第78羽♡ 楓七変化(バージョン5:スク水)(下)


「そんなの決まってるだろ楓は俺の……」

「カシュミはまた”親友”て言うんでしょ~じゃあ親友ならさ一緒にお風呂入ろ~」

 

「はい~!? 何でそうなる――!?」

「親友ならお風呂くらいへーきだから~れす、ひっく」


「平気なわけないだろ! 親友以前に男女だし」


 楓は洋酒入りのチョコの影響をもろに受けて良識も常識も吹っ飛んでままだ。

 暴君化した楓の押しは強く、俺はかわしきれてない。

 

「リナちゃんとお風呂に入ってるれしょう~」

「小学校までだから!」


「赤城さんとも入ったれしょ~」

「それも小学生の頃だって!」


「凛ちゃんともお風呂に入ったくしぇに~」

「……入ってません」


 実際はこの前入ったけど、入ってないことになっている。

 真実は闇に葬った。

 

「凛ちゃんの時だけ敬語? あやしいあやしいあやしい~のら」


 あれ……

 ひょっとして俺、分かりやすいのかな?

 こんな状態の楓にあっさりバレてる?


 いやいや……たまたまだろ、上手く取りつくろえば何とかなる。


「すずちゃんとも入ったでしょ~」

「保育園の頃だよ! その時は楓も一緒に入っただろ?」


「そんなの知らない~」

「楓、憶えてないのか? 宮姫の家でキッズプール出してもらって三人で遊んだだろ」


「……最初から知らないだけだよ」

「え?」


 楓は少し寂しそう様子で本当に知らないって顔をしている。

 昔のことだし忘れてしまったのだろうか。

 

「それよりカシュミ~今すぐ一緒にお風呂入ろ!」

「だから入らないよ!」


 一瞬見せたシリアスな表情は何だったのだろう。

 いつの間にか暴君モードの楓さんに戻っている。

 

「どうしてもダメなにょ?」

「どうしてもダメです!」


「わたひがデブだから一緒に入るには狭いと思ってるんらろ~」

「思ってません」


  楓は太っていない。

  ただ女性らしい特定部位がご立派なので他の子よりはその辺が重そうだとは思ってはいる。……すみません。


「え~じゃあ、わたひ一人で入るからカシュミはお風呂の外にいて~」

「それなら……」


 おそらくシャワーを浴びてる途中で楓の酔い? いや目が冷めて元に戻るだろう。俺は外でじっと待ってればいい。

 

 よし――

 

◇◇◇◇


 楓を連れてお風呂場前に移動したけど相変わらず酔っぱらったまま……。


「あれ? カシュミ~肩のところはうまく外れないから脱がして~」

「楓、水着は着たままお風呂に入ってくれ。あとシャワーだけで湯船に入っちゃダメだからな」


「え~やだよ~気持ち悪い~」


 シャワーを浴びるぐらいなら大丈夫だろうけど、足元がふらついた状態で湯船に浸かるのは危ない。

 

 何かあっても俺が助けにくいし……。


「楓、校則で入浴時は水着を着るって書いてあったぞ、俺もそうしている」

「え? そんなのあったっけ? わかった~ありがとカシュミ~わたしは校則を守るのら~」


「よし楓えらいぞ」

「えへへ」


 とろんした瞳のままにっこり微笑む楓。 


 もちろん白花学園高等部の校則に、家のお風呂に水着を着て入れなんて書いてない。思考がぶっ飛んでても規則を守ろうとする楓には十分に有効だった。

 

「じゃあわたひはお風呂入ってくる~カシュミはそこから動いたちゃダメだよ」

「おぅ」


 お風呂場のドアガラスは半透明なので中は見えない。

 見えないけど見ないようにする。

 

 やがてシャワーの流れる音が聞こえてきた。

 いくら水着を着てても、同級生女子がすぐ横でシャワーを浴びているのは……マズい気がする。

  

 海の家ならあり得るシチュエーションだけど、ここは楓の家だし。

 

 シャワーを浴び始めて五分もしないうちに「あれ? わたし何で水着を着てお風呂に入ってるの?」から始まり「カスミそこにいる?」となり「早く向こうに行って!」に変わるまで一分とかからなかった。


 俺はリビングに戻り、飲みかけの冷めたコーヒーを一口飲んだ後、深呼吸する。

 

 疲れた――そして危ないところだった。


 ふたりきりのスク水は大胆過ぎるし、さらにチョコレートを食べて暴君化した後の波状攻撃はあまりにも危険だった。しかもお風呂に一緒に入ろうって……。

 

 どうなってるのこれ。

 

 これも加恋さんのシナリオなのか?

 だとしたら恐ろしいなあの人……。

 

 転生前はどこかの軍師とか? まさか三国時代のあの人とか……!?

  

 しばらくの間、リビングで一人勉強を続けていると、廊下側のドアが開き楓が戻ってきた。ほのかにシャンプーとボディソープの混ざった匂いがする。

 

 俺は楓に視線を向けず、そのまま勉強を続ける。

 

「カスミ……ごめんね」

「何がだ?」


「憶えてないけど、多分カスミを困らせたよね」

「いーや」


「……そっか。カスミはいつも……」

「どうかしたか?」


「ううん……何でもない。それよりカスミお願いがあるんだけど」

「ん?」


「わたしの髪を乾かしてもらってもいいかな……」


 長い黒髪からはまだ湯気が出ており、水も滴っている。

 細い首元に張り付く髪と赤い頬と濡れた唇が妙に色っぽい……。

 

 細い肩は丸見えで、太ももから下も素足が覗いている。

 胸元に大き目の白いバスタオル一枚で巻き付けただけの楓が俺の前にいる……

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