第15羽♡ 男女関係以上に男同士は難しい


「カスミ、カフェテリアに行こうか」


 四時間目の授業終了後、机の上にお弁当を出していると楓に声をかけられた。

 今日は週一度の天使同盟メンバー五人と昼ご飯を食べる日だ。


「前園は?」

「凛ちゃんなら購買部でパンを買ってから行くから先に行っててって」


「そか、じゃあ行くか」

「うん」 

 

「緒方、今日はモップ会か?」

「そうだけどモップ会って言うな」


 声かけてきたのは同じクラスの広田良助ひろたりょうすけ

 俺の数少ない男友達その一で中等部から内部進学組。

 

 真面目で良いヤツだけど活動内容に謎の多い第三新聞部所属で、部活とは別に学校の謎や不可思議事件を追いかけてる変人。


 ちなみに『モップ会』とは俺と五人の天使が揃う集まりのこと、俺のくせっ毛の髪が掃除で使うモップみたいに見えるらしく第三者からはそう呼ばれている。


「水野は?」

「さっき他のクラスの女子に呼ばれてどっかに行った」


「またか……モテるなぁ羨ましい」

「緒方よ、それをお前が言うか」


 呆れたような口調で広田がつぶやく。


 俺の数少ない男友達その二こと水野深みずのしんは男子サッカー部所属で広田同様に中等部からの内部進学組だ。


 長身でスタイルがよく女子に人気がある。四つ上のお姉さんは白花学園卒業生でかつての天使同盟メンバーだったらしい。


 学校成績もよく、おとなしくしていればスクールカースト上位のリア充になれるはず……おとなしくしてればだが。


 俺の準備が遅いせいか水野は早々教室に戻ってきた。


 モップ会がない日は、俺は水野や広田と昼飯を食べることが多い。

 一緒に食べる約束している訳でもないが水野にも一応断っておくことにした。


「水野、今日は楓たち五人とカフェテリアで飯を食ってくる」

「あぁ分かった。緒方ちょっとだけいいか?」


「ん? どうした」

「とある女子に緒方との関係を聞かれたから友達と答えたんだが」


「ふむ……」

「付き合ってるんじゃないかと聞かれた」


「で?」

「付き合ってないが気になると正直に答えた」


「ん?」

「実際俺が気になるのは緒方、お前だけだからな」


「おい……」

 

 会話の風向きが怪しくなってきた。


「お前のテクニックでメロメロにされてからお前に夢中なんだ!」

「何言ってるの水野?」


「頼む緒方! お前のでまた容赦なく俺を貫いてくれ!!」

「よせぇ~~~!!!!!!! この脳筋バ~カ!」


「きゃあ~~~~!」


 クラスのヤロー達から氷のような視線と一部女子から謎の歓声が上がり、各所でヒソヒソ話が始まる。


『緒方と水野ってやっぱり……』


『緒方君ので水野君はもう貫かれてるのね!』


『尊い~緒方君がタチで水野君がネコね。アリだよ! 全然アリ!』


『嫌がる水野君を緒方君が無理やり迫るみたいな……あのうざったい前髪がニョキニョキ伸びて水野君の全身を縛るのよ!』


『天使同盟五人だけじゃなく水野にまで手を出すなんて……なんという鬼畜、くたばれ緒方!』


 脳筋バカのせいで、平和なお昼のひと時に暴風のごとく有らぬ噂と誤解が広がっていく。

 

 しくしく……。

 今日もまた俺の好感度がまた爆下がりなんですけど……。

 

 もう言い訳する気力もないです。

 いつもこんなのばかり。

 

 俺を窮地に追い込んだ水野は、周りことなどどこ吹く風、気にも留めない。

 

 お前のメンタルはオリハルコンかミスリル鉱石でできてるの? 

 その強さ、ちょっとだけでも俺に分けてくれない?

 

 俺の絹豆腐メンタルがもう限界なんだけど……。


 碌でもない事を口走った水野だが、こいつは害を及ぼそうとしてるわけでもない。

 単純に言葉足らずなだけのド天然。


 一見は爽やかイケメン、その実ド天然の水野が妄言を口走るようになったのは、入学後間もなく行われたクラス対抗マッチまで遡る。


 クラスメイト達と親睦を深めるため、俺は中二までやっていたサッカーにエントリーをした。


 すると水野を中心とした俺たち一年B組サッカー選抜は、快進撃を続け、見事学年一位となった。


 水野は巧いタイプではないが、ボールを受ける位置やディフェンスとの競り合い際の体の強さ、シュートモーションの速さなどに特化したフォワードで、中盤のゲームメーカーとしてパスの供給元となった俺と相性が良くやりやすかった。

 

 何より久しぶり本気でプレーするのは楽しかったし、クラス対抗は良い思い出になった。


――と、ここまでは良かった。

 

 クラス対抗マッチが終わった直後、少しだけ俺を見直したクラスメイト達と関係も良い方向に傾き、俺の陰キャライフに一筋の光明が見えた気がした。


 ところがこのサッカーバカは俺のことをいたく気に入ったらしく、毎日のようにサッカー部入部をしつこく進めてくるようになった。


 だが中学の頃、故障が元でサッカーを辞めた俺に入部の意思はない。

 

 そんなことお構いなしの水野は、先ほどの様な言葉足らずで勘違いされやすい言動で俺に入部を進める。


 その度にクラスメイト達がドン引きして、俺の好感度が下がり続けた。


 断っても断っても、翌日になると前日のことを忘れたようにヘタクソなスカウトが俺を誘う。


 クラスメイトから悲鳴と謎の歓声が上がる。

 この負のスパイラルが延々と連なっていく。

 

「今日こそ決断してくれ緒方! 俺にはお前が必要なんだ!」


 俺の両手を掴んだ水野は今日も真剣な眼差しで俺に決断を迫る。

 

 朝の前園と同様、水野との距離が近い……。

 前園との違いは、前園なら嬉しいけど、水野の場合は身の危険を感じること。


『尊い……尊いよ、水野君の純愛、緒方君、躊躇ためらわないで!』


 ……どこからともなく不気味な要望が聞こえる。

 男子同士がイチャイチャしていてほしい要望。


 ――スミマセン。

 ご希望に添えません。

 

 というか勘弁してください~!

 

「俺に触るな水野~! お前のやることなすこと全てが誤解を生むんだよ!」

「お前がうんと言うまで俺はこの手を離さないぞ緒方!」


「水野君とカスミ、今日も仲がいいね。良かったね素敵な友達ができて!」

 

 クラス内の冷たい視線を他所よそに、楓だけは自分のことのように嬉しそう俺たちを見守っている。


 純真な楓さんには俺と水野の関係がやましいところなど何もない普通の友達に見えているようだ。


 実際、楓の見立ては大筋は間違ってはいないけど……。

 

 こうして俺は女子だけでなく、男子にも手を出す何でもありなゲス野郎と認定され、クラスおろか学年全体で孤立していった。


 白花学園高等部一年B組緒方霞十五歳、芸能リポーターもびっくりなスキャンダル王。

 

 大半は冤罪なのだが、挽回できず高校デビューは大失敗。

 クラスでの立ち位置はモブ以下または未満。


 アオハルの日々はいばらの道をまい進するのみ。

 

 ぴえん。

 

 誰かボクと友達になってくれませんか?

 今ならソーシャルゲームのレアアイテムをお譲りします。

 

 何なら毎日愛情満点のお手製弁当を用意します。

 ふっくら卵焼きとタコさんウインナー付きです。


 それからそれから……って

 俺が愛妻弁当作ってどうするね~ん――!?

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