第29羽♡ 楓のお願い
六月十日、今朝もいつもと同じように楓と学校に向かう。
昨日の下校時、楓の気持ちをくみ取れず、気まずくならないか心配になったが、いざ待ち合わせ場所に来てみると、昨日は楓はいつも通りだった。
俺だけ昨日のことを引きずるのはかっこ悪い。
極力普通であるように心がけることにする。
まずは、昨晩リナと話したことを楓に伝えた。
「それって凛ちゃん以外も皆カスミとふたりでお出かけできるってこと?」
「あぁ買い物の荷物持ちでも、どこか遠出でも希望があれば付き合うよ」
「そっかぁ。どこにしようかな~急に言われると……う~ん」
ぱぁと明るい表示になった後、何やら考えている楓。
歩きながらの考え事は危ないから気を付けてほしい。
「中学時代から何度も出かけただろ。図書館とか駅前のショッピングモールとか」
「でも最近ふたりきりはないし……」
高校進学後は楓とふたりだけで出かけることはなくなった。休日に楓と出かける時は必ずリナも付いてくる。
女の子ふたりはずっと喋ってるから俺は黙って後を付いていくのが基本。
面倒ではないけど、昼食をふたりに合わせると軽食になるので、たまには牛丼とかラーメンとかがっつりしたものが食べたくなることはある。
「で……どうする?」
「カスミが良ければだけど、わたしはお出かけしたいな」
「俺も楓と出かけたいけど……期末テストが終わってからの方が無難だよな」
「そうだね」
期末テストは七月の第一週にある。あと二週間ほどしかない。
しかも今週土曜日は前園と出かける。残り日々は勉強に集中しないとさすがにマズい。
成績優秀者の楓は普段からしっかり勉強しており問題ないだろうけど、そうじゃない俺は頑張らないといけない。
「じゃあ家でテスト勉強するのはどうかな?」
「そんなんで良いのか?」
「お互いテストの点が良くないと遊ぶ気になれないだろうし……」
「確かにそれはあるな……うちの学校はそもそも定期テストが難し過ぎる」
白花学園高等部の偏差値は都内共学ではトップファイブに入る。
毎年某最難関国立大学への現役合格者を輩出している。
そんな進学校に俺が入学できたのは百パーセント楓のおかげだ。
中二から中三に進級し、ふたりで白花学園への進学を決めてからは、楓先生の鬼指導は半端なかった。
夏休みと冬休みは大手進学塾の講習にも通ったけど、それ以外は学校の授業と楓先生の熱血指導。放課後はほとんど毎日一緒にいたと思う。
「カスミは文系科目だけ頑張れば大丈夫でしょ。理系科目はわたしとそんなに変わらないないし」
確かに数学や化学などの理系科目だけ言えば赤点の心配はない。楓に勝てるほどでもないけど。
前回の定期テストは一位さくら、二位楓、三位前園と続く、宮姫も上位二十位に入ってたし、一見アホそうに見える水野、広田もしっかり三十位以内に入ってた。
俺は前回七十七位、一年生は全部で二百八十人ほどだから真ん中より前にいるはずだけど、周りが優秀過ぎて平凡な成績にしかならない。
「今度の土曜日は、凛ちゃんと出かけるんだよね。じゃあ次週の土日びどっちはどうかな?」
「それなら何とかなりそう、アルバイトのシフト確認しておくよ」
「うん、楽しみにしているから」
「楽しみにしてくれるのは嬉しいけど勉強するんだよな」
「うん。でもねふたりきりは嬉しいかも」
「おっ、おう」
楓は嬉しいそうに笑っているのを見ると俺も嬉しい。
ちょっと前まで楓と俺が『ふたりきり』なのが当たり前だったのに、今はなんだかくすぐったい感じがする。
「ところでリナちゃんは大丈夫そう?」
「聞いてみないとわからないけど、多分ヤバいと思う」
リナは典型的な体育会系、勉強より運動が得意。前回のテストの学年順位は二百六十六位と際どい成績。
「リナちゃんも一緒にテスト勉強する?」
「いや、とりあえずあいつには俺が教えるよ、ダメそうなら楓先生の集中講座で」
「そう?……わかった」
小学校時代は俺とリナは同じくらいの成績だった。
中学三年間は別れて暮らしていたので、前回のテスト結果が出るまでリナがどれくらいの学力があるのか詳しく把握していなかった。
それでもスポーツ推薦ではなく一般受験で白花学園に合格しているし、テスト前も慌てる様子がなかったので、勉強していないような素振りで実はしっかり予習復習をしていると勝手に思っていた。
結果としてはリナの余裕は見事なハッタリだった。
奇跡的にも赤点は回避していたが、どの科目も赤点を数点上回った程度。
「テスト勉強は今日からやらせた方がいいよな?」
「そうだね。早ければ早い方が良いと思う。でも……」
楓の表情が曇る。
「ん?」
「リナちゃんはカスミといつもふたりきりでお勉強するってことだよね」
「そうだけど妹だし」
「……でも本当は妹でもないよね?」
「親戚だけど、一緒に育ったから実の兄妹も同然だぞ」
「はぁ、いいなぁリナちゃんはさ……ちょっとずるいかも」
「ん?」
「何でもない」
楓はぷぃとそっぽを向いてしまった。
「念のために言っておくけど、リナは俺のことは出来の悪い兄貴くらいにしか思ってないから」
「……そんなことないと思う」
その後、何となく不機嫌になった楓と言葉を交わすことなく学校に向かった。
途中で楓には何度か話しかけたけど、会話が長く続かなかった。
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