第105羽♡ 真夜中の天使たち


 「きしゃぁあああ――S級スキル『ケルベロスの嗅覚』発動!」


 モップ会メンバー6人が見守る中、空き教室で奇声と共に厨二発言をする義妹もどき。

 

 ……ねぇ恥ずかしくない? 

 

 俺もバイト先のスタッフルームで毎度魔術詠唱をしているから人のことは言えないけど。

 

 「くんくんくん……匂うぞ、くんくんくん」

 

 前園と宮姫の間を動き回りながら交互に匂いを嗅ぐ。

 

 ……何してるの?

 

 「ちょっとリナちゃん……やめて」

 「妹ちゃん、ひょっとしてオレ汗臭い?」

 

 嗅がれたふたりは恥ずかしそうにしている。

 いくら同性でもそりゃ恥ずかしいよな。

 

 「おいリナいい加減に……」

 

 「カチッカチッ! ガリガリガリ! ガリガリガリ! ピーピー! ガーガー! ジー!」

 

 妹はぴたりと動きが止め、虚ろな目になりアナログな機械音のようなものを発する。


 この音はもしや……?

 

 「うちの妹が一昔前のインターネット接続みたいになってる!?」

 

 「データノ抽出ヲシマシタ。なうろーでぃんぐ」

 

 「うちの妹が一昔前のゲーム機みたいになってる!?」

 

 「警告1、ROMカートリッジ二息ヲ吹キカケルノハヤメテクダサイ。警告2、オ母サンガ掃除機ヲカケル前二データセーブシテクダサイ」

 

 「うちの妹が据え置きゲーム機のお約束みたいなことを言ってる!?」

 

 「警告3、兄妹喧嘩ニナルノデハメ技ハ禁止デス。警告4、女性キャラヘノサバ折リハ禁止デス」


 「警告多くない!? というかRPGと格闘ゲーム、どっちの話してるの!?」


 「データ照合完了シマシタ、コレヨリ前園凛、宮姫すずノ昨日ヲ再生シマス」


 ……虚ろだったリナの瞳に光が戻る。


 『緒方すごい勢いで帰っちゃったな……すずすけは泊っていくだろ?』

 

 前園みたいな喋り方をしてる? 声質は全く違うけど。

 

 『……うん。いいかなお凛ちゃん』

 

 今度は宮姫か? こちらも雰囲気だけはばっちりだ。

 

 『もちろん! 汗かいちゃったしお風呂に入ろうぜ』

 『……うん』


 ……なにこれ?

 昨日、俺が帰った後の宮姫と前園の一部始終?

 

 『ど、どうしようお泊りするなら、せめておろしたての下着を着てくればよかったよ~(泣)』

 

 しかも心の声付きだと――!?


 『お凛ちゃんの身体、すごい綺麗……前に一緒にお風呂入った時より成長してる』

 『あんまり見ないですずすけ。ちょっと恥ずかしい』

 

 『ご、ごめんお凛ちゃん』

 『すずすけがテレててかわいい、もっとオレだけを見て欲しい……なんて言えないけど』

 

 ひょっとして女子高生ふたりのお風呂入浴実況中継とか――!? 

 いやいやいや――そもそもリナが適当に喋てるだけだよねコレ?

 

 『……夜も遅くなったし、そろそろ寝るか』 

 『うん。お凛ちゃん』 

 

 あれ……?

 お風呂入浴実況があっさり終わり?

 身体を洗うところから、湯船に浸ったところとか省略!? 

 

 しょんぼりなう……。 

 

 『オレはリビングのソファーで寝るから、すずすけはオレのベッドを使ってくれ』

 『ううん。ベッドはお凛ちゃんが使って、わたしはソファーを借りるから』

 

 『お互いに譲り合うのやめよう、すずすけ一緒に寝ようよ』

 『いいの?』

 

 『もちろん、でも一つだけお願いがあるんだけど』

 『ん……なに?』

 

 『昔みたいに寝る時は抱きしめてくれないかな……無理ならいいけど』

 『ううん無理じゃないわたしもそうしたい』

 

 『すずすけの懐かしい匂いがする』

 『お凛ちゃん温かい』

 

 『またこんな日がまた来るなんて幸せ』

 『わたしもだよお凛ちゃん』

 

 『おやすみすずすけ』

 『おやすみなさいお凛ちゃん』

 

 ……なんかエモエモでございます。

 尊いです。てぇてぇ――――――――!!!

  

 「メッセージハ以上デス、再生ヲ終了シマス」

 

 ……終わりなのね。

 まぁこれがリアルなわけない。

 

 ふたりも呆れてるはず……ってあれ?

 

 前園と宮姫が真っ赤な顔で固まっている。

 うちの妹が適当なこと言ってただけで事実とは違うんじゃ?

 

 まさかとは思うけどガチなの!?

 

 「ちなみに今朝は少しだけ早起きしてイチャイチャしたところは省略します。武士の情けです」

 

 「「!?」」 


 余程の驚いたのか、ふたりともポーカーフェイスが出来ていない。顔にモロに出てしまっている。

 

 ……妹よ、中途半端な省略しても武士の情けになってないから!

 

 「ち……違うからリナちゃんