第126羽♡ はじめての夫婦ライフ(#16 未来の義父)
どちらかと言えば赤城さくらは母親似だと思う。
顔立ちや切れ長の瞳はそのままだし、声色や所作もよく似ている。
だが、レッドブラウンの髪は父親の赤城
さくらには学年三つ下で現在ウィーンに海外留学している弟がいるが、こちらは髪の色がツカサさんと同じ濃い黒であり、顔は父親似のため、姉とは印象が異なる。
小学校時代にバイオリン世界大会で賞を取った天才肌だが、その性格は木登りと駄菓子が好きそうな生意気な悪ガキで、金持ちの子息には見えない。
個性的な面々が揃う赤城家の人々ではあるが、なぜ今更、家族構成を回想しているかというと、朝の騒ぎを聞きつけたさくらパパこと赤城淳之介氏に呼び出され、現在詰問されているから。
……まぁ無理もない。
フィアンセとは言え、さくらとふたりで寝室で寝てて、その場をさくらママに抑えられたのだから。状況証拠だけなら俺はクロになる。
淳之介氏は汚い言葉を絶対に使わない人だが『このヤロー! ウチのさくらたんと俺の家で何やってんだゴラァ!』っと
だけど俺は昨晩さくらを寝室に連れ込んだわけではなく、あてがわれた部屋で一人大人しく就寝していただけで、目が覚めたらいるはずのないさくらが横で寝ていた。
回避不可なイベントであり、どうしようもない。
「朝から随分賑やかだったね。できれば君の口から説明してもらってもいいかな。緒方君」
淳之介さんは口調こそ穏やかだが厳粛な空気を醸し出しているため、俺は必然的に緊張し背筋が延びる。
「はい。昨晩さくらさんと部屋で話をしていましたが、途中でさくらさんが寝てしまい、ボクもバイトの勤務時間がいつもより長かったこともあり、疲れててそのまま寝てしまいました。さくらさんを部屋まで送れなかったのは、申し訳なく思っております。ですがふたりとも朝まで熟睡していたため、ご心配されるようなことは一切ございません。ただ誤解を招く状況になったことは事実です。誠に申し訳ございません」
実際はさくらが俺の部屋に押し掛けてきたわけだが、そこは言わない方が良いだろう。
黙って聞いていた淳之介さんは机の上で両腕を組んだまま、瞼を閉じる。
「つまり私が心配するようなことは何もないと言うことで良いね」
「はい」
一呼吸すると閉じていた瞼をゆっくり開き、さくらと同じ黒の中間色の様な瞳を俺を見据える。これまで以上に身体に緊張が走り思わず、思わずごくりと唾を飲んでしまう。
「……わかった信じよう」
「ありがとうございます」
「そもそも私は、君がさくらを傷つけるようなことをすると思ってない。妻にも君を責めるなと言われている。だが一つだけ確認させて欲しい」
「はい」
「さくらのことはちゃんと考えていると言うことで良いかね?」
「もちろんです」
「ならいい」
淳之介さんは少し笑うと、先ほどまでと違い少し柔らかい雰囲気となった。
「ところであいつは……君のお父さんは元気にしてるかな?」
「はい、ご存じかと思いますが、父はひたすらマイペースな人で一度部屋に閉じこもると中々出てきませんから。でも食事はちゃんと取ってます」
「そうか。たまには酒でも飲みに行こうと伝えておいてくれるかな」
「かしこまりました」
「さくらは白花学園で上手くやっているかな? これまで幼児舎から三条院女学院で共学は初めてだから親としては少々心配でね」
「クラスでは男女問わず上手くやっているようです。白花は真面目な生徒が多いので、今のところ問題ないかと思います」
「そうか。あの子は少し気が弱いところがあるから、君以外の男子が相手だとちゃんと喋れるのか気になってね」
可憐な容姿とは真逆の超武闘派さくらたんの実態を知らず、近づいた男子は例外なく撲殺もといお仕置きされたため、不用意にさくらに挑む愚か者はいないだろう。
「はい。その辺も大丈夫です。いざという時は、ボクがさくらさんを守ります」
とは言ったものの
「頼むよ緒方君、あと今日は父の誕生日会に出席してくれてありがとう。今度必ずお礼をさせてもらうよ」
「いえ……さくらさんのフィアンセとして当然のことです。気にしないでください」
「それは頼もしい、君さえ良ければさくらと同様に我が社に参画してみないか。キャリアサポートはこちらで行う。社会を早めに知って損することはない」
「ありがとうございます。ですが今は日々の生活で手いっぱいなのと、何より高校生活を楽しみたいので折角ですがご遠慮させていただきます」
「そうか気が変わったら、連絡をくれるかな」
「はい」
普段から会議場面の多い深夜アニメやラノベの令嬢モノなどで、こうした場面の会話を見慣れているせいか、スラスラと言葉が出てくる。
ありがとうアニメ。
ありがとう漫画、ラノベ、ゲーム。
これからも全力で推します。
ちなみに洋ゲーやアメコミも好物です。
こうして俺はさくらパパこと赤城淳之介氏の詰問を無難に潜り抜けることができた。
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