第27羽♡ 緒方さん家の複雑な家庭事情
自宅に着いたのは午後九時半を回っていた。
リビングには部屋着の腹ペコ義妹もどきがソファーでひっくり返っており、テーブルにはポテチやチョコの空き袋だけが残っていた。
どうやらおやつを食べて飢えを
「おそ~い、育ち盛りのかわいい妹が餓死するだろうがぁ~」
そして恨めしそうに言う。
「これだけおやつを食べたやつが餓死するか、すまんアルバイトが長引いちゃって」
「む~遅くなる時は連絡よこせ~」
どうやら心配してくれてたみたいだ。
宮姫と色々あって遅くなったとは言えない。
最近妹に言えないことが増えている気がする。
良くないなこれ。
「これからは帰りに必ず連絡する」
「絶対だからね……今日は許す。早くご飯作って」
ほっぺをぷくっとしたまま「わたしはとても機嫌が悪いです」って顔をしているけど、恐らくそんなに怒ってない。
ダメな兄貴を甘やかす優しいだけの義妹もどき。
「わかった。すぐに作るから、もう少しだけ待ってろ」
手を洗い、エプロンを付けると晩御飯の準備を始める。
◇◇◇
制服のままササっと作った晩御飯をリナとふたりで食べる。
今の時間はおそらく仕事中の親父は部屋から出てこない。今週はまだ一度も見ていない。
部屋の中は企業秘密だらけで
いつものように親父の分は冷蔵庫にしまう。
次の日に冷蔵庫を見ると、知らぬ間に食べ終わってて食器も洗ってある。
緒方家七不思議の一つ。
他の七不思議はと言うと『いつの間にかお菓子がなくなる』とか『お風呂で寝る妹』とか『寝起きの三分だけの天使になる妹』とか
特にお風呂で寝るは勘弁してほしい。レスキューしずらい。
『だったら一緒にお風呂に入ればいい』という妹の改善案も却下。小五までは一緒にお風呂に入っていたけど。
「そう言えば兄ちゃん」
「口に食べ物が入っている時は喋るな」
リナは小さな口でモグモグした後はごっくんという音が聞こえてきそうな食べっぷりの後、お茶を一口含み、落ち着いたところでまた話し始めた。
「で……凛ちゃんとどこに行くの?」
「俺も知らん」
「おいおい待てよ~兄上よ~それでいいのか」
「良くないから明日聞く」
前園が俺と一緒に出掛ける宣言を出した昼休みの後、一言も話をしていない。
急ぎならRIMEで聞くけど、出かける予定の土曜日まで時間が十分ある。
慌てず明日聞けばいい。
「リナは俺が前園と出かけることに反対しないんだな……」
「その日は部活だし兄ちゃんの恋路を邪魔するような
またも口いっぱいにご飯を入れ、モグモグしたままリナは言う。
「別に恋路じゃないし……」
「それより兄ちゃん、全校生徒の憧れ『放課後の天使』前園凛とデートなんだから、もっと嬉しそうにしろや」
喜ぶ前にびっくりしているのが本音で……リアルな感じがしない。
普段前園は誰にでもフレンドリーだから話すことも問題ないが、休みの日にふたりだけで出かけるとなると話は別。
学園の連中にバレれば大変なことになるかもしれない。
「デートじゃないし……」
「いちいち言い訳すんな~そうな風に育てた覚えはねぇぞ~!」
「育ててもらってないし、むしろ俺が義妹もどきを育ててるし……」
「義妹もどきを育てるのは当たり前だろがぁ……そもそも妹ってのはな~お兄ちゃんの愛がないと
食事中なのに箸を待ったまま絶叫し、バタリと倒れる妹。
……お行儀が悪い。
お仕置きした方が良いかな。
「義妹もどきは雑草と同じくらい強いのかと思ってた」
「違う~温室の
かつて天におわす我らが
義兄よ二十四時間三百六十五日義妹を愛せ~
「義兄義妹の神って何!?
