第127羽♡ はじめての夫婦ライフ(#17 誕生日会という名の戦 その1)


 空気が重い……

 

 こんなギスギスした誕生日会は始めてだ。

 

 参加している赤城家親族の人たちはみな笑顔を浮かべ、一見和やかそうに見える。

 

 だが俺とさくらが彼らに挨拶に行くと、明らかに見下した視線を向け、中には横柄な態度を見せる人までいる。

 

 面白くはないが、どこの馬の骨ともわからない俺にそうした態度を向けるのは百歩譲って仕方ないのかもない。

 

 だが本家の長女であるさくらにも同様の態度をとるのは明らかに異常だ。


 

 7月15日日曜日午後1時過ぎ――

 赤城家本館一階にある大広間で誕生日会は行われている。

 

 誕生日会の主役である先代赤城グループ代表で、現在は会長の赤城安吾あんご氏は今日で63歳になるらしい。

 

 髪の毛には多少白髪が混じっているが、体格はがっちりしており肌艶はだつやも良く実年齢より若々しい。

 

 大広間中央に設置されたテーブル席に一人陣取り、親族達は挨拶と共にプレゼントを渡すため列を作っている。

 

 だが遠くから見ていると今日の主役は全く笑っていないこと、親族達が張り付いた笑顔を浮かべ、こびへつらっているのがよくわかる。


 また身振り手振りも合わせ大袈裟に安吾氏を持ち上げてる人もいるが、その言葉は全く心がこもっていない。

 

 「ごめんなさいね……毎年こんな感じなの。でもあんまり難しい顔はしないよう気を付けて」

 

 「あ、ごめん」

 

 辺りに聞こえない様にさくらが小声をかけてくる。

 どうも顔に出てしまっていたらしい。気を付けないといけない。

 

 赤城家がギスギスしている理由は30年ほど前にさかのぼる。

 

 安吾氏は三兄弟の三男であり、本来は家督やグループ代表を継ぐ立場ではなかった。

 

 しかし安吾氏と歳の離れた長男には商才がなく、次男も同様だった。また会社や従業員に対し真摯でもなかった。


 1990年代初頭、長男と次男は会社資金を不正流用し私腹を肥やすための投資に当てた。結果、これらの投資はバブル崩壊の際に、そのほとんどが焦げ付き、赤城グループに多額の負債を招いた。

 

 この事件は世間に明るみとなり、グループの株価は暴落し、社会的信用も失墜した。


 事態を重く見た当時の当主は、責任を取り赤城グループ代表を退任し、決定権のない会長職となり、長男、次男は重役を退任するだけなくグループからも追放となった。

 

 そして当時赤城グループとは関係のない大手銀行で働いていた安吾氏は急遽赤城グループの後継者としてグループ代表と家督を継ぐこととなった。

 

 その後、安吾氏は長男、次男勢力が要職を独占していた時代にくすぶっていた社員たちと力を合わせ、会社を立て直し赤城グループは以前よりも大きな企業体として再生した。

 

 一方で追放した長男、次男には赤城家から生涯生活に困らない程度に支援を続けた。また、その近親者には、事件後しばらく経った後に、希望があれば赤城グループ内での仕事に復帰させた。

 

 だが年月が経とうと長男と次男は反省することはなく、その近親者達も同様であった。長男と次男が亡くなった後は、ますます横暴になり当たり前の様にグループ内での厚遇対応と重要ポストを要求してきた。


 応じない場合は、犯罪まがいな事を匂わせてくることもあったとのこと。


 「さて……カスミ君わたしたちの番よ」

 「あ、あぁ」


 誕生日会参加者のプレゼント渡しが一通り終わり、俺とさくらが渡す番がようやく回ってきた。

 

 俺たちは白花学園高等部の制服で出席している。

 

 他の親族達は、年齢問わず、男性はタキシード又は高級ブランドのスーツ、女性はパーティ用のドレスか着物だが、さくらが言うにはで着飾るのはおかしいとのこと。

 

 俺たちはいつものように白花学園高等部の制服を着ている。


 誕生日会の前にさくらが『制服以上にわたしたちに相応しい服はない』と言っていた時は疑問だったが、今は俺も制服で良かったと思う。

 

 着慣れていて落ち着くし、制服だと巨悪と戦う学園バトルアニメみたいで何だか燃えてくる。

 

 こんな状況でも、余裕すら感じるフィアンセと共に赤城家のラスボス?安吾氏の元へと進む。

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