第118羽♡ はじめての夫婦ライフ(#8 バイト先に嫁来たる)
ヤッホー!
皆さんこんにちは
わたしは
都内某所にあるカフェレストラン『ディ・ドリーム』で働く高一の女の子です。
学校では目立たなくて、人前でもおどおどしてしまうけど、バイト中はそんなことも言ってられない。
お客様にはできるだけ大きな声で挨拶して、ニコニコスマイルを心がけています。
たまにドジをしちゃうけど、困った時は頼りになる紳士的な店長さんや大好きなバイト仲間さん達といつも助けてくれるの!
わたしはここでバイトすることが大好き!
ここで働いてる人たちも大好き!
お客様も大好き!
「カスミン先輩、クレジット決済ってどうやるんですか?」
「葵ちゃんやったことなかったっけ? ちょっと待ってね」
黒髪ロングでどこか猫を連想させる愛らしい少女がわたしに声をかけてくる。
佐竹葵ちゃん。
今週からバイトを始めた新人の子。
わたしと同じ高一で、一つ隣の駅にある
小柄でわたしとは20センチくらい身長差があるけど、すごくかわいい子。
女子校ってかわいい子ばかりなのかな?
うちの学校なら男子達に凄くモテそう。
でも葵ちゃんは男子が少し苦手なんだって。
わたしも強引に連絡先とか聞いてくる男の人は苦手だから、ちょっとわかるかも。
葵ちゃんは夏の間だけの短期バイトだから夏休みが終わればいなくなってしまう。
ずっと一緒にバイト出来たらいいのに……。
「カスミン、葵ちゃん! 4卓と5卓をかたすの手伝って」
「「はーい」」
男子大学生と思われる8人組が去ったテーブルの上には、山のように空いた皿とコップが残っている。
わたしたちは足早に加恋さんの元に向かう。
加恋さんこと望月加恋は、都内国立大学に通う二年生。
染色した青髪ウルフカットとカラコンが印象的だから派手な人に見えるけど、わたしが初めて会った高校生の頃はどこか儚げな雰囲気のある人だった。
二十歳を超えてから晩酌が趣味になったらしいけど、身体に障らない程度にしてほしい。
ところで日本酒はお肌に良いって言ってたけど本当かな?
15歳のわたしにはしばらく関係ないけど。
わたしが『ディ・ドリーム』で働くことになったのは、加恋さんの妹の楓ちゃんに紹介してもらえたから。
わたしに飲食バイトができるか心配だったけど、以前から知り合いの加恋さんがいるのは心強かった。
これからも沢山わたしに教えて欲しいな。
なんて……
はっ……
目の前の現実が過酷すぎて現実逃避していた。
葵ちゃんがスタッフルームの鍵をかけないで着替えをしていたから、うっかり覗き見しそうになった。
……と言うか若干見えた。
「女同士じゃなかったら、ぶっ飛ばしてるところですよ」
ってさらっと言われたけど、俺は男だから本来ならぶっ飛ばされないといけない。
葵ちゃんは接客している時は愛嬌抜群だけど、バックヤードでは
「男性客の胸元やお尻への視線がマジキモい」
とか
「葵たんって呼ばれて鳥肌が立った」
とか、表と裏で全然違う。
女の子は怖いです。くわばらくわばら
加恋さんはと言えば今日も二日酔いのまま、千鳥足と紫色の顔で時間ギリギリで出勤してきた。
スタッフルームの机には彼女が飲んだしじみやウコンの二日酔い対策ドリンクの瓶がゴロゴロ転がってる。
休憩時間に競馬新聞を読んで、赤ペンでチェック付けながらブツブツ文句を言ってる。
見た目は昔と変わらず美女だけど中身は完全におっさん化してる。
あと店長……
いたいけな男子高校生の俺に女装を強要し、その上数々のセクハラ変態発言。未だに警察のお世話になっていないの不思議な人だ。
しかも時給が安い!
とにかく安い!
バイト代よりメイク代など諸経費で消えていく金額の方が多いので緒方財政は二か月連続で赤字だ。
当初はバイト代で妹に服を買ってあげたり、ソシャゲのガチャ費用にあてるつもりだったけど、手元にお金が全然残らないから何もできない。
というわけで職場環境及び条件が劣悪です。
一日も早くここのバイトを辞めたいです。
だけど色々複雑な事情が重なり辞めれません。
くすん……。
「今日のカスミンセレクトはサイコロステーキだよ。ジューシなお肉がふわふわだから食べに来てね♡」
……っと。
少しあざといかもしれないが「わたし待ってる♡」とか付け加えた方が良かったか?
SNSをポストする際のさじ加減がよくわからない。
最近カスミンSNSのフォロワー数の伸びがイマイチだ……。
買い物に行った時にかわいいものを見つけたり、公園で見つけた綺麗な花の写真なんかアップしてけど、反応がイマイチ芳しくない。
SNSがバズるための秘訣とは何ぞや?
いっそのこと趣味のゲームやアニメの紹介を載せた方がいいのかもしれない。
だけどそちら路線もライバルが多そうだし……。
しかも最近忙しくて、アニメやゲームに割いてる時間が足りてないから明らかに知識不足だ。
う~ん。
カランカラン――♪
お客様来店を告げるベルが鳴る。
「いらしゃいませ。カフェレストラン ディ・ドリームにようこそ」
……ん?
何かよく知ってるふたりがお店に入ってきたんですけど!!!
ひとりは赤城さくら、俺のフィアンセ。
もうひとりは高山莉菜、俺の妹。
ひょっとして俺は
――いやいやいや
くだらないダジャレを考えてる場合じゃない。
こんな現実、俺は認めん!
決して認めんぞ――!!
さくらはまぁともかく、妹にこんな痴態を見せれらない。
「兄ちゃんそんな趣味があったの? 出来れば隠さず言って欲しかったな。わたし学園の寮に入るね。もう話しかけないで、ばーい!」
とか妹に言われたら俺はもう生きていけない。
どうする?
どーしたらいいの?
うぎゃ――!!!
「カスミン先輩、さっさと今来たお客様を席に案内してください」
葵ちゃんの悪意のない一言がわたしを壊す。
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