第59羽♡ 悪代官と緒方屋


「じゃあわたしはこれで……緒方君ふたりこと頑張ってね。

 あと近いうちに水野君とのカップル取材よろしく」


「カップルじゃないから! ごめん北川さん、もう一つ頼みがあるんだけど」


「ん、なに?」


「さっきの前園の……ロリんちゃんの画像ください。どうかお願いしますぅうううう!」


 恥も外聞もなく、俺はその場に土下座した。

 ロリんちゃん画像が手に入るならこんなのは安いもの。


「はぁ……そう来たか。いいわよ、夏服、冬服、浴衣、スク水を含む

『放課後の天使前園凛コンプリートボックス永久保存版』、

 本日だけの特別ご奉仕価格五千円でいいよ!」


「なにぃいい――金をとるのか!? しかも高くない――か!?」


「すずの目を盗すんで、凛ちゃんの写真を撮るために

 どれだけの同志たちが散ったことか……。

 

 別に無理強いはしないよ。

 ただ緒方君の手元に一生届かないだけ」


犯罪チックなことを言い終え、ニヤリと笑う北川さん。

ちくしょう……足元を見られた。高校生の五千円は高い。

 

 これではアルバイト代も吹き飛んでしまう。

ソーシャルゲームに課金できなくなるし、メイク用の新しいアイパレットも買えない。

 妹に良いところも見せられない。

   

 しかしロリんちゃん画像を諦めるのはあまりにも惜しい。


「緒方君が悩んでいるうちに、さらにあたしのターン!


 今なら『癒しの天使宮姫すずコンプリートボックス永久保存版』と合わせて

 出血大サービス九千円でいいよ。

どうですか社長シャッチョさん、かわいいでしょウチの子たち? 

 こんなチャンスないよ! ポロリもあるかもよ!」


 夜の街にいる怪しい客引きの如く、北川さんは追撃をかけてきた。

 いやいや、さすがにポロリはないだろ。


 最初に見せてもらった画像で前園の隣に写っていた宮姫もすごくかわいかった。

 幼い表情の前園に対し、宮姫は大人びた憂いのある表情がなんとも……。

 

「さぁどうする? 緒方君! さぁさぁさぁ」

「か、買いま……」


 理性より先に欲望が走り出し、勝手に口が動く。

 ――その時だった。

 

『待って兄ちゃん。お金は大事だよ。それにわたしがいるじゃん。てへぺろっ』


 白き翼の義妹天使が無垢の笑顔を浮かべている。……気がした。

  どす黒く汚れた俺の心が瞬く間に光に包まれていく。

 

 ――そうだ。俺にはかわいい妹がいる。

 

 まぁ一日の大半は大悪魔だけど。

 

「くっくっく……はっはっはっはっは!」

「何がおかしいの緒方君?」


「危うく欲望に負けるところだったよ。確かに前園と宮姫はいい。

 だが一高校生にはあまりにもそのお宝は高額だ。早々手が出ない」

 

「諦めるの?」

「いや、それはない。北川さんがお宝を持っているように、

 俺にもお宝がある。これを見てもらおうか!」


 俺は自身のスマートフォンを北川さんに差し出した。 


「なっ? ……こ、これは!?」

「ふっ『気ままな天使高山莉菜コンプリートボックス永久保存版』、宇宙一かわいい義妹を刮目せよ!」


 中三の時、親父にスマートフォンを買ってもらって以来、頼んでもいないのに毎日リナから画像が届くようになった。

 

「なにこれ! 超かわいいんですけど!? 

 こんなかわいい妹が毎日甘えてくるの!? ずるい~ずる過ぎる!」


「悔しかったら義妹を作るといい」


「図画工作じゃあるまいし簡単に義妹を作れないでしょ!? 

