ところで現生徒会と加恋さんと距離が出来た原因ですが、本当にわかりませんか?」
「……恐らくこれじゃないかと思うのがないわけではない」
「と言うと?」
「実は在学時に三角関係……いや違うな、四角関係になっていたことがあって……でも結局あたしは振られたけど」
「どうしてそんな複雑なことに!?」
「乙女の恋はいつの時代も複雑なもんじゃ。カスミンも同じ
「いやいや、わからないです。女子じゃないので」
「え――ウソん?」
「わざとらしいボケは要らないです」
「そんな緒方きゅんには、せくしーな年上オネエサンが恋の手ほどきをしてあげるでありんす」
加恋さんが不敵な笑みを浮かべてる。
せくしーな年上オネエサンは嫌いじゃない。むしろ憧れる。
だけど加恋さんは違う。
精神年齢がわたしと変わらないか、それ以下だし。
「是非、そうして頂きたいところですが、まずは妹さんの許可を取ってください」
「スマセン、今の話は無かったことで……楓は滅多に怒らないけど、いざスイッチが入ると超恐いのよ」
「それすご~くわかります。下手をしたらこの世界が丸ごと終わる勢いですよね」
「そうそうそうなのよ……やっぱ余計なことをするのは控えるよ、くわばらくわばら」
さすが楓姉……良くわかっていらっしゃる。
楓と姉妹になってまだ一年ほどだけど上手くやれている様だ。
「現生徒会との関係修復は難しいですか?」
「あたしは何の遺恨もないから構わないよ、でも向こうは違うでしょ」
「そうですよね」
「まぁ……あの子の気持ちもわからんでもないしね。当時は思いつかなかったけど、もっと上手いやり方があったかもしれない」
「あの子とは?」
「高等部三年で現生徒会長雪村
――面識はない。
ただ生徒会長として壇上で臆することなく、淡々と話す姿を何度か見たことがある。
もちろん雪村先輩が天使同盟なのも知っている。
だけど今のところ堕天使遊戯には一切関わってないから、注意を向けていない。
とは言え、接触する場合は事前に宮姫に相談した方が良いだろう。
「ところで生徒会と非公式生徒会は本当に繋がりがないのですか?」
堕天使遊戯に加恋さんを巻き込むつもりはない。だけど元生徒会長として何か知ってればもちろん聞きたい。
「非公式生徒会かぁ……懐かしい響きだね。繋がりはないよ」
答えは想定通りだった。
また加恋さんが嘘を言っているようには見えない。
「加恋さんも非公式生徒会については何も知らないってことですか?」
「うん。そもそも非公式生徒会は天使同盟を選ぶだけの組織だしね。あたしも在学中に気になって調べた事があるけど何も出てこなかったな」
「では生徒会に非公式生徒会メンバーが含まれている可能性はありますか?」
「……あるかもね。ところでカスミンは随分と非公式生徒会にご執心だね」
「正体不明の組織を、誰も気にしていないのが不思議だと思いまして」
「確かにそうだね……でも非公式生徒会は学生生活を盛り上げるための、言わばスパイスみたいなものだとあたしは思うよ」
加恋さんには非公式生徒会に悪いイメージはないようだ。
「それにしても非公式生徒会とか天使同盟とかあの頃が懐かしいよ。今年は誰が『
「何ですかそれ?」
「あれ? 知らなかったか……白花祭で天使同盟メンバーからその年のナンバーワン、一輪の白百合を生徒投票で決めるの」
非公式生徒会は元々白花祭で行うミスコンのために作られたと宮姫から聞いている。ミスコン自体はまだ残っていたのか。
「イベントとしては盛り上がりそうですね」
「うんすごいよ! あたしは一輪の白百合になれなかったけどね」
高等部在籍中だった二年前の加恋さんを知っている。
才色兼備で思いやりのある非の打ち所がない人だった。
この人を上回り一輪の白百合になったのはどんな人だろう。
「もし楓が一輪の白百合になったら、生徒会選挙も優位に戦えますよね?」
「そうかもだけど生徒会選挙は白花祭の前だから、時期が合わないかな」
となると楓が選挙で勝つには、現生徒会を無視して票を集める方法を考えるより、現生徒会と加恋さんの不仲を解消して、現生徒会に推薦を貰えるように仕向けるべきか。だけど肝心の雪村先輩をどう切り抜ける?
「お~なんか難しい顔をしているね~楓を応援するなら、まずは仲間を集めた方が良いよ。今の一年なら編入組の前園さんと宮姫さん……あのふたりを抑えたいところだね」
「知っているんですか!? ふたりのこと」
「そりゃ中等部のアイドルだったからね。数々の武勇伝もあるし。元気にしている?」
「はい、もちろん……」
直近でふたりとわたしの間で色々ある事は加恋さんには言えない。
「良いよね~姫園のふたり。すごい美人さんだし~目の保養になるって言うか。ふたりだけのキラキラした世界にいるから、見ている方が恥ずかしいと言うか、ドキドキしちゃうんだよね~」
加恋さんは両手を頬に当てて嬉しそうに話す。
……どうやら前園と宮姫は以前から隠し事が下手だったようだ。
さすがにイチャイチャするなとは言えないけど、遠回しにでも注意しておいた方が良いかも。
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