第165羽♡ TEL! TEL!! TEL!!!

  

 『いや~つい口喧嘩に乗ってしまったぁ~オレもまだ若いな」

 

 「まだ16歳だからな。それよりどうする? 前園自身の問題も片付いてないのに」

 

 『それな。来月から住む場所も決まってないのに、明日からアイドル活動をやりますは無いよな』


 ――7月20日一学期最終日の午後の事。


 バイト先のディ・ドリームに来た前園、楓と後輩の葵ちゃんが口論になり、結果として俺ことカスミン、葵ちゃん、加恋さんの三人組と前園、楓のペアでなぜかアイドル対決をする事になった。

 

 バイトが終わり帰宅した後、今はこうして前園と電話で話をしている。


 「アイドル活動をするから日本に残りますってのはダメかな?」

 『そんな取って付けたような話を、母さんが信じるわけないだろ』

 

 前園のパリ行きの可能性は依然として残っている。


 ただ日本に残るための下宿先として、赤城家が手を挙げている。

 明日話し合いを行い、前園家と赤城家の両家が合意すれば一気に解決する。

 

 下宿先と言えば……。

 

 「そう言えば前園、冗談半分に聞いてほしいけど、ウチも下宿OKらしいぞ。でも赤城家の方が1億倍は住み心地が良いから、考えなくて良いけど」

 

 『えぇえーー!?』

 「おい、急に大きな声を出すなよ」

 

 『急にビックリするような事を言うなよ! つまり緒方はオレと一緒に暮らしたいって事?』


 「いや、俺じゃなくてリナが親父と話を付けてきた」

 『妹ちゃんかぁ……そうだよな~緒方の意志じゃないのか』

 

 何だか前園がガッカリしている。

 

 あれ?

 ひょっとしてミスったかな?

 前園と暮したいと言った方が良かったかな?

 

 『来た事があるからわかると思うけどウチは狭いぞ、うるさい妹もいるし』


 「寝床があれば十分だよ。数年前まで築45年6畳一間のアパートに母さんとふたりで住んでいたし」

 

 前にノーラさんが写真家として成功するまで苦労したと言っていたな。

 晩御飯のおかずが一品とかもザラだったとか。

 

 「まぁ我が家への下宿は参考程度に」

 『わかった……でもじっくり考えるよ』

   

 「明日の赤城家訪問が終わってから話をしよう」

 『そうだな』


 前園とノーラさんの訪問には俺は同行しない。


 赤城さくらのフィアンセであるという事実を伏せていても、前園と赤城家に行けばボロが出るかもしれない。


 『さっきのアイドル活動の件だけど、少しだけ相談に乗ってもらえるか?』 

 「俺にわかることなら」


 そのまま前園と数分話をした後、電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ」

 

 一息ついた後、頭の中を整理する。

 

 ボーイッシュで社交的な前園と、大人しく清楚な楓はアイドルユニットとしてバランスが良い。

 

 それにふたりは天使同盟だ。

 学園内の生徒で大きな話題になる可能性は高い。

 つまり今の段階でも、ある程度のファン増員が見込める。

 

 パフォーマンスについても練習すれば前園は問題ないだろう。

 だけど楓は……このままではまずい。

 

 アイドル対決ではふたりのライバルになる俺が心配するのも変だけど。

 

 とりあえず困った事、わからないことは、優秀なに相談しよう。

 

 「報告」「連絡」「相談」、略して報連相ほうれんそうが大事と以前ミリタリーモノのラノベで学んだ。戦況の変化に気づいたら兵士は、逐一上官に連絡しなければならい。


 前園との電話を終えたばかりだが、また違う相手に電話をする。

 わずか3コールほど繋がる。

 

 「もしもし赤城少佐、本日の試合、お疲れ様でした」


 『ありがとう。リナから聞いていると思うけど、2対1で僅差の勝利だった……ところで少佐になった憶えはないわ』

 

 「明日、前園親子がそちらに伺うと思いますが、どうぞよろしくお願いします」


 『そのことは問題ないわ、弟も留学中で、お祖父様は別住まいだから、母屋は人が少なくて寂しいくらいだもの、将来を見越して、ダーリンも明日から住んでも構わないわ』

 

 「ボクが家を出ると、緒方家は崩壊危機を迎えるのでしばらくは遠慮します。実はもう一つお願いがありまして、この度、前園と楓がアイドル活動をする運びとなりました。そこで赤城少佐にはふたりのプロデュースをお願いしたく」

 

 『何を言っているのかしらダーリン、良くわからないから順序立てて説明してもらえるかしら』


 「承りました少佐」

 

 『その少佐というのを止めて』

 「では皇帝陛下」

 

 『わたしは普通の女子高生よ、少佐よりも偉くなっているわ』 

 

 俺は、今日の一部始終をさくらたん皇帝に具申した。

 

 「……と言う訳です。才能あるふたりの少女を育て上げ、皆に愛されるJKアイドルにするのは、やりがいがあるかと存じます」


 『確かに面白そうだとは思う。でもわたしには時間が無いわ』


 「では皇帝陛下を含め、信頼できる複数のプロデューサーで支援をするというのはどうでしょう」

 

 『それなら何とかなりそうね……少しだけ考えてみるわ』

 「ありがとうございます」

 

 『ところでダーリンはわたしを便利屋の類と勘違いしていないかしら?』


 「まさか……優秀なフィアンセにしかできないだから、恥を承知でお願いしております」

 

 『物は言い様ね……いいわ、もうしばらく騙されてあげる』

 「ありがとうございます」

 

 『もちろん、タダじゃないけど』

 「ははぁーー全ては仰せのままに」

 

 俺がさくらにあげられるものは、全部あげる。

 今日でも昨日でも明日でも……。

 

 『ところで凜さんは、本当にさっきのアイドルユニット名にするって言ったの?』


 「あぁ」

 

 『そう……絶対にあんな名前付けさせないわ、じゃあそろそろ』

 「あぁおやすみ。明日はよろしく」

 

 さくらとの通話を終わらせる。

 

 ……そうだよな。

 普通そう思うよな。



 

 インパクトはあると思うけど、楓とのユニット名を『ダイナマイツ・おっぱいシスターズ♡』にすると言われても……。

 

 デリケートなワードが入っているせいでツッコミ辛い。

 でも同性のさくらなら、バシッと指摘して修正してくれるだろう。

 

  

 俺がさくらに電話している間に、宮姫からの着信が入っていた。

 しかし時計の長い針は零時を回っていたため、折り返し連絡をしたのは日中になってからだ。


 宮姫が伝えようとしていた事は、前園の今後を大きく左右する事となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る