第60羽♡ 定期連絡


「ん……」


 宮姫の口から僅かな声が漏れる。


 今は五時間目の終わり。

 たった十分間しかない貴重な休み時間。

 

 忍び込んだ空き教室のカーテンの裏で躊躇うことなく俺たちは二日ぶりのノルマをこなす。

 

 宮姫すずに変わった様子はない。

 唇は今日も十分に甘く切ない。

 

 でも……少々物足さを感じる……。

 

 もしこの前と同じように……ちょっとだけ先に進めれば。

 恐らく宮姫は拒まないし、ひょっとしてたら待っているかもしれない。

 

 だけど……俺たちはこれ以上進めない。

 

 いけないことだとわかっているから……。

 

 非公式生徒会に送る今日分の写真を撮り終えると互いの唇を離す。

 余韻を残るものの、非現実のような時は終わりを告げ、俺たちはただの協力者の関係としての戻る。

 

「昼休みどこかに行ってたの? 教室を覗いてもいなかったから」

「あぁ、ちょっとな……」


 これはさすがに気まずい……。

 宮姫の知らないところで、中等部時代の宮姫の話を聞いていたのだから。

 

「ふーん、まぁいいけど、それより非公式生徒会について少しわかったことがあるから共有するね。

 

 白花学園に非公式生徒会ができたのは今から二十五年前、つまり女子校から共学に変わった年……でも当時の非公式生徒会は今の様な秘密組織じゃなかったみたい」


 宮姫の話では当時の非公式生徒会は正規の生徒会とイコールだったらしい。


 年に一度の文化祭……白花学園では白花祭という名前だが、共学になって初めての白花祭を盛り上げるために生徒会が企画したのが学園内アイドルナンバーワンを決める天使同盟コンテスト。つまりミスコンだった。

 

 ただ、記念すべき第一回天使同盟コンテストは結果だけ見れば大失敗だったらしい。準備不足だったこと、一年生には男女の生徒がいるものの、共学になる前に白花に入学した二年三年生には当然女子しかいないので学年ごとで温度差があったこと。

 

 何よりも選ばれた天使たちのやる気がなかったこと。

  

 一年目の失敗が尾を引いたのか、翌年の白花祭では天使同盟コンテストは実施されず、復活したのはその二年後。以降は毎年行われるようになった。

 

 回数を重ねることで、コンテストの規模は拡大されていき、天使同盟や非公式生徒会などの在り方が少しずつ変わっていった。

  

 最初の年は一学年につき選ばれた天使は一人、全学年で三名だけだった。

 去年は八名で、今年選ばれた天使は過去最多の十二名。

 

 選ばれる天使の数は年によって変わる。

  

 天使同盟の発表時期も以前は夏休み明けの九月だったが、数年前から五月のゴールデンウイーク開けとなっている。

 発表方法も以前は校舎内のどこかの掲示板の紙で張り出されていたらしいが、ネット上で発表に変わっている。

 

 現在の生徒会と非公式生徒会の繋がりはなし。


 年に数回行われる、一般生徒と生徒会が討論する全校生総会で、非公式生徒会についての質問に上がることがあるが、生徒会は関係を否定している。

 

 同様に学園運営も非公式生徒会との関わりを否定している。

 非公式生徒会に関する調査なども行っていない。

 

 調査を行わない理由として、非公式生徒会が要因となる実害が発生していないこと。


 生徒に高度な自治を認めている白花学園において、学園運営側が非公式生徒会に手を出すことは行き過ぎた干渉と見なされること。

 

 学園生活を楽しむエッセンスの一つとして非公式生徒会の存在を肯定している生徒が多いこと、卒業生からも同意を得られないこと。


 卒業生は社会的な地位の高さと学園への寄付金という形で影響力を持ち続けている。一筋縄ではいかない。

 

 なお、非公式生徒会を探ろうと活動している組織も存在する。

 

 広田の所属する第三新聞部のように。

  

「二十五年か……よくそんな前のことを追いかけることができたな」


「うちの両親が学園OB、それも共学一期生なの。

 それとなく聞いたら当時の生徒会会長は友達だったらしくて、学園の歴史を知りたいとか適当な理由を付けて取り次いでもらえた。

 

 後は元生徒会会長の口利きで歴代の会長も何人か紹介してもらこともできた。でも色んな人の話を聞いたから、ここまで時間がかかっちゃったけど」


「でもよくここまで調べたな、すごいな宮姫」

 

「少しは見直してくれたかな? 


 生徒会と非公式生徒会が完全分離したのが12年前……理由は生徒会が多忙だから。


 以降は別組織となった非公式生徒会と距離が広がり、ついには非公式生徒会の活動実態そのものがわからなくなってしまったらしいの。


 所属メンバーや規模は不明、でも非公式生徒会は毎年必ず存在する」


「まるでオカルトかミステリーみたいだな」

「そうだね。しかも結束力が高いのか非公式生徒会に関する情報漏洩がほとんどない」


「……となると、やはり地道に手掛かりを探すしかないか」

「うん、緒方君が探すうえで手がかりになりそうなものも渡すね」


 宮姫から古ぼけた鍵が渡される。

 

「これは?」

「第七資料室の鍵……たまってる資料の整理を手伝う名目で世界史の藤田先生から借りたの、期限は今週の金曜日までで、資料室には前々から緒方君が探してたものも幾つか保管されてるはず」


「ありがとう助かるよ! でもあまり時間ないな」

「そうなんだよね……わたしも手伝いたいけど放課後は部活があるし」


「俺だけでなんとかするよ。それに俺たちはできるだけ別行動の方がいいだろ。

 学園内でふたりで動くと目立つかもしれないし」


「うん……何かわかったらすぐに連絡頂戴ね。

 ところでわたしたち五人以外の天使からの接触はない?」

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