第8羽♡ キミに会いに行こう(上)

 朝の通学は楓と合流してから電車で三駅先の学校に向かう。

 

 待ち合わせ場所は家から徒歩五分のところにある小さな公園の出口横の公衆電話ボックス。

  

 楓はいつも俺より先に来て待っている。


 待たせるのが悪いので約束の時間より少し前には着くようにしているけど、それ以上に楓で来ているのが早い。

 

 以前どれくらい前から待っているのか、確認したくて待ち合わせの三十分前に来たことがある。

 でも楓はいつもと変わらず待ち合わせ場所で待っていた。

 

 楓には敵わないな……。

 多分これからもずっと。


 その日以降、楓より先に待ち合わせ場所に着くのは無理だと諦めた。

 

 電話ボックス横では天気が悪い日に雨風をしのぐところがないから天気が悪いの日のことを考慮し、待ち合わせ場所を変えることを提案した。


 でも楓は「この場所がいい」と言い、待ち合わせ場所の変更にも応じてくれない。

   

 今日も家から出て三つ先の角を曲がったところ先に公園が見え、いつものように楓が公衆電話ボックス横で待っているのが見える。


 鞄を抱え、長く艶やかな黒髪は風で揺れている。

 

 二十代中盤くらいのスーツを着たサラリーマンが楓の横を通り過ぎた後、何度か振り返り振り楓もチラ見する。

 

 やっぱり目立つ容姿している……白花の制服もよく似合ってるし

 

 白花学園は都内で有名な伝統校でかつ人気高。緑基調の制服は元女子高だけあってお洒落でかわいい。

 

 チラ見したくなるサラリーマンの気持ちも分かるけど、楓は人から必要以上に見られることが好きでなないから、ほどほどにしてほしい。

 

 少し速足で楓に近づき、のろのろ歩くサラリーマンがチラ見できないように俺が背中で楓を隠す。


 サラリーマンが俺に舌打ちしてるかもしれないが、そんなことは知らない。


「おはよう楓」

「おはようカスミ」


 空からわずかに差し込む日差しに照らされた俺の親友は柔らかな笑みを浮かべている。

 

「待った?」

「ううん、今来たとこだよ」


(……ウソつけ)


 真面目な望月楓は一日一度だけ俺に嘘をつく。

 俺が来るのが遅いと思っているのならそう言えばいいのに……。 

 

「じゃ行くか」

「うん」


 俺たちは肩を並べていつものように学校に向かう。


 徒歩七分ほどの最寄りの駅に目指し俺と楓はゆっくりと歩きだす。

 白く小さな楓の左手は掴むものがなく空いている。

 

 学校から帰るときに手を繋ぐことはあっても朝は手を繋がない。

 

 俺は彼氏ではないから。

 

「昨日はその……ごめんな」

「え?」

「リナが変な事ばかり言うから困ってただろ?」


「……ちょっと恥ずかしい話もあったけど大丈夫だよ、女の子だけだともっと大胆な話をすることもあるしね……」


 楓は苦笑交じりに言う……女の子ってそういうもんなのか?

 たまに思うけど俺たち男には分からないことが多い。


「それより昨日の夜リナちゃんに変なことしてないでしょうね?」

「しねーよ。アイツ妹だぞ」


「そうだけどあやしぃ……」


 楓はジト目を俺を見つめる。

 クラスメイトの前ではこんな顔をしない。

 

 品行方正を地で行く望月楓。


 白花学園高等部は割と自由な校風で比較的校則も緩いけど

 スカートを短くすることもなければ、学校にメイクをしてくることもない。

 

 そのままで十分魅力的だから、何の問題もないけど

 

「じぃ~~~~~」


 まだ俺の顔を覗き込んでくる。

 これはこれでかわいいけど……。

 

 近いからほどほどにしてくれ。

 俺でも緊張するから。 


「な、なんだよ?」


 俺が視線で弱気になるとクスクス笑いだした。


「……なんてね。カスミはリナちゃんのこと大好きだもんね」

「はいはい好きですよ。どーせシスコンですよ」


 ため息交じりで苦笑いをしながら俺は呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る