第7羽♡ 目指せ! 国家一級フラグ建築士乙
「もう東京に慣れたか?」
キッチンに戻った俺は引き続き弁当作りの続きをしながら、リビングで朝ごはんを食べるリナに話しかける。
上京してかれこれ三か月。
リナの実家のある村は電車は一時間に一本程度で、移動は公共機関を使うより専ら自家用車を使うことが多い。
のどかで良いところだけど四方が山で囲まれており、夜になれば真っ暗でたまに野生の猪や狸が出る。
アニメや映画に出てくる「もののけ」が出てきても不思議に思わない田舎だった。
「ん~混んでる電車は苦手だけど登下校くらいなら平気」
カリカリに焼いたベーコンをトーストに乗せてものを小さな口でモグモグしながら答える。
「無理するなよ」
「はぁ~い」
リナを横目で見ながら、もうすぐ仕事を終える親父の朝食も用意する。
親父は外資系企業のエンジニアで勤務体系がテレワークだからいつも家にはいる。
関わっているプロジェクトがアメリカ本社の仕事らしく勤務時間もアメリカ時間に合わせている。
そのため日本時間と九時間ずれた日々を送っている。
俺やリナとは生活が合わず、一緒に住んでいても顔を合わせるのは数日に一度くらいになる。
しかも仕事に熱中すると二日程度、部屋に閉じこもる事もある。
作り置きして冷蔵庫に入れたおかずや、お弁当が無くなっていること、たまに部屋からの物音やハイテンションで英語で叫んでいること、洗濯籠に洗い物が入ってることから生きていることはわかる。
家にいながら親父不在が長すぎて、時々三人暮らしなのを忘れそうにもなる。
世間一般の家族に比べれば話す機会は少ないかもしれない。
だからと言って仲が悪いわけではない。
相談すればちゃんと答えてくれる。
でも親父は浮世離れしているところがあり、返ってきた意見はあまり参考にならない。
ほとんど憶えてないけど母さんも親父には苦労したんじゃなかろうか。
リナは部活の朝練のため、朝食を食べ終えたら俺より一足先に学校に向かう。
お弁当は学校の休み時間に渡している。
「兄ちゃん、たまには寝ぐせ直して登校すれば?」
「別に直さなくても昼頃になれば勝手に収まるよ」
俺の髪質は柔らかくて寝ぐせが付きやすい、しかも癖っ毛。
長くなると植物の
洗面所にある寝ぐせ直しを使えば直せる。
そんな時間があれば一秒でも長く寝てたいし、俺の髪型など誰も見ていないから直す必要もない。
「髪をちゃんとすれば少しはモテる……というかすでにモテモテだったね」
「別にモテてないだろ」
「え~女の子を五人も囲っててそりゃないぜ」
「お前らが勝手に俺の周りで騒いでるだけだろ」
「それをモテてるって言うんだよ兄ちゃん」
毎日話をする女子高生が五人もいるのは確かに恵まれていると思う。
しかしである。
五人のうち赤城さくら、高山莉菜、宮姫すず、望月楓は高校に入る前からの顔見知りで前園凛と知り合ったのは高校入学後だけど、席の近いクラスメイトだから喋る事自体は特別ではないと思う。
でも、この白花学園天使同盟メンバー五人と毎日喋ってる男子が他にいるかと言うと恐らく俺だけ。
天使同盟メンバーはそれぞれ絶大な人気がある。
学園中の男子どもに目の敵にされるのも当然と言えば当然だけど、別に俺は何も悪いことはしていない。
……なんだか浮かばれない。
「誰でもいいわけじゃなく兄ちゃんだからわたしたちは気にしてるんだよ。よく考えてね! ここ次の試験にも出るから」
いたずらな表情で舌をペロッと出して言う。
オレンジジュースを飲んでいるせいか舌に色がついてる。
「何の試験だよ? それ」
「ふっ、知れたこと国家一級フラグ建築士乙認定試験よ!」
瞳を輝かせたリナが怪しげな資格名を挙げる。
「どんな資格だ?」
「国家一級フラグ建築士乙は十五歳以上の男性だけが取得できる国家資格です。
普通自動車免許と同程度人気があります。
資格をゲットすれば多数の美少女にフラグを立てれます。イチャイチャOK、ラッキースケベOKと良いこと盛沢山、全男子垂涎ものの神資格です!」
訪問販売やテレビショッピングのような丁寧口調でリナが説明がする。
やはり禄でもない内容だった。
「いらん……その資格」
「マジか!? わたしが男なら絶対に取るよ国家一級フラグ建築士乙! ただし何かを得えば何かを失うのが人の世の定め、国家一級フラグ建築士乙も例外ではありません。
得るのは複数の美少女、失うのは同姓の友人。
リスクを伴いますが、右手左手で違う美少女のおっぱいを揉める素敵に淫らな日々があなたを待ってます!」
「両手で揉むな! ほとんどいないけど男友達失うのはやばいだろ、そもそも女子の敵じゃなねーか国家一級フラグ建築士乙!
