第82羽♡ スイーツの誓い


 楓の家での勉強会を終えた俺が自宅に着いたのは午後7時過ぎだった。

 玄関をドアを開けると、なぜか目を閉じたままのリナが背筋を伸ばし正座している。


 ……妹よ何をやってる?

 

「お待ちしておりました兄上様」

「どうした? 餌……おやつ置いてったと思うけど」


「妹はペットではありません、ただペットのように溺愛したいのはわかります。おやつはもちろん頂きました。しかしながら育ち盛りでプリンプリンなわたしにはプリンプリン成分が足りなかったので冷蔵庫の眠っていた秘蔵プリンも頂きました。今はプリンプリンです。なんならわたしのプリンを触ってみます?」


「間に合ってます。あれ晩御飯の後食べようと思ってたのに……」

「この世は全て早い者勝ちでございます」


「じゃあ今度冷蔵庫でリナのプリンを見つけたら俺が食べるからな」

「妹のプリンを食べる兄は鬼畜です。まだ世界が混沌としていた太古の時代、神様は言いました。食べるならプリンではなく妹にせよと」


「……いつもに増して言ってることが滅茶苦茶なんだけど、神様がそんなゲスなわけないだろ、何か嫌なことでもあったのか?」


「特にございません。

 部活のミニゲームでさくらの蹴ったクリアーボールがわたしのぷりちーなお尻に当たっただけです。あの高慢ちきなくされセレブ、いつか簀巻すまきにしてやるなんてこれっぽっちも思ってません」


「思ってるんだな……仲良くしろよ」


「と言うわけで、これより兄上様の身体検査を行います」

「どういうわけだよ?」


「ドスケベな兄上様が、ドスケベな楓ちゃんとふたりきり……そんなのスーパードスケベ勉強会になったに違いありません! 

 

 『さぁ楓、まずは下着のチェックからだ、ぐふふふっ』

 『言われた通り極小マイクロ黒ビキニパンツ履いてます』

 『じゃあ楓君、そのミニスカートをたくし上げて、けしからんチミのパンチ~を見せなさい』

 『はい先生♡』

 

 とまぁ、こんな感じに……」


「リナの中で俺と楓の評価どうなってるの!? 

 途中から先生と生徒のいかがわしい関係になってるの何!?」


 でもコスプレだらけの勉強会だっただけに多少えっちだった気はする。

 

「だまれこの下郎がぁ! その場でおとなしくその場でじっとしなさい!」

「は、はい」


 妙なすごみのある妹が恐い。

 よくわからないけど。

 

 俺にピタッとくっつくと小さな鼻で匂いを嗅ぎ始めた。

 

「くん、くんくんくんくんっ、くん」


 ワンコかウチの妹は

  

「むむっ、こ、これは……でもあのダブル大玉スイカで迫られれば、ドスケベな上、絹豆腐メンタル兄上様なんて瞬殺されるの必定」


 ……メンタル弱いのは認めるけどさ、どうして楓がお色気で攻めてくる前提なの?

 楓がそんなことするわけが……けど。

 

「はぁ」

「どうした?」


「まさか楓ちゃんにナースやメイドにコスプレさせたあげく最後はセーラー服姿の楓ちゃんに不埒な行いを……」


「何もないから、人聞きの悪いのは止めて」


 でもリナ妄想の的中率が高いのはなぜ?

 

「年頃の娘っ子くさいにゃ、くさいにゃ、くさいにゃ――!」

「一日一緒に勉強してたんだから多少、女の子の匂いくらいするだろ」


「ずっと保健体育の勉強だけやってんでしょ~でしょ~でしょ~?

 それともお前の身体で化学反応実験させろとか?」


「発想がおっさん臭い……」

「おだまり愚兄! 

 楓ちゃんの残り香を徹底的に駆逐する! 

 この正義の心の臓にかけて!

 

 まずは一緒にお風呂に入って汗を流し、夜は同じベッドで寝て徹底的にマーキングするので夜呂死苦よろしく~!」


「もちろんそんなのはダメです」


「心配しなくても大丈夫だよ。兄ちゃんのが背伸びして大きなになっても、やっぱりそれはわたしの兄ちゃんでありだからわたしは恥ずかしがったりしないよ。兄ちゃんも兄ちゃんののことも。ぐへへっ」


 はぁ……

 兄ちゃんしか言ってないのに。どうしてこんなに卑猥に聞こえるのだろう。

 

「いつも通りお風呂は一人で入るし、夜も一人で寝るから」


「なんでやねん!? 

 年頃の義妹と禁断のお風呂タイム! プラチナ以上の価値があるはず」


「兄ちゃんは妹とのほのぼの生活が願ってるの。よろ~」

「がーん、ここまで愚かな兄だったとは……しゃーないお風呂場に強制突入しよっと」


「おっと……それはマズいな、先に手をうたせてもらう!」

「言っておくけど武力でわたしを制圧することは不可能だよ! 緒方君」


「まさか……そんな野蛮なことはしないぜ高山さん。もっとエレガントに」


「エレガントだと!?」


「帰りにコンビニ神スイーツ三点セット買ってきたんだけど」

「なっ! カスタードとホイップのツインシュークリーム、特製わらび餅にチョコレート入りショコラケーキだと……」


「あ、でもさっきプリン食べたんだったな……それにアスリートの高山さんがカロリーを気にせず食べちゃうのはマズいよなぁ。無理に進めるのはやめおこう」


「うぐっ」

「あ、でも賞味期限を考えると今日中に食べた方が良いなぁ……仕方ない俺が一人で」


「……いいよ」

「ん? なんか言った?」


「スイーツくれれば大人しくあげてもいいよ兄ちゃん」

「どうやら立場の違いがわかってないな妹よ。

 何でもいうことを聞きますから愚妹のわたしめにスイーツを恵んでくださいだろ!」


「ぬぐぅうう……わたしにスイーツをください」

「30点やり直し」


「うきぃ――! な、何でもいうことを聞きますから愚妹のわたしめにスイーツをくださいませぇええええ! お兄様」


 軍門に屈し土下座する義妹もどき、チョロ過ぎて兄ちゃん心配。

 

「よし……」

「わーい♡ 兄ちゃんチュキチュキ、ヒャッホー」


 スイーツ達はあっという間にリナの口の中に消えた。

 

「……スイーツに誓って今日は大人しくしててあげる、だけど明日は」

「言い忘れてたけど明日親父がアメリカから帰国するって」


「なんですとぉだよ――!?」


 その晩、舌も乾かぬうちに『スイーツの誓い』をあっさり破ったリナがシンデレラの魔法が解ける時を回った頃、夜襲をしかけてきた。


 だが俺は念のため自室ドア前にバリケードを築いたため、リナの進撃を許さず、事なきを得た。


 ――やれやれ

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