第28羽♡ 天使メール

 晩御飯を食べた後はお風呂に入り、明日の洗濯をしながら、お弁当の下準備をして、授業の予習復習を行い、十二時過ぎにはベッドに入る。


 明日も五時前には起きないといけないからこれ以上、夜更かしはできない。

今日はソーシャルゲームをする暇がなかった。

 

 たまにはこんな日もあるだろう。


 今日は特に約束してなかったけど同じギルドメンバーの前園と広田には明日謝ろう。


 広田も最近はソーシャルゲームを休みがちで、ひょっとしたら今日ログインしているのは前園だけかもしれない。

 

 ゲームを始めたのは前園が一番後だったのに、マメにやってるからランクは俺たちの中で一番上だったりする。

 

 最初は俺と広田がプレー方法を前園に教えていたが、最近ではクエスト攻略方法を前園に聞くことが多い。

 

 前園とは今週末に出掛ける件で話をしないといけない。でもゲーム内のチャットで聞くのはさすがに違う気がする。

 

 明日、どこかで前園を捕まえて話をするか。

 それにしても高校入学してから生活が一変し、忙しくなった。

 

 でも俺だけじゃなく皆そうなのだろうけど。

 新しい人間関係だったり、勉強だったり、部活だったり。

 

 俺の場合は一番大きかったのは堕天使遊戯に巻き込まれたこと。

 

 赤城さくら

 高山莉菜

 前園凛

 宮姫すず

 望月楓


 天使たちのことをもっと考えなければならない。

 そして俺自身のことも……。

 

 天使メール

 堕天使遊戯

 シナリオ

 非公式生徒会

 

 まるで一昔前のゲームに出てきそうな言葉の数々――ただの遊びだったら良かったが、残念ながらそうではない。

 

 今のところ非公式生徒会がらみで大きな事件や被害は出ていない。


 でもシナリオが終わらせない限り、宮姫は好きじゃない俺と毎日のようにキスを続けなければならない。

 

 俺達は皆弱みを握られてまま、心休まることもなく日々を過ごすことになる。


 警察に相談すれば非公式生徒会は捕まるかもしれない。でも俺たちの秘密が周りに知れたら意味がない。


 できそうなことは二つ。

 非公式生徒会を俺自身が見つけ出すか、堕天使遊戯を終わらせるか。


 非公式生徒会については中等部時代から白花学園に在学し、知り合いの多い宮姫に学園の情報を集めてもらい、俺は天使メールなどから非公式生徒会が繋がるあらがないかそれぞれ調査を行っているが、目ぼしい成果は今のところない。


 堕天使遊戯は七月三十一日までと最初の天使メールで期限が切られているものの、どこまで信用できるかわからない。


 こっちは何も知らないのに向こうはこちらの情報を握っている。

 考えるだけで気分が悪くなる。

 

 望月楓は同じ保育園出身で小学校に上がる際、俺が東京から離れたことで音信不通となったが、中学に上がるタイミングで東京に戻り同じ中学校に通っていたため再会した。


 高山莉菜とは小学校六年間兄妹のように過ごし、高校生になった春からまた一緒に暮らすようになった。


 宮姫すずは楓同様、保育園で一緒だった。この春十年ぶりに白花学園高等部で再会した。


 赤城さくらは小学校の間、夏休みに毎年会っていた。


 前園凛を除く他四人は、白花学園高等部に入学する前からの知り合いになる。


 白花学園高等部一学年はA組からF組までの計六クラスある。


 天使同盟一年生メンバーはなぜかA組とB組に集中している。


 ただの偶然か。

 それとも仕組まれた結果なのか。


 意図的に集めた結果なら、非公式生徒会に学園関係者がからんでることになる。


 非公式生徒会の黒幕が大人達なら納得できるところがある。

堕天使遊戯は学生のできるレベルを超えている。


 例えば天使メールは海外のサーバから送信されている。

 

 送信元のメールアドレスは偽装されており、それすら度々たびたび変更される。

 

 普通の学生がやっているとしたら難易度が高いし、それなりのコンピュータ知識や設備、費用の問題もある。

 

 そもそも俺が誰にも言っていない秘密を非公式生徒会がどうやって知ったのだろうか。


 宮姫が握られた秘密の詳細は俺も知らないが、俺自身の秘密は家族を含め誰も知らないはずのものだった。


 仮に探偵を使ってもバレるとは思えない。


 ではどうやって?

 何のために?

 

 そもそもこんなことして何になる? 


「ダメだ……わからん」


 堕天使遊戯のことを考えるといつも結論を出すことができず、迷宮入りになる。

 そして考えることを放棄して別のことを思い浮かべる。


『今度のお出かけでお凛ちゃんに変なことしなかったら緒方君の好きなことをさせてあげる。キスでもそれ以上でも……』


 宮姫の自宅前で今晩二度目のキスをした後、去り際に残した言葉……普段は物静かで清楚な彼女に似合わない過激な発言。

 

 宮姫すずにとって前園凛は特別な存在……それなのに前園を遠ざけようとする。

 

 どうしてか?

 過去ふたりの間に何があった?

 

 宮姫たちと同じ中等部出身者なら何か知っているかもしれない。

 

 宮姫、前園を除けば俺が話せる中等部出身者は水野と広田くらい。

 知らないやつに「前園と宮姫、中学時代どんな感じだった?」なんて聞けないし。

 

 俺は学園内で評判が悪いこともあり、人望のなさは何かとネックになる。

  

 でもどうしたら良いやら……。


 スマートフォンを操作する。


 目覚ましアラームは既にセットしてあるので非公式生徒会から毎日届く天使メールの確認をする。


 このご時世、家族や友人同士でも連絡はSNSがほとんどで、メールを使うことはほとんどない。


------------


 From:abcababc234tttghytaaaaaaaaaa@abcabc212.co.bizq

 To:XXXXXXXXXXXXXXXXX

 Subject:天使メール(六月九日)

 

 こんばんは緒方霞


 こちらは白花学園高等部非公式生徒会です。

 

 本日の堕天使遊戯判定結果をお送りします。


・癒しの天使 宮姫すず  獲得ポイント-3 総合ポイント:-118 総評:もっと頑張りましょう 

・櫻花の天使 赤城さくら 獲得ポイント-5 総合ポイント:-121 総評:もっと頑張りましょう 

・気ままな天使 高山莉菜 獲得ポイント+0 総合ポイント:+33 総評:普通です

・月明かりの天使 望月楓 獲得ポイント+2 総合ポイント:-92 総評:もっと頑張りましょう

・放課後の天使 前園凛 獲得ポイント+4 総合ポイント:+57 総評:素晴らしい


 総合判定結果:もっと頑張りましょう

 

 本日のワンポイントアドバイス:女の子にわいせつな視線を向けるのは止めましょう

 

 期限までに目標が達せられない場合、あなたは大切なものを失います。

 それでは明日も楽しい学園ライフを!


 ※このメールは癒しの天使を含め、第三者に見せることを禁じます。


------------

 

「はぁ今日もダメか……」


 堕天使遊戯が始まって一か月ほど経つ。


 今までの結果から察するに「獲得ポイント」は一日最大「5」で最低は「-5」、獲得ポイント、総合ポイントともに低迷している。

 

 おそらく五人全員の「総評」、「総合判定」が「素晴らしい」にならないと堕天使遊戯は終わらない。


 今日は良くできたつもりだったけど獲得ポイントが低い。

 

 特に宮姫、さくら、楓の「総合ポイント」がかなり低い。

 理由として思い当たるところはいくつかある。

 

 リナと前園は比較的好調だけど、今日リナの獲得ポイントがゼロなのは帰りが遅かったからだろうか。


 前園の獲得ポイントが多いのは、休みの日に出掛けることになったからか。


 いずれにせよ堕天使遊戯は先が長い……。

 この判定結果もどこまで信用できるかわからない。


 それにしても何だ? このワンポイントアドバイスは?

 まるで俺がいつもわいせつな視線を皆に向けてるみたいじゃないか……だから

 

 そもそもさくらにそんな目線を向けたら、一秒後には首と胴体が永遠に離れ離れにされるかもしれない。恐ろしや恐ろしや。

 

 さて……そろそろ眠さが限界のようだ。いつの間にかに意識は濁っていく……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る