第16羽♡ 天使たちの集いモップ会(上)
白花学園高等部カフェテリアは第二校舎夏雲館二階西にある。
教室以外の昼食スポットはカフェテリア以外に中庭など何か所かある。
でも空調が常に整っている快適空間はカフェテリアだけなので、四時間目の授業終了後は熾烈な場所の取り合いが発生する。
カフェテリアには生徒向けの格安ランチが用意されており、日替わり定食や定番のから揚げ定食、ハンバーグ定食などがあり、変わり種だと豚足丼、カフェテリアと料理研究部と共同開発したというアオハル丼、その他ラーメン、そば、うどんなど多様なメニューを取り揃えている。
カフェテリア内へのお弁当の持ち込みもOK。
出遅れた俺と楓の代わりにA組の赤城さくら、高山莉菜、宮姫すずの三人が窓際の円卓の六人席を取ってくれていた。
俺と楓にカフェテリアに到着したことに気付いたリナが手を振っている。
小動物系義妹もどきが、無邪気な笑みを浮かべて手を振ると保護欲を掻き立てる愛らしい絵になる。
すると俺のそばにいた知らないヤローどもは自分がリナに手を振られていると勘違いしてしまい、皆デレっとした顔でリナに手を振り返そうとする。
だが手を振り上げたところで、ステルス性能抜群で存在感ゼロの俺が横にいることにようやく気づく。
「ちっ、モップ野郎がいたのか」
「くっ緒方……」
「さっさと爆発しろ!」
各々捨て台詞を残し去っていく名もなきヤローたち。
うーん……酷い。
僕は君たちに何か悪いことをしましたでしょうか。
でもね……間違えて手を上げようとしたのは恥ずかしいだろうし。
人に見られたくないよね~。
特に俺には……。
だから許す!
というか、ぶっちゃけどうでもいいし。
「楓ちゃん、緒方君~お疲れ」
A組のお三方が待つ席まで行くとリナが温かく迎えてくれた。
リナは学校で俺のことを「緒方君」と呼んでいる。
俺たちが親戚同士なのは校内で公表されているので皆知ってる。
それでもリナが俺のこと「兄ちゃん」と呼ぶ度にヤローどもから俺へのヘイトが溜まっていく。
リナもその辺は気を使って「緒方君」と呼んでくれてるわけだけど、たまにわざと『兄ちゃん』って呼ぶことがある。
でも『兄ちゃん』呼びする時は、大抵悪い顔をしているからすぐわかる。
リナ恐ろしい子……。
ひょっとして千の仮面それとも万の仮面を持っているの!?
ががーーん!
俺氏ショックのあまり白目モードに移行中なり……。
それにしても
みんな『兄ちゃん』って呼ばれたいのかだろうか?
俺のお兄ちゃん歴は、今年で十年目になる。
お兄ちゃんランクがあるなら、成り立てほやほやの新人お兄ちゃんではなく、この道四十年のベテランお兄ちゃんでもない。
十年目お兄ちゃんは中堅お兄ちゃんランクかな?
確かに妹はいい。
うちの妹は、実妹でも義妹でもない義妹もどきだから義妹の亜流だけど、とりあえずいい。
でもね、うちの義妹もどきは物凄く手がかかるぞ。
餌をやらないとすぐにむくれるし。
寝起きも寝相も悪いし。
猫っ毛の髪はブローも入念にしてやらないといけないし。
よくわからないけど機嫌が悪い日あるし。
それに下着の洗濯も……っておっと!
そう言えば、リナの乳液と化粧水がそろそろ無くなりそうだったな。
今週中にストックを買っておかないと。
スマートフォンのメモ書きに書いてる購入リストに入れておこう。
「お疲れリナ、さくらと宮姫も」
「随分時間が掛かったわね何かあったのかしら?」
怒っているわけではなさそうだけど、心配したのかさくらが遅れた理由を尋ねてきた。
「
「そう、では仕方ないわね」
「ふーん……」
全く興味がなさそうなご様子なのが、白花学園高等部天使同盟一翼「癒しの天使」こと宮姫すず。
グレーとベージュの中間のような髪色、えり足がスッキリとさせたショートミディアムヘア、丸みのある大きな瞳、まつ毛の下のプルっとした涙袋、すっきりした鼻立ちと小さな唇、現在女子バスケ部所属でポジションはポイントガード、身長はリナと前園の間くらいだから、おそらく百六十五センチくらい。
中等部時代は前園と並ぶ二大アイドルだったらしく、ふたりの名前から『
整った顔立ちはもちろんだけど、ふたりともスタイルが良いから周りより一際目立つ。
前園が陽なら宮姫は
しかし私立中学って凄いな……。
もう完全に少女漫画のノリだよね。
公立中学にそんなのものはない。
ちなみに俺の中学の頃のあだ名は『ぼっち男爵』
ぼっちに男爵とか伯爵とか平民とかあるのだろうか?
『ぼっち男爵』ってなんだか焼酎の銘柄っぽい響きだし。
今は素っ気ない態度の宮姫だけど、別に周りを避けているわけでなく普段は聞き役に徹してる感じ。
不愛想なわけでもなく俺以外にはそれなりに笑うし何よりも気が利く。
「あれ? すずちゃん元気ないけど大丈夫?」
心配した楓が宮姫に声をかける。
「ありがとう楓ちゃん、ちょっと部活の疲れが溜まってるけど大丈夫。ところでお凛……前園さんがいないけど、どうかしたの?」
「購買部にパンを買いに行ってるよ。ひょっとしたら捕まっちゃったかもね」
「あぁ~いつも行列凄いもんね」
「前園さんなら、いらっしゃったわ」
さくらの視線の先を見るとカフェテリアの入り口の一つから二カっとした笑顔を浮かべ、
片手にパンとペットボトルを抱えた前園が小走りでこっちに向かってくるのが見えた。
「悪い悪い~遅くなっちゃった」
円卓の最後の席に前園が座り、これで通称『モップ会』の面々は一同に揃った。
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