というか義兄は二十四時間三百六十五日体制で妹を愛すの?
ハードワーク過ぎない?
普段から十分に愛でてるだろ、そもそも義妹もどきがいないと俺もすぐに萎れちゃうし」
俺の最大の趣味であり生きがいはアニメでもゲームでもない。目の前にいる少し生意気な義妹もどきのお世話。
ついでに義務であり責務であり使命でもある。義妹もどきのためなら空を飛ぶし、目からビームだって出す。つまり何でもする。
「うん……兄ちゃんはさ、わたしのこと好き過ぎだよね~そんなわたしもチュキチュキ」
「うるせ~よブラコン妹」
俺がシスコンならこいつはブラコン。
他の兄妹のことは知らないけど、多分俺らほどベタベタしてない。
でもこの距離感は心地よい。
子供のころから喧嘩をしたこともない。
俺の言うことは素直に聞くし、俺もリナが嫌がることは絶対にしない。
「でも一つお願い……」
「なんだ?」
「凛ちゃんとのお出かけが終わったら、同級生のわたしともデートして、行先は緒方君に任せるから」
一難去る前に新たな一難が発生した。
義妹もどきのリナではなく、同級生の高山莉菜さんからデートを誘われてしまうなんて。
高山さんは小動物のようなその愛くるしい容姿と明るい性格で学園内でも人気の天使同盟一翼。
あの前園凛と比肩できる存在だ。
高校入学後に告白し撃沈した男子高校生も多数。
中には「ボクが高山さんのお兄ちゃんになる!」と告白した
「わかった……出かけることは楓達にも言うけどいいよな?」
「もちろん。緒方君に彼女がいない以上、誰とデートしても問題ないからね。わたし以外でもデート希望者がいれば叶えてあげてよ」
「リナがそれで良いなら、心の広い妹をもって兄ちゃんは嬉しいよ」
「ん~それは少し違うかな……妹のわたしは兄ちゃんの恋を応援するよ。兄ちゃんに幸せになってほしいからね。でも同級生の高山莉菜はそんなに優しくないよ」
にこやかな表情のままだが先ほどまでと違い目つきは鋭く笑っていない。
リナは生粋の体育会系。
いつも強気で勝つための努力を惜しまない。
「ねぇ兄ちゃんが望むのは妹のわたし? それとも同級生のわたし?
すぐに答えを出さなくていいけど考えておいてね」
その答えは難しい。
俺は妹のリナと同級生の高山さんを分けて考えることはできない。
リナは妹だからこうして一緒に暮らすことができる。
俺たちの戸籍上の関係は親戚だが遠縁で、血縁関係で言えば結婚できてしまうほど離れている。
リナはそのことを知らない。
もしリナが知ったら今まで通り俺と接することができるだろうか。
小さな頃は何の問題もなかった。大きくなった今は気を付けないといけない。
そうじゃなくても、たまに妹ではなく他の同級生と同じに見えてしまうのだから。
間違えてはいけない。
考えてはいけない。
今が終わらないために。
「という訳で、今晩もパンツ一丁で待ってるから早めに
「どういう訳だ!? 風邪を引くからちゃんとパジャマを着なさい! あと毎晩押しかけてるみたいに言うな!」
「あれ? 兄ちゃんは自分で脱がしたい派だったか。うむ……そのこだわり分からんでもない」
「分からんでいいし、勝手に決めつけるな!」
「はっ! 着せたままぷれい好きか……それもなかなかにえっちい。
兄上様、
これからは敬意をこめてエロ仙人様と呼ばせていただきます!
それではエロ仙人様、何も知らないワタクシめにみだらでとびっきりえっちいご命令を~」
「なんでやねん!」
リナが無邪気におバカなこと言えるのは何も知らないから。
もし全部知ってしまったら……。
しばらくは大丈夫。
多分……。
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