第61羽♡ 健気な義妹もどき


――放課後。


第七資料室での整理を終えた俺が、校門を出たのは最終下校時間ギリギリの18時前だった。


まだ調べることが残っているが、明日、明後日はアルバイトがある。

残りは休み時間などを利用してやるしかない。


近所にある行きつけのスーパーで買い物を終え、そのまま帰宅する。

地元商店街の割引タイムに間に合わなかったのが心残り。


部活を終えたリナは一足先に帰宅しているはず。

校門を出たところで、RIMEで連絡を入れたが既読が付かなかった。


――疲れて寝てるのか?

家のカギを開け、中に入る。


明かりはついておらず真っ暗だった。


玄関の明かりをつけると、ローファーはいつもの場所に揃えて置いてある。

帰宅しているのは間違いない。


俺も靴を脱ぎ、リビングに向かう途中で洗面所のドアが開いた。

中からリナが出てきた。


「あ、おかえり~」

「ただいま……ん?」


 リナの身体から湯気が上がっている。

 

 髪の毛は濡れたまま……。

 身に着けているのは大きめの白バスタオル一枚だけ……。

 

「ちょ……なんて格好してるだ!? 早く何か着ろ!」

「いや~ちゃんと隠すべきところは隠れてるし問題ないしょ~ほ~~れって、あっ」


 バスタオルは胸元で内側に差し込むように挟んだだけ。

 両手を挙げて勢いよく一回転したら差し込みが緩みスルスルと落ちていった。


「うぎゃ――!」

「いや~兄ちゃん見ないで――!」


 家の中に響き渡る兄妹の絶叫。

 目を背ける間もなく、妹が生まれたままの姿を御開帳……。

 

 ……とはならなかった。

 

 胸元にベージュ色のストラップレスブラジャーを身に着け、同じの色のパンツを履いている。つまり下着姿。ぎりぎりセーフ?

 

 でも、これはひょっとして……。

 

「お前、タイミングを計ってお風呂から出てきただろ。俺を驚かすために」

「あれバレちゃった?」


 リナはペロッと舌を出す。


「そりゃ~な。そもそもバスタオル一枚で洗面所から出てくるのがおかしいし」


「お風呂入る時は着替えも持っていくし着替えを忘れるなんてまずないよね~。

 

 でもさ~わたしはやってみたかったんだよ! 

 ラブコメあるあるその一。


 風呂上がりの全裸ヒロインと主人公が遭遇するラッキースケベイベント!

 食パン咥えたヒロインとぶつかって出会うのと同じくらい鉄板だし」


「確かによく見るシーンだけど、少しベタ過ぎやしないか?」

「それが良いんだよ。変化球勝負じゃなくてド直球勝負がわたしの好みです」


「さよですか~とりあえず早く着替えてくれないか?」

「……その前、言うことがあるだろ兄ちゃん」


「下着姿を見てごめんなさい」

「見せてるんだから気にすんなぁ~他には?」


「髪の毛が濡れたままなので早く乾かした方が良いです」

「それは妹お世話係の兄ちゃんの仕事です。はい次!」


「俺に見られて恥ずかしくないのか?」


「気にすんなって言ったのにまた言うか……そんなの恥ずかしいに決まってるだろ。

 わたしは同姓に見られるのも苦手なタイプです。

 学校の更衣室でも一番端で誰にも気づかれない様にささっと着替えてます」

 

「じゃあ何でこんなことするんだよ?」


「緒方君……キミはどこまでクソボケなんだ!? 

 そんなん許されるのはハーレム系ラブコメの主人公だけだよ!

 

 ラブな兄ちゃんに見て欲しくて必死にアピールしてるに決まってるやんけ~。

 なぁ義妹もどきって健気だろ? マジ惚れるだろ?」


「そんなことせんでもいつも見てるわ~義妹もどきラブだし」

「わたしも兄ちゃんにはすごく愛されてると感じます……でも不安なんです」


「何がだよ?」

「だって兄ちゃんの好きはわたし以外にも向くし」


 途端に冷めた視線を向けられ首元にぞくりとする……。


「……今はリナだけを見てる」


「それ少女漫画でクズイケメンがよく使うヤツな。

 わたしはいつも見て欲しいって言ってるんだよ……緒方君にわたしは映ってる?」


「きれいだよリナ……だけどえっちぃ」


 濡れたままの天然茶髪ショートボブはいつもより黒く見えるし、細い首筋と濡れた襟足が妙に色っぽい。


 小動物のようなかわいらしいはずの外観も頬も赤く、唇もぷるっとしてるし何だか色っぽい。

 何より大事なところは隠れているものの下着だし……柔らかそうな胸も腰回りなどのラインも丸見えになっている。 

 

 これ以上見ていたら平常心でいられるかわからない。

 

「そっか……やらしい~ド変態兄ちゃん」


 ニヤッと笑うリナが嬉しそうに言う。


「見せられたし言わせたくせに」


「わたしのことちゃんと映ってるんだね……」

「当たり前だろ!」


「よしご褒美だ。特別にブラとパンツの中も見せてあげよう」

「それはやめろ~」


 俺は、床に落ちていたバスタオルを拾いあげ妹の肩にかける。


「なぜ止める? 

 せっかく世界秩序を乱す鬼畜系ダメ兄ちゃんに魔改造しようとしてるのに」


「兄ちゃんは普通でいたいの鬼畜系ではなく」


「……つまらぬ、つまらんぞチキン兄ちゃんめ」

「鬼畜の次はチキンかよ。というかマジで何考えてるの妹よ?」


「わたしの考えなんていちいち聞くな! 言わせるな! しゃ~」


 威嚇する猫のような表情と声を出した後、どこか憐れむような笑顔を浮かべる。

 最近よく見せる俺の知らないリナだったりする……。

 

「とりあえず部屋着を着ろ、あとドライヤーと化粧水と乳液、

 お風呂上がりのマッサージと柔軟……って右ほっぺに小さなニキビが

 できかけてるぞ!」


「う~ごめんよ兄ちゃん」


 漫画に出てくるような眼をバツにしたようなクシャっとした表情をする。


 ニキビの主な原因は肌の汚れ、または疲れやストレス。

 俺は妹の心に負担を強いているかもしれない。

 

 いや……確実に妹を傷つけている。


◇◇◇

 

 妹の髪をとかしながらブローする。

 猫っ毛だから痛まないように気を付けながら……。

 

「ここで高山さんのワンポイントアドバイス~緒方君が中尾山から帰った後から、楓ちゃんもすずも凛ちゃんもさくらもみ~んなみんなおかしい。早くケアしないとどっか~んしちゃうぜ」


 どうやら妹以外も傷つけている。

 

 ――ぼやぼやしてる暇はない。

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