 ……というか緒方君は噂通りガチのシスコンなんだね~」


「俺にとってシスコンは誉め言葉でしかない」


「うわっド変態さん発見……まぁいいわ。

 緒方君は高山さん画像プラス四千円、あたしは凛ちゃん、すずの画像でどう?」


「なかなか魅力的な条件だけど、まだ高いな」

「悪いけど、これ以上の値引きには応じられない、こっちも商売だから」


 友達の写真を売りつけるのを商売って言いきった。

 北川さん恐ろしい子!


「仕方ない……じゃあ俺も伝家の宝刀を抜くとしよう。

 いでよ!『月明かりの天使望月楓コンプリートボックス永久保存版』」


『カスミ……わたしのこと呼んだかな?』


 今度はいつも控えめな親友の声が聞こえた……気がした。

 もちろんこの場にはいない。

 

「うそ? なにこれ!? やばいやばいやばい! ……望月さん美人過ぎる。しかもこの巨乳メガネっ子写真何!?」

「楓は学校以外ではメガネをかけてるんだよ」


「このメガネがちょっとずれててふにゃとした顔をしてる写真は反則……

 こんなのずるい! うはぁ~ほ、欲しい!」


「北川さん再交渉といこうか、前園と宮姫、望月と高山の五分五分の条件でどうかな?」


「くっそう来たか……小遣い稼ぎするはずだったのに誤算だよ!

 でも背に腹は代えられない、手を打つよ」


「まいどありぃ~」


 俺たちはRIMEのIDを交換し、手早くお宝交換を終わらせた。

 北川さんは手に入れたお宝画像を見てうっとりしている。

 

「はぁ~かわいい子いっぱいであたし幸せ~。

 でもさ~本人たちの同意なしに写真交換していいのかな?」


「……マズい気がする。だからって俺の渡した画像を今すぐ消すことができるか?」


「無理……これは人類が守るべき宝だし」

「だろ……俺たちはもう引き返せない。写真交換した事実は墓まで持っていくしかない」


「でも緒方君とは趣味が合いそう」

「そうだな」


「ふぉっほっほ~緒方屋、お主も悪よのう」

「いえいえ北川のお代官様には負けますよ。今後も良しなに。きしししっ」

 

 楽しく悪代官ごっこまでやって悦に浸る。何をやってるんだか……。


「でもあたしは『オガターランド』の奴隷になるつもりはないから、あとウチの眼鏡にも手を出さないでね」

「なんだよ。そのオガターランドって?」


「白花学園高等部最大のゲス野郎緒方霞は、その欲望を満たすために男女ごった煮ハーレム『オガターランド』を作ったらしいよ。噂だけど」

「作ってません。変な噂を信じないでください!」


「え~校内裏サイトにも度々出てくるんだけどな」

「裏サイトの情報は信じないで」


「ところでさ……さっき赤城さんだけ画像の話が出てこなかったけど、持ってないの?」

「あぁ。そもそもさくらを隠し撮りなんかしたら、次の瞬間この世界とさよならだから」


「どんだけ赤城さんのこと恐れてるの!? 隠し撮りしないで普通にくれで良いじゃない?」


「……言われてみれば。ありがと、後でやってみる」


「赤城さん凄く綺麗だよね。気高き貴族って感じ……いい画像が手に入ったらまたよろしく」

「考えとく。今日はありがとう」


 俺と北川さんは別々に自分の教室に戻った。


 話の中で出てきた学園の裏サイトは幾つかは調査済みだ。

  

 非公式生徒会もこれらを使っている可能性が高い。

 SNS上でやりとりしていることも考えれる。

 

 非公式生徒会と言えば、休み明けにまだ宮姫に会っていない。

 この前の土曜日、RIMEで非公式生徒会について相談したいことがあるって言ってたっけ。

 

 あと今日分のノルマも残ってるし……。


◇◇◇


 後日さくらたんに「かわいい画像くれ」とRIMEを送ったところ、

 数時間後に約三百枚ほど届いた。


 早速吟味したところ……かわいいじゃねーか。

 

 まぁ知ってたけど。

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