第134羽♡ はじめての夫婦ライフ(#24 たった一つの願い)
「悪いね……終ったばかりなのに」
「いえ」
今は湘南に住んでいるらしいが、さくらのお祖父さんである安吾氏の部屋は今も赤城家本館に残っている。
部屋には本棚には膨大な量の本と、古い木製の机がある。先ほどまでと違い安吾さんは眼鏡を掛け、古いノートを読んでいるようだ。
「今日のことどう思ったかね?」
「はい、さくらさんが大変そうだと思いました」
「他には?」
「大きな家って色々あるんだなって事くらいです」
僅かな間だけこちらに目を向けたが、再び手元のノートに目を落とす。
「君は警戒心が強いな。一応言っておくが、今の私は大企業の取締役ではない。かわいい孫からのプレゼントが嬉しい普通のじいじだよ。君は友達に話すように、フランクに話してくれると嬉しいな」
「さすがにそれは恐れ多いです」
「父が事業で成功するまで、赤城家は旧華族といってもすっかり没落しててね。私が十二歳まで住んでいた家は立川にあった賃貸住宅だったし、通っていた学校も公立だ。まぁ父には商才があり、気づいたらこの大きな家に住んでたがね」
そう言えば今朝さくらも言ってたな……この赤城家本館は元々別の旧華族の持ち物で譲り受けたものだって。
「この家にも約40年ほど暮らしたからもちろん思い入れはある。だが私はあの狭い立川の家も好きだった。二人の兄とは歳が離れていたから、遊んでもらった記憶もないが、それでも仲良くやってたんだよ。大人になってもずっと信じていた。まさかあんな事件を起こすとは……」
哀愁を帯びた切ない笑顔を浮かべる。
二人の兄による会社への背任事件。
安吾さんにとっても痛恨の出来事だったようだ。
「兄達の変質に気づけなかったのは私の罪だ。悔やんでも悔やみきれない。だが君は変わらないで欲しい。そのままの君でいつまでもさくらのそばにいてあげてほしい」
「……わかりました」
言葉がとてつもなく重い。
さくら本人に言われるのとは違う意味で。
「ところで私は、若い頃よく
「え?」
今なんて言った?
「バレてないと思ってるね。わかるよわかる。だがかわいい孫のフィアンセがパリピだったらどうしようと心配するのがじいじってもんだろ?」
何かキャラ変わってきてるし……
「そういうのはすぐバレるから気を付けた方が良いな。
何か忠告または警告されてるけど全然頭に入ってこない。
厳格な赤城安吾氏はいずこへ?
「つまりだ緒方君、私が何を言いたいかわかるかね?」
「すみません。全くわかりません」
「君は今、女の霊3人に憑りついてるから気を付けろということだ……それとも霊も含めて女子なら全部
「唐突に怖い事を言わないでください! さっきまでと全然話が違うし!」
「まぁ心配しなくてもそのうち二体は、この家の地縛霊だからここから出れば大丈夫、最後の一体だが……多分命までは取らないと思う。このままだと体を乗っ取られるが」
「それ全然大丈夫じゃないですか!」
「私は昔から霊感が強いらしくてな、この家を出た理由も夜な夜なこの家の霊に枕元で相談されるのに疲れてしまってね……『最近ご主人様がお仕置きしてくれない』とメイド姿の霊に泣かれても、彼女のご主人様はとっくにこの世にいないし、どう答えて良いかわからなくて」
「……ってそんなことより、ご存じでしたら除霊する方法を教えてください!」
「おや除霊するのかね? 憑りついているのはナウいベッピンさんだが!?」
「体を乗っ取られたら俺はお終いじゃないですか? 今すぐ除霊したいです!」
「心配しなくてもまだまだ慌てる時間じゃない……でも猶予は30日切ってるが。教えてもいい、一つだけ私の願いを聞いてくれれば」
「はい、何でも喜んで」
「よし良いだろう……君とは長い付き合いになりそうだ。カフェレストラン『ディ・ドリーム世田谷店』の
安吾さんがそれまで浮かべなかったような怪しげな笑みを浮かべる。
バレてる――!
何から何まで俺の素性がバレてる――!?
ひぃ――!
◇ ◆ ◇ ◆
「ダーリンお疲れ様、随分長かったわね」
「あぁお疲れさくら」
安吾さんとの話を終えた俺をさくらは
「変なこと言われかった? あぁ見えてお祖父様はイタズラ好きなの」
「そ、そうなんだ。今日のことを少し聞かれただけで後は……一つだけお願いをされたけど」
「お願い? 聞いても良いかしら?」
「あぁ……新人VTuber双子デュオ
「え? ちょっと待ってダーリン、言ってる意味がよく分からないわ」
「すまん俺もわからない」
尚、柚子梨乃メサイヤ♡リルルは赤城グループ前取締役で現会長の赤城安吾氏ご本人とのこと。
えーと何これ?
ダメだ……脳がバグって処理が追い付かない……。
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