とりあえずリナが女の子で良かったよ。変な資格取れないし、あと俺は普通の高校生活を送りたいから、やっぱいらん」
「謙虚だね~でも兄ちゃんの言う普通っていうのが一番難しいと思うよ……まぁ精々頑張ってね緒方君、同級生の高山さんは先輩達が来る前に朝練の準備をするからそろそろ出かけるね、よっと」
意味深な言葉を残しリナは椅子から立ち上がると食べ終わったお皿をキッチンの流しに置く。
「……ちゃんと歯磨きしてから行けよ」
「またそうやって妹扱いする~」
柔らかそうなほっぺをぷくっ膨らませて、むくれたような声を出す。
「妹だろお前は」
「そうだよ兄ちゃん……でも同時に普通の女子高生でもある。
そこんとこよろしく~」
今度はやや目を細め大人びた笑みを浮かべる。
……前はこんな風に笑わなかった。
春から一緒に暮らすようになってから、
以前は見せたことがない表情をするようなった。
年頃だし少しは大人になったのかもしれない。
でも何かが違うように感じる。
魅力的だけど、どこか物悲しくてどこまでも遠い……。
まるでリナじゃない別の女の子のように感じる。
君は誰?
おっと……いかんいかん!
寝不足で頭が回ってないのか朝からポエミーなことを考えてしまった。
ちとハズい。
リナはリナだし……。
「なぁ国家一級フラグ建築士乙はどうして男しか所得できないんだ?」
「それはだね兄ちゃん、女子同士って仲良いと普段からハグとかするやん?
偶然触れちゃう機会が多いから国家一級フラグ建築士乙はいらんのだよ!
女子は生まれながらにして友パイのソフトタッチまではノーカンになる国家三級おっぱい診断士資格を持っているのだ~! がっはっはっはっはっは!」
シリアスな雰囲気から一転し元に戻った義妹もどきがバカ笑いをする。
……すいません。
聞いたワタシがバカでした。
聞かなければ良かったです。はい
仮にそんな資格を持ってても国家一級フラグ建築士乙も国家三級おっぱい診断士も履歴書の有資格欄項目に書くのは恥ずかしいです。
「参考までに診断士としてわたしの調査結果だけど、楓ちゃん凛ちゃんは超高校級スラッガーですな。
高一が十五または十六歳いう年齢なのを完全無視していらっしゃる。あれはチートでござる。
次にすずとさくらだけど……」
「よせ! それ以上言うな~!」
「むご? むごごごっ!?」
俺はエプロンで手を拭いた後、素早く隣に立つリナの口を塞ぐ。
「言論の自由を守れ、不当な弾圧だ!」と抗議しているような気がするが全無視する。
こうして俺は天使たちのデリケート事情を白日の下に晒そうとする暴露系義妹もどきの陰謀を阻止し今日も平和な日常を守った。
「兄ちゃん急にわたしの口を塞ぐな~ 朝から身の危険を感じたぞ~」
「プライバシーを守るため当然の処置だ! 我慢しろ!」
「む~ところで兄ちゃん聞いた話によると男子は皆、国家三級男の子タワー診断士資格を持ってるじゃないのか? どんな資格かっていうと……」
「は~い~まだ朝だし静かにしましょうね」
「むごご? むごごごっ!?」
ふぅ……またしても危ないところだった。性懲りもなくアホな発言を繰り返す妹にはどうしたものか。
何気ない日常を守るのは大変だ。
……というかのんびり漫談してるけど部活の朝練、間に合うのか?
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