第30羽♡ 天使のいたずら

 

 いつも通り登校した俺はスマートフォンでRIMEで赤城さくらにメッセージを送る。

 

 『話がある。後で時間をくれ』

 

 急ぎの用ではない。

 まだ朝練の時間帯なのですぐに返事はこないだろう。

 

 そのままスマートフォンを机の中にしまう。

 教室にいるクラスメイト達はまだまばら。

 

 一緒に登校した楓は教室から出たのか、今はいない。

 

 クラスメイト達は授業の予習をしている生徒もいれば、本を読んでいたり、スマートフォンをさわっていたり、数人で集まり話をしていたりと思い思いの時間を過ごしている。

 

 このまったりした時間は好き。

 

 部活に全力を出したり、真剣に恋愛に向き合ったりするのも青春だと思う。

 

 でも、こうした何気ない時間が後でアルバムの中の画像のように貴重に思える時が来るかもしれない。


 ……などと、自分の体たらくを美化してみる。

 さて、怠け者は怠け者らしくひと眠りしよう。


 机の上に頭を伏せて緒方霞のスタンダードである『やる気なしモード』に移行する。

 

 ホームルームまでスヤスヤできれば幸せだけど、いつも何かに邪魔されてる気がする……。

 

 ◇◇◇

 

「おはよう……起きて緒方君」

 

 意識がおぼろげの中、耳元で女の子の声がする。

 

「ちょっと聞いてほしいことがあるの」

 

 はいはい聞きます。

 そのままどうぞ……。

 

「……わたしと緒方君が別れたんじゃないかって」

 

 はて……俺に彼女はいないはず。

 二次元の嫁なら、これまでピンク髪からパープル髪、果てはケモ耳っ子からメイドロボット、宇宙人、人魚まで多様なお嫁さんを頂いてしまいましたが……。

 

 現実の世界では恋愛に疎いので。

 

「緒方君が別の子と一緒にいたって噂してるの。しかも抱き合ってたって……」


 なるほど……緒方とかいうやつが別の子と仲良くしてて今喋ってる子と微妙な雰囲気って設定ですかね。


 最低だな緒方……。

 

 そもそもこの世界が平和にならないのは一部のイケメン達がかわいい女子を独占するからだ。


 イケメン許すまじ!

 

「ねぇ……緒方君、わたしとは遊びだったの?」

 

 でもなんか昼ドラっぽい雰囲気なってきたな……緒方とかいうヤツはどうやら複数の女の子に手を出すようなゲスキャラで間違いないようです。

 

 ハーレム反対! 

 一人に絞れ! 


 五人に女の子に手を出すとかありえん!


 ……ん? 


「今ここでキスをしたら……もう一度わたしのことを見てくれる?」

 

 いやいやお嬢さん、キスは大事な時に取っておきなさい。

 人生はまだまだ長い。きっとあなたに似合う素敵な男性がいずれ現れるでしょう。

 

 その時――ふわりとした甘い香りがした。

 匂いのする夢は珍しい。


「いくよ……」

 

 ん? 

 何が? 


 マジで? 

 

 これは夢だよね……夢の中で何考えちゃってるの俺? 

 これは願望? 


 やばいのは俺自身? 

 わからないけど優しくしてください~!

 

 突然首元にとてもヒンヤリするのものを触れ全身に悪寒が走った。

 

「冷たぁ~!?」

 

 思わず自席から飛び起きると前園凛と広田良助が俺を見ていた。

 

「なっ広田、オレの言った通りだろ緒方は意外と首元や耳元が敏感なんだ」

 

 勝ち誇ったような表情で笑う前園が広田に勝利宣言をしている。

 

「前園よ……否定はしないが普通の人間は大抵首元や耳元が敏感にできている。


 もっともあれだけあれこれやっても起きなかった緒方が普通の人間に該当するかは疑わしいところだが……」


 喋り終えると同時にずり上がった銀縁の眼鏡を人差し指で定位置に戻す如何いかにもなインテリ風の広田が前園の意見に疑問をていしながらも、基本的には同意する。


 変人の広田に普通じゃないとか言われたくない。と思ったのと同時に俺の首元から冷たい白い何かがパタリと落ちた。

 

「何これ?」

「汗拭きシートクールタイプ、体育後の必需品♪」


「お前の仕業か前園」

「だとしたらどうする?」


「決まってるだろ……このまま寝る。おやすみなさい」

「ちょっといきなりまた寝るなよ~昨日なんでログインしなかったんだよ! 待ってたのに」


「あ~そのことか。悪い。帰りが遅くなって」

「ギルド連中も心配してたぞ」


 家に帰るのが遅くなってソーシャルゲームにログインできなかった。

 遅くなった理由は……宮姫がらみなので前園にはなんとなく話づらい。

 

 とは言え前園とは他に話さないといけないことがある。

 寝る前に片づけたおいた方が良いかもしれない。


 仕方なくやる気なしモードを止め、だるい身体を無理やり起こす。

  

「すまんが前園ちょっと付き合ってもらっていいか。てわけで広田、前園を借りてく」


「緒方、俺は構わないがにはくれぐれも気をつけろよ」


「ん? じゃ行くか前園」

「え? ちょっと緒方、自分で歩けるから押すなって」


 前園の背中を押し、廊下の外に連れていく。

 身長は俺とほとんど変わらないが前園はとても軽い。

 

 変なところは一切触っていないが、どこも柔らかい。

 

 なお、広田の警告をちゃんと受け止めず、人気者の前園を雑な取り扱いをしたため、俺はこの後散々な目に合う。


 前園を連れ去る様子を見ていたクラスメイト達が情報拡散したため、俺の悪名は更に上がり、教室に戻った後、笑顔のまま怒りMAXモードの楓にも散々小言を言われることとなる。 

 

 だがその前に楓よりも何億倍も恐ろしい最強のがブチ切れたことにより俺は滅びの時を迎える。

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