第113羽♡ メーデー!メーデー!


 執務室でのさくらと話し終え、就寝部屋に戻ったのは夜の12時前だった。


 今日は普通に学校が行って放課後はバイト、その後さくらに拉致されてふたりでお風呂に入って……。

 なんだか濃い一日だった。

 

 午前中の出来事が遠い記憶に感じるてしまうくらい。

 

「はぁ疲れた……」


 倒れるようにベッドに沈む。

 客間のあるものでも俺が普段家で使ってるものより高級なのがわかる。

 基本どこでも寝れる俺には勿体ない。

 

 眠いし、このまま寝てしまおうか……。

 

 いや、その前にソシャゲの今日分無料ガチャを回さないと勿体ない。

 基本は無課金勢の俺は小さな努力を怠れない。ここのところソシャゲ内で同じギルドの前園とは差が開く一方だし。

 

 ガチャを回すためにベッド横のデスクに置きっぱなしにしていたスマホを手に取ると、RIMEライムメッセージと着信履歴がそれぞれ数件ずつ入っていることに気づいた。

 

 そう言えば、今晩さくらの家に泊ることをリナに連絡してない。

 

 さくらが楓とリナに連絡してくれたみたいだから事情は知ってると思うけど、俺自身から連絡を一本も入れていないのはマズい。

   

 電話の着信履歴とRIMEメッセージはリナと楓から届いていた。

 とりあえずリナからのメッセージを確認する。

 

 リナ「18:16ヒトハチヒトマル ワレ、自宅玄関先ニテ敵国ノ魔装メイドト交戦ス」


 リナ「18:17ヒトハチヒトナナ 魔装メイド第一次防衛線ヲ突破、我第二次防衛線リビングルームマデ後退ス」

 

 リナ「18:19ヒトハチヒトキュウ 魔装メイド第二次防衛線モ突破、戦線保テズ、ブラボースリー至急救援ヲ求ム」


 リナ「18:20ヒトハチフタマル 魔装メイド最終防衛線二迫ル。ブラボー3救援ヲ求ム」

 

 リナ「18:21ヒトハチフタヒト 魔装メイド最終防衛線ヲ突破、ブラボー3応答セヨ」

 

 リナ「メーデー! メーデー!」

 

 リナ「助けて兄ちゃんもう防ぎきれない」

 

 リナ「無念、わたしはここまでみたい」

  

 リナ「JKだし一度だけでも好きな男の子とデートに行きたかったな」

 

 リナ「また天天屋の舞茸天ぷら食べたかった」

 リナ「ケンタクルスチキンの食べ放題チャレンジやってみたかった」

 

 リナ「ジーザス!」

 

 魔装メイドって何?

 ひょっとして楓のことか?


 ブラボー3が俺かな……で、最後はメーデーつまり救助信号?

 

 天天屋、ケンタクルスチキン……食い気ばかりだな。

 

 時間が遅いが、やはり気になるのでリナに電話してみる。

 10コールほど待つが応答しないので切る。

 

 もう寝てしまったのだろうか。

 

 そうだ。

 一緒にいるはずの楓になら電話が繋がるのでは。

 

 今度は楓に電話をかける。

 こちらは4コールほど鳴らす応答した。

 

 「はい……」

 「もしもし楓?」


 「ん……霞?」

 

 今にも眠りに落ちそうなとろんとした声をしている。

 

 「もう寝てたか?」

 「ううん、でもちょっとウトウトしてたかも」

 

 「ごめんな」

 「大丈夫だよ。どうかした?」

 

 「リナに電話したけど出ないからどうしてるかと思って」

 「リナちゃんなら隣でもう寝てるよ」

 

 どうやらふたりは一緒に寝てたようだ。 


 「そっか、なら良いんだけど急に家に来てもらって悪い」

 「事情は赤城さんから話は聞いてるよ。カスミはできることを頑張って、こっちは上手くやっておくから」

 

 なんと頼もしい……。


 楓は俺にとって家事全般の師匠だ。忙しい親御さんに変わり小学校の頃からやっていたらしく手際の良さはもはや神技の域。弟子の俺は遠く及ばない。

 

 中学時代から家に出入りしていたから、キッチンのどこに何が置いてあるか勝手を分かっている。何も心配はない。

 

 「ありがとう、後日改めてお礼をする」

 「気にしなくていいよ。それよりカスミの家に泊まるの初めて」

 

 「言われてみるとそうだな。まぁ今日は俺はいないけど」

 「この家に泊るのにカスミがいないの不思議な感じがする。それにわたしは同級生の家に泊まるの初めてだよ」

 

 「家で良ければいつでも泊りに来ていいぞ」

 「え!? それだとリナちゃんとわたしとカスミの三人で寝ることに……」

 

 「いや、それはないだろ」

 「え、あ、そうだよね。今リナちゃんと一緒に寝てるからつい……」

 

 楓が泊まりに来たとしても楓にはリナの部屋に泊まってもらい、俺は自分の部屋で寝るのが普通。男女三人で同じ部屋で寝るのは絶対にあり得ない。

 

 「俺は日曜日まで例のカレシ役の件でさくらの家に泊るけど、楓はどうする?」

 「特に予定もないしカスミの家のお掃除とかさせてもらって、明後日帰ろうかと」

 

 「家のことはほどほどで大丈夫だよ、それよりせっかくの休みなんだし、羽を伸ばしてくれ。俺の部屋にある漫画を好きなだけ読んでもらってもいい」

 

 「じゃあ時間に余裕があったらそうさせてもらうね」

 

 中学時代を含め楓が漫画を読んでいるところを見たことがない。

 

 「それよりカスミ、赤城さんの事だけど」

 「ん?」

 

 「あのさ、ふたりは……」

 「どうした楓?」

 

 「ううん、何でもない。カレシ役しっかりね」

 「おう」

 

 「ごめんカスミ、眠くなっちゃった。もう寝てもいいかな?」

 「あぁおやすみ」

 

 「おやすみなさい」

 

 間もなく電話は切れた。

 俺も早起きしないといけないからそろそろ寝ないと。

 

 ちなみに明日の最初の仕事はさくらお嬢様を起こすこと。

 

 まさか寝ぼけて襲い掛かってきたりしないよな。

 うちの妹じゃあるまいし。

 

 もし襲い掛かってきたら、俺に待ってるのは100%の敗北と死のみ。

 それも一撃で終わる。

 

 身を守るためにミスリル系などで完全武装できないだろうか。最強さくらたんの拳の前では無力かもしれないけど。

 

 そもそも女子は寝起きの顔を見られたくないと聞いたような。

  

 などと考えていたら俺にも眠気が襲ってくる……。

 もうあがなうことはできない


 結局その日分のソシャゲ無料ガチャを回さず俺は寝てしまった。

 

 翌日掃除機をかけるために俺の部屋に入った楓が、ベッド下で静かに眠ってるはずの特級呪物、転ギョニ円盤初回特典エメラルド縞パン、つまり女子物下着を見つけてしまい、大罪人と見なされた俺には終末の日が訪れる。

 

 迫りつつある最大級の危機をこの時の俺は知らない。

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