第128羽♡ はじめての夫婦ライフ(#18 誕生日会という名の戦 その2)
「お祖父様、この度は63歳のお誕生日おめでとうございます。こちらはわたし達からのプレゼントです」
プレゼントはさくらが事前に用意してたもので俺は一切タッチしてない。
これは失敗だった。
ここのところバタバタしていたけど、少しぐらいなら時間も取れたはずで、事前に用意しておけば良かったと思う。
「ありがとうさくら、そちらの男性は?」
「以前お話したフィアンセの緒方霞さんです。私と同じ白花学園高等部の一年生なの」
「初めまして緒方霞です。この度はお誕生日おめでとうございます」
「あぁ君が……今更不要かもしれないが、さくらの祖父
「さくらさんに比べれば全然です」
「彼は謙虚だねさくら」
「はい、緒方さんはとても謙虚で真面目な方です。それに誰にでも分け隔てなく接する優しさがあり一部の女生徒からとても人気がありますの」
「では他の女性に捕られないように、さくらはしっかり見張っておかないといけないね」
「ふふっ……そうですね」
憮然とした表情で親族達の相手をしていた先ほどまでと比べると、安吾氏は少し柔和になった気がする。厳しそうな人に見えるが、孫の前では違うのかもしれない。
それより一部の女生徒から人気って……楓やリナ、前園や宮姫のこと?
楓達を除くと学園内のその他の女子からは、鬼畜とか女の敵とか言われてほとんど話すこともできないけど。
「プレゼントを開けてみても良いかね?」
「はい、もちろんです」
安吾氏がプレゼントの入った包みを開けると、中には移動中に便利なハンディ扇風機と首元をクールダウンできるネッククーラーが入っていた。
どちらもとても便利だ。
俺もネッククーラーはお風呂上りによく使っている。
だが高価なものではないし、大企業のトップだったセレブの安吾氏にはイマイチ合わないように思える。
安吾氏の座るテーブル席には高級ワインや腕時計などの高級品のプレゼントが
「鉢植えの手入れをする際、熱射病にならないようにネッククーラーを使ってください。ハンディ扇風機もお出掛けのお供にして頂けると嬉しいです」
「ありがとう……大切に使わせてもらうよ」
安吾氏は、わずかにほほ笑む。
だが……
俺たちの様子を遠巻きに見ていた親戚縁者から失笑する声が聞こえた。
「なんだあれは……あんなもので大叔父が喜ぶはずがない」
「本家の天才令嬢もたかが知れてるわ……」
悪意のある視線だけではなく、さくらを嘲笑する声が聞こえる。
すごく腹立たしい。
だけど先ほどさくらに感情を出さないように注意されたばかりだし、こらえるしかない。
俺とさくらは安吾氏に一礼した後、それらの視線を全て無視し自席に戻った。
その後はケーキカット、現当主である淳之介氏の挨拶と続き。フリータイムとなった。
食べ物と飲み物はビュッフェ形式で種類も多く、どれも美味しそうだったが、俺もさくらもサンドイッチやサラダ、フルーツなど軽食で済ませた。
親族達の中には、用意されたお酒をがぶ飲みしている人もいる。最初は大人しくしていた彼らも、酒量に合わせ声が大きくなってきていた。
さくらパパこと淳之介氏は不遜な態度をとる親族達と代わる代わるに言葉を交わし、さくらママことはツカサさんも同様に挨拶周りをしていたが、ほどほどで済ますと俺とさくらと同じテーブル席に戻り、品の良い笑顔を湛えたままシャンパンを少しだけ味わっている。
いつものぶっ飛んだツカサさんとは違い、赤城グループの社長夫人として隙のない気品と風格を漂わせている。
「あたし昔からあの連中に嫌われてるの、マジムカつく」
俺とさくらにだけ見える角度でボソッと爆弾発言をすると、また何事も無かったように優雅な笑みを浮かべる。
針の
孤立無援
四面楚歌
これらの言葉が次々と浮かび、他に類義語がなかったっけ? と考えてしまうお誕生日会とは一体……。
会が始まる前まで一番の難敵は、前当主にしてさくらの祖父である安吾氏かと思っていた。
一般人の俺とさくらの婚約をよく思っていないだろうと。
だが今現在最大の問題はさくらの親戚一同だ。
全ての人ではないかもしれないが、ほとんどの人から悪意や敵意しか感じない。
過去にいざこざが合ったのは事前に聞いている。
結果、安吾氏の実兄達は赤城グループから追放されたことも。
ただ追放された理由は妥当に思えるし、また処分を下したのは安吾氏の父にあたる今は亡き先先代当主だ。
逆恨みしているなら全くもってお門違いだ。
生まれる前の話で、親族達に冷たい目を向けられるさくらをこの場にいさせたくないから。
「この家に生まれた人間の務めよ。あまり気にしないで」
先ほどのツカサさんと同じように今度はさくらが俺の心の中を読んだとしか思えない答えを小さな声でつぶやく。
「それに心配しなくても、もう少ししたら一気に面白くなるわ」
「どういう事だ?」
「見てからのお楽しみよ、でも一つだけ注意して、次はわたしだけでなくダーリンにも直接彼らの矛先が向く可能性があるわ、挑発されてもまともに相手にしてはダメ」
「……わかった」
元々俺にはさくらの様なプライドとか気高い信念のようなものはない。何を言われても平気だ。
だけど大切な人たちは守りたい。
また守るべき人が不必要な批判に
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