第171羽♡ 寝る前にスマホの充電を!

 

 どこまでもマイペースなリナにペースを乱されたのか、楓と宮姫はすっかり気が抜けてしまい、俺とリナは最大の危機を乗り越えた……のかもしれない。

 

 もし狙ってこの状況を作り出したのなら、リナはかなりの策士だ。


 でも偶然だよね? 

 ずっとおバカな事を言ってただけだし。

 

 ともあれ、今はかわいい義妹もどきには感謝しよう。


 後で、なでなでと毛繕けづくろいをして、プリンと言うの名のマタタビをあげよう。


 「ところで宮姫、何か用があったから家に来たんじゃないのか?」

 「そうだった……でもその前に何度か電話したけど繋がらなかったよ」

 

 「え、マジで?」

 

 ズボンのポケットからスマホを取り出す。

 画面をタッチしても反応がない。

 

 「悪い、バッテリー切れしてた」

 

 「リナちゃんに電話しても繋がらなかったから、ふたりが変な事件に巻き込まれてないかと心配になって、楓ちゃんにお願いして一緒に来てもらったの」

 

 「そういうことだったか、ありがとうふたりとも」

 

 昨夜、さくらと電話していた際に宮姫からも電話があった。


 電話を終えると深夜になっていたので、今日になってバイトの休憩時間に折り返したがタイミングが悪かったらしく、今度は宮姫が出れなかった。

 

 俺のスマホはバイト中にそのままバッテリーが切れたのだろう。

 いくら宮姫が電話をしても繋がるはずもない。

  

 同じ家に住むリナに電話を掛けても、俺の部屋で昼寝をしていて、スマホは自分の部屋におきっぱなしだったから、やはり繋がらない。

 

 音信不通の俺達を危惧した宮姫は、緒方家の合鍵を持つ楓に連絡し、ふたりで緒方家に乗り込んだ。


 そして上半身裸パンツ一丁パンイチのリナと俺に遭遇したと言うことか。

 

 俺達のせいで楓も宮姫もいい迷惑だな。

 ふたりにはホント申し訳ない。

 

 俺がちゃんとスマホを充電しておけば、こんな事にはならなかった。

 これからは気を付けるようにしよう。 

 

 「凛ちゃんの下宿先だけど、パパとママに何とかならないか相談したの、わたしの家なら学園にも蓮司れんじさんの家にも遠くないし、空き部屋もあるし。ふたりともビックリしていたけど、お凛ちゃんは中等部の頃に泊りに来た事があるから顔なじみだし、困った人を助けるのは当然だって……ノーラさんがOKならいいよって」

 

 「そっか。宮姫の家なら俺も良いと思う」

 

 広さは赤城家とは比べようもないが、宮姫の家も都内の一軒家としては十分に広い。何より国立市の赤城家よりも学園に近い。


 ……そしてバイト先の蓮司さんの家にも。

 

 宮姫家は赤城家に負けないくらい良い条件に思える。

 

 「でも一つだけ問題があるの」

 「ん?」

 

 「ウチのパパとママなんだけど」

 「しばらく会ってないけど、仲良くて優しい人たちだったな」

 

 「うん、結婚してから20年近く経っているのに今でもラブラブで、つい最近らしいの……わたしの弟か妹が」

 

 言い終えた宮姫は湯気が出るくらい顔が真っ赤になった。 

 

 高校生になれば、子供はコウノトリが運んでくるものじゃない事を知っている。

 

 同級生に兄妹ができた事を伝えるのは少し恥ずかしいかもしれない。

   

 「小学生の頃は、一人っ子なのが嫌で、弟か妹が欲しいってパパとママに何度もせがんだの。でもこの歳でできるとは思わなくて……どう受け止めたら良いのかわからなくて、少し戸惑ってるの」

   

 「すずちゃん……少し違うけど、わたしも母さんが少し前に再婚して、家族が増えて最初は戸惑ったの……でもカスミが手伝ってくれて、少しずつ姉さんとも話せるようになった。今はすごく幸せ。すずちゃんも無理せず、ゆっくり受けとめていけば良いと思うよ」

 

 楓は穏やかな笑顔とゆっくりした口調でそう語る。


 ただの酔っ払いになり下がった今とは違い、当時は完全無欠の女子高生だった加恋さんと中学生の楓は知り合ってしばらくの間、何故かそりが合わなかった。もっとも加恋さんはずっとフレンドリーで、楓が一方的に牙を剝いていただけだけど。

 

 「ありがとう楓ちゃん。赤ちゃんが産まれたら、騒がしくなると思うの、お凛ちゃんが気にしないなら良いけど」

 

 「宮姫の弟か妹なら大丈夫だろ、かわいいだろうし」


 むしろ前園なら、進んで子育てにも協力してくれそうに思える。

 

 「わたしもすずと凛ちゃんが一緒に暮らすのは良いと思うのだ。ふっ兄ちゃん様よ、残念だけど我らの家に招くのは無理そうでござる」


 「そうだな……どう考えても赤城家と宮姫家より条件が悪いし」

 

 「お凛ちゃんと一緒に暮らすの諦めてなかったの?  ダメだってわたし言ったよね?」


 血も凍りそうな絶対零度の瞳で俺を睨む。

 あの……宮姫さんとても怖いです。


 「親父が下宿させても良いって言ったけど、前園はウチを選ばないだろ」

 

 「わかんないよ、一緒に暮らしたらお風呂をのぞくでしょ?」

 「そんなことするわけないだろ!」


 事実として前園とは一緒に温泉に入ったことがある。

 ぶっ殺されるかもしれないから、宮姫には絶対に言えない。


 しかし家にいる女の子が一人から二人になれば、ラッキースケベ遭遇率が必然的に二倍になる。早々起きないと思うけど、たまたま起きた場合は不可抗力なので仕方ない。

 

 「ヘタレの兄ちゃんに、お風呂を覗く度胸はないから大丈夫なのだ。そもそもわたしがいるのに覗きに来ないのはおかしいのだ、でも気付いてないだけでどこかに隠しカメラを仕掛けてたり?」

 

 「緒方君早く自首して! でもやっぱり刑が確定するまでの時間が惜しいから、今すぐ爆発四散して!」


 「盗撮なんてしてないから……リナの言うことをいちいち真に受けないで!」


 「ぶ~兄ちゃん酷いのだ」

 

 本命の赤城家、対抗馬の宮姫家、そして大穴の緒方家。

 

 はたして白花学園高等部天使同盟一翼放課後の天使こと前園凛はどの家を選ぶのだろう。

 

 もし前園が緒方家にいることが学園でバレたら、全男子生徒に袋叩きにされ、俺は命日を迎えるかもしれない。


 だがしかし、エルフでたまにエロフな前園さんと楽しい夏休みを過ごせる!

 これすなわち陰キャの緒方霞大勝利であります!


 「わたしも凛ちゃんとカスミが一緒に住むのは反対だからね」

 「はい、すみません」


 ……楓さんのお許しが出ないので、陰キャの緒方霞は敗北必死であります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る