第17羽♡ 天使たちの集いモップ会(下)

 

 円卓の最後の席に前園が座り、通称『モップ会』の面々は一同に揃った。


「いや~購買部が激戦でさ……カリブ風カニみそクリームパンはともかく、焼きそばパンは死闘だったよ。でもどういうわけか皆が譲ってくれた」


 パンを譲ってくれたのはあなたが前園凛だからだよ。

 皆大好き前園さんだからね……。パンがなければ喜んでお菓子も差し出すよ。多分

 

 それにしても、焼きそばパンを欲しがるエロフじゃなかった。エルフなんてアニメでもラノベでも見たことないし。

 

 ある意味新しいかもしれない。

 それより何でカリブ風カニみそクリームパン買ったの!?

 

 カリブ風カニみそクリームパンは、パンの中に本物のカニみそが入っているわけではなく、カニみそ味を再現したクリームが入っている。


 このカニみそ風味のクリームとパン生地との相性が微妙なので、遅れて購買部に行くとカリブ風カニみそクリームパンは大抵余っている。

 

 俺も授業終了後スタートダッシュで出遅れ、一度だけカリブ風カニみそクリームパンを購入したことがある。


 個性的な味付けではあるけど、決してマズいわけではない。

 だからと言ってもう一度食べたいかと聞かれたら、今のところ食べたいとは思わない。


 そもそもあの味のどの辺がカリブ風なのかよくわからない。 


「もうちょっと身体に良い物を食べた方がいいじゃない……別にどうでも良いけど」


 不機嫌な声で宮姫が前園に告げる。


「普段はちゃんと作ってるよ、……そんな他人行儀に言うなよ」


「知らない……」


 宮姫はプイっと横を向いてしまう。

 それは見て前園は苦笑いをしている。


 ん~『姫園のふたり』の様子が今日も変だ。

 前から気になってはいたけど、このふたりやはり何かあるようだな……。

   

「さぁみんな揃ったしご飯食べよう! いただきまーす!」


「「「「「いただきます!」」」」」


 前園と宮姫のふたりが変な空気に成りかけていると察したのか、楓が手早く「いただきます」の号令をかけた。


 しばらくの間、無言で各々のご飯を食べた。

 静かになると周りの声がよく聞こえる。

 

 ざわざわするカフェテリア全体から俺たち六人に視線が集中してるのを感じる。


 正確には、五人の天使への好意的な視線と、俺に対する「死ね!」「その場所、俺と変われ!」「このモップ野郎!」という怨念とも呼べるものだが……。

  

 まぁあれだ……。

 天使達がみんなかわいいから仕方ないよね。


「リナちゃんのお弁当もカスミが作ってるんだね? 上手になったよね」

「師匠の教えた方が良かったからな」


 楓に料理を教わるまでカレーとインスタントラーメンくらいしか作れなかったけど、最近はレパートリーが増えたし、ネットで調べた新しいメニューにも挑戦している。


 親父は料理が全然できないし、楓が教えてくれるまでは俺も料理にそれほど興味がなかったので、あのまままだと我が家の食生活は悲惨なことになっていた。


「緒方君のご飯おいしいよ。いつも食べ過ぎちゃう~」


 リナがニコッと微笑み、両手をほっぺに当て幸せそうな顔をする。


 やめて~~~~!!!!


 お兄ちゃん感動して泣いちゃうから~!

 今日も早起きした甲斐があったよ~!

 

 愛する妹のために明日も頑張る~。

 でも……。


「たくさん食べるのは良いけど、お腹いっぱいになって眠くなったら部屋で寝てくれ」


 リビングで寝たリナを何度かお姫様抱っこで部屋に運んだけど脱力した人間は重い。

 寝落ちしそうになったら部屋に戻ってほしい。

 

 お兄ちゃんが次の日に筋肉痛になるから。


「そう言わず、わたしの部屋まで運んでよ緒方君、多少のは我慢するからさ」


 そう言った後、一瞬悪い顔をしたリナを俺は見逃さなかった。


 こいつめ……俺をおとしめるチャンスと見て、すかさずブッコんで来たな。

 

 ――見える。

 ――見えるぞ!

 リナの背中に生える漆黒の翼や頭の捻じれた角と尻尾がこの目にはっきりと!

 

 ていうか、こいつは天使じゃなかったのか? 

 確か『気ままな天使』と呼ばれてたような。


「ケダモノ……」


 宮姫が俺を蔑むような眼差しでぽつりと言う。

 

「いけないお兄ちゃんだな……かわいい妹ちゃんにおさわりしちゃうんだ。へ~」


 前園がニヤニヤしてる。

 

 しねーよ!

 妹におさわりするお兄ちゃんなんていてたまるか~~~~~!


 ちなみに『放課後の天使』こと金髪碧眼エロフ様がエロいことを仰ると通常よりエロが三割増しになります。ご注意ください。

 

 あくまで個人の感想です。


「リナ、家に出入りしている庭師からこの前よく切れる手斧を貰ったの、後で貸すからその不届きものを脳天から真っ二つにしなさい!」


 ちょっと、さくらたん!

 うちの義妹もどきに物騒な指示を出すの止めて~! 


 ところで、よく切れる枝切り鋏とか手斧とか赤城家に出入りしている庭師さんって何者なの!? 


御意ぎょい!」


 御意じゃね~よ! 義妹もどき~!!

 お願いだから兄ちゃんを真っ二つしないで~!

 

 ところでさっきから一人静かな方がいらっしゃるような?

 

 あれ……なんか寒いんだけど。

 室温が急激に下がってる?


 はっ!

 この辺り一面氷漬けにしかねない凍結魔法の使い手と言えば……。

 

 ひょっとして楓さん?   


 恐る恐る俺の親友を見る。 


 笑顔のまま怒っていらっしゃる~~~~!? 

 どす黒い負のオーラがだだ漏れしてて既に臨界点寸前まで!?


 ぎゃひぃ――――――――い!!!!


「まぁそれくらいにしてやれよ。緒方がマジでビビってるしさ……

 ところで皆に相談なんだけど……今からグループRIMEでメッセージを送るね」


――ピンポーン!


 着信音がほぼ同時に五人のスマートフォンから響く。

 俺はそのままスマートフォンを操作し、前園のメッセージを開く。


 お凛ちゃん『今週の土曜、遠出するから緒方を借りても良いかな?』

 突然の提案に天使同盟一同は静まり、只ならぬ緊迫感が漂い出す。


 なぁ前園、それどういうこと?



※※※※※※※※※※※

カリブ風カニみそクリームパンはフィクションの食べ物です。

実際の食べ物となんら関係はございません。

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