第6羽♡ 夏みかん+締め技=ギブですオワタ


「で……どうよ兄ちゃん?」 


 寝起きの可憐さはどこへやら、リナは両手で俺の背中をロックして俺を締め付けると高校生男子としては垂涎のもので、良識あるお兄ちゃんとしては大ピンチの一撃必殺の締め技で落としにくる。

 

 薄手のパジャマ越しに伝わる小ぶりなそれは押されても押し返してくる柔らかさがあり何ともよろしくない……。

 

 むにゅ~~~~ぽょよ~んって感じ。

 

 ダメだぁ! こんなの――! 


 『ギブですギブ~おやっさん! この試合俺の負けです。早くタオルを投げ込んで降参させてください!』と心の中のボクシングトレーナーに向けて絶叫する。

 

 だが残念なことに俺はリングと言う名の四角いジャングルで戦う一匹の孤独な獣ではない。アイキャッチを付けたおやっさんことボクシングトレーナーもどこにもいない。

 

 そもそも戦っている相手は美しき飢えた狼ではなく、ただの駄々甘ロリっ子義妹もどきでしかない。


――勝てる気は全くしない。

 でも自力解決するしかない。

 

「何やってんの? 何やっちゃってくれてるの!? 離れろ~!」


 兄ちゃんもお年頃なんだよ~もうやめてぇ~! 

 じゃないと理性が壊れちゃう~! 

 

 いけない兄ちゃんになっちゃううう!!!


「がっはっはっはっは~離してほしいか? 全ては昨日楓ちゃんと凛ちゃんのおっぱいをガン見した兄ちゃんが悪い! まずは反省しろ~!」


 うそぉ!?

 そんなに見ちゃってた? 

 

 しまったぁ~! チラ見程度のつもりだったのに~!


「す、すいませんでした~つい出来心で――! って昨日俺をけしかけたのはお前だろうが!」


「愚か者~妹のせいにすんな~! このド変態のド畜生がぁ~! はぁぅん!? くっ、昨日言ったけど最近敏感になってるのは事実、特に先っちょはヤバし……あんまり動かないで兄ちゃん」


 逆ギレされた? 酷くない?

 ちょっとお隣の奥さん聞いてくださいよ~。

 

 うちの妹が理不尽過ぎるんですけど~!? 

 何で逆ギレされているかもわからないんですけど~?

 

 ていうかその敏感情報要らねーよ!  

 この状況から離脱したいんだよ俺はぁあああ!!

 

 ちなみに家はマンション三階の角部屋だけど隣の部屋しばらく空き家だ。

 よってお隣の奥さんは存在しない。


「まぁしかし昨日、皆の前でおっぱい話を出したのは他ならぬわたしではあったな……うむ」


 そうだお前だリナ、だから俺悪くない! 

 よってチラ見は不可抗力!


 リナがようやく離れてくれた。

 そして暴力的に柔らかなアレからも解放された。ちょっと残念な気がした……ホントにちょっとだけだからね、勘違いしないでね!

 

「マジで朝から何を考えてるんだ?」


「朝からではないのだよ、昨晩この荘厳にして華麗な『ダメだよお兄ちゃん! わたしたちは兄妹なんだから~現役JK義妹リナちゃんの危険な生乳ハプニング大作戦』を思いついてしまったのだよ! どう恐れ入った?」


「いや全然、むしろ呆れてる。作戦名が長すぎるし……あと、そんなこと考えてる暇があったら、もっと勉強してくれ!」


 おバカ妹の学校成績がやばい。

 部活を頑張ってる分、多少勉強が疎かになることを仕方ないとしてもそれ以上にやばい。

 

 ちなみに俺も人のことを言えるほど勉強は得意ではない。前回のテストは楓の助けがあって何とかなった。

 

「しかし作戦実行にあたり重大な問題があった」


 シリアスな表情をしたリナは話を続ける。


「まだ続くのかその話? ていうか勉強の件はスルー?」


「普段のわたしは寝る時パジャマの下にキャミソールを着ている。キャミソールをつけて寝ると抑えつけられてるような寝苦しさは感じる。只今絶賛成長中だからね。


 しかしだ、おっぱいは一日にしてあらず。来るべき最終戦争ラグナロクに備え、形が良く張りがあり手触りグッドなおっぱいを育てるためなら多少の寝苦しさも我慢しなければならない。


 ただし朝起きて意識がクリアになると既に兄ちゃんに抱きしめられてることがほとんどであり、これでは起きてからすぐキャミソールを脱ぐという複雑なミッション遂行は不可なのである」


「ほほう」


「そこでだ、わたしは敢えてキャミソールを着ないで寝ることにした。

 

 これで懸念事項はクリア、備えあれば憂いなし! かくして嬉し恥ずかしの生乳アタックは見事に炸裂! 

 

 兄ちゃんはぐへへっ、わたしはいや~ん、これが真理であり真相だぁあああ!」


 我らが偉大なる統合軍作戦参謀リナ・フォン・高山上級大将閣下は右手で拳を作り、綿密な作戦計画に伴う戦果を強調した上で高らかに勝利宣言を出した。

 

「振りは長いけど実態はただただアホなだけの作戦だな」

「アホではな~い! どこにでもいる兄妹のほのぼのスキンシップであ~る!」


「ほのぼのスキンシップはもっと普通のにしてくれ」

「じゃあ、頭をナデナデしてくれたまえ」


「へーい」


 リナの頭を手を乗せ優しく撫でる……。

 小さな丸い頭とさらさらな栗色の髪は柔らかく、手の隙間を髪が流れていく。

 

「……ん、えへへ」

 

 目を細め頭を俺の胸に預けて気持ち良さそうにしている。

 子供の頃から変わらないあどけない笑顔。

 

「どこにも行かないで兄ちゃん」

「行かない」


          

 行かないじゃなくて

 俺がリナのそばを離れられない。

 

 こんなにも儚くて愛おしいから

 また失うのが恐いから


「ん~もう大丈夫」

「おう」


 惜しみながらリナの頭からそっと手を離す。

   

「改めておはよう兄ちゃん」

「おはようリナ、朝ごはん用意しておくから支度できたら出来たらすぐ来いよ」

「うん!」


 白花学園高等部天使同盟一翼『気ままな天使』は朝の日差しより眩しい笑みを浮かべる。

  

「ところで兄ちゃん、まだ感想を頂けてないのですが……いかがでした? 発育途中ぷるぷるの夏みかんは?」

「……黙秘します」


「なっ? マジで!? このヘタレがぁ~!」


 リナが信じれない~という顔で絶叫した。


 今日も朝から義妹もどきが騒がしい。誰か黙らせてくれ……たまには静かな朝を迎えたい。

 

 窓の向こうから小鳥達のさえずりが聞こえる。

 今日もいつもと変わらない日常が始まる。

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