第77羽♡ 楓七変化(バージョン5:スク水)(上)


 一般的にカオスとは秩序がなく、あらゆるものが混沌とした状態を指したものらしい。


 つまり今の俺のような状態のこと……。


「ねぇカシュミ~」

「なんだ楓?」


「なんれもない。あっはははは」


 潤んだ瞳と真っ赤な顔で楓が嬉しそうに笑う。

 これが普通に機嫌が良いだけならいいけど残念ながらそうではない。

 

 まずは楓の格好。

 家の中にいるのに何故かワンピースタイプの黒の水着、通称スク水を着ている。

 

 シンプルなデザインで全身を覆っているため、際どい感じはないが……身体のラインはこれまでコスプレ以上に丸わかりだし。水着で抑えつけられてもお椀のような二つの大きなお山は隠せるわけもなく……。

 

 そして腰とお尻ラインと素足と……。

 すいません……ビキニほどじゃないにしろ、これはこれでエッチいかもです。

 

 スク水にはスク水オンリーのロマンを感じます。

 ガン見してもギリギリ許されるみたいな。

 何と言ってもむっちり感がたまらなく良いです。

 

「ん? カシュミ~今どこ見てたにょ~? 怒らないから素直に言ってみて」

「べ、別に見てないぞ」


「うしょ~つけ。今わたしのおっぱい見てたれしょ~」

「全然見てません」


「え~視線感じたよ~絶対見てたもん~見てたって言え!」

「スマセン、ほんのちょっとだけ……見てしまいました」

 

 なにこの地獄の様な問答……。

 

 拙者つらたんでござる。

 今すぐ逃げたいでござる。


「あ~えっちなんだ。いけなんだぁ……えっちなカシュミ君、楓しゃんはまたチョコが食べたいのです。はやく~食べさせて」

「楓もうやめとけって、なっ」


「うるさ~い早くして~」


 酔った目でじろりと睨まれた。

 怖いですよ楓さんマジ勘弁して。

 

「これで最後にしとけよ」

「わかった~あ~ん」


 小さな口にチョコレートをそっと入れる。

 やれやれ……。

 

「おいひ~あははははっ」


 楓が今食べているのは三時のおやつとして楓が出してきたチョコレート。

 まさか洋酒入りのチョコだったとは……。

 

 ちなみに洋酒チョコというのは未成年が食べても問題ないらしい。

 ただしお酒が弱い体質の人が食べると酔っぱらってしまうこともあるようだ。俺の目の前の人のように……。


 楓も最初の二、三個は全然平気そうだった。

 

 でも洋酒入りのチョコ独特の甘さと風味が気に入ったらしく、その後パクパク食べた。

 そして気づいた時には、目がトロンとさせたスク水酔っ払い楓さんが出来上がっていた。

 

 ……そして現在に至る。語尾がところどころ怪しい。

  

「カシュミはおっぱいが好きだよね~。この前も凛ちゃんやすずちゃんのおっぱい見てたし」

「み、見テマセンヨ、全く全然少しも……」


「女の子はねぇ~視線で分かっちゃうんだよぅ。誤魔化しても無駄だからにゃあ~

 や~いカスミのすけべ、えっち……あっはははは」


「……すみません」



 拝啓

 

 天国のお母様へ

 度々申し訳ございません。

 楓さんのからみが辛すぎて死にそうです。

 

 実際、前園や宮姫の胸をほんの少~しだけ見とれたことあるかもしれないのが辛いところです。


「はぁ……大体最近のカシュミはにゃんにゃなの? 白花に入学してかりゃ突然リナちゃんと同棲を始めるし、 凛ちゃんやすずちゃんに赤城さん……女の子た~くさん、中学までわたししかいなかったのに、もうもうもう!」


 ……事実なので反論できない。


 でも天使同盟メンバーと水野、広田を除けば、学園ではボッチだし、そもそもリナは親戚の子なので同棲じゃなくて同居だけど。

 

「この前、凛ちゃんと出かけた時、カシュミはにゃんかしたれしょう?」


 ますます活舌が悪くなってきてる。

 恐らく『何かしたでしょう?』って言ってると思う。

 

 前園と温泉に一緒に入り、あげくキスをしたとは言えないな……。

 酔いが冷めても憶えてるかもしれないし。

 

「普通に山登りしただけだけど」

「ふ~ん。しらを切るにょか~わたし騙されないよ~すずちゃんとも何かあるでしょ~?」


「宮姫は楓と俺の幼馴染だろ、それ以上はないよ」


「うそ~この前、カシュミが学校休んですずちゃんがお見舞いに行くことになった時、凄く嬉しそうだったもん~スキップしそうなくらい」


 俺が学校を休んで宮姫がお見舞いに来たあの日、宮姫はいつもの宮姫ではなかった。

 

 学校にいた時には少し変なテンションになってたようだ。

 楓はよく見てるな……。

  

 お見舞いにきた時のことも言えない。

 

「何もないよ。宮姫は普通に看病してくれただけ」


「じゃあじゃあ赤城さんは……親御さん同士が知り合いだと言ってたけどぉ、ふたりは仲良すぎるねぇ」

「子供のころから知ってるからな」


「さくらって名前呼びしてるし……」

「楓も名前で呼んでるだろ」


「わたしはちょっと前までまゆずみらったもん、それに赤城さんはカシュミのことすご~く信頼してるし」


 中学の途中までは、楓のことを旧姓苗字で呼んでいた。

 『楓』と名前で呼ぶようになって一年も経っていない。

 

 さくらは名前で呼ぶ理由……

 初めて会った時からしばらくは『さくらちゃん』って呼んでたな。

 いつの頃か呼び捨てに……?

 あぁ恐らく婚約した辺りだよな。


 『今日からあたしのことさくらって呼んでね。未来の旦那様』


 ……なんかそんなこと言って気がする。

 いずれにせよ楓には言えないよな。

  

「俺は楓のことも信頼してるよ」

「そーゆ―ことじゃないの、リナちゃんは結局カシュミのなんなにょ?」


「妹だよ、いや義妹……違った義妹もどき」

「……カシュミはいつもリナちゃんのことで頭がいっぱい。すごく心配してる」


「義妹もどきだから」

「違う……妹とかじゃらくってカシュミはリナちゃんのこと宝物みたいに大切なんだにょ」


 楓は本当に酔っぱらっているのか?

 いや……酔っぱらっているとしても普段の楓の目にはそう映ってるのか……。

 

「ねぇわたしはカスミの何?」

「そんなの決まってるだろ、楓は俺の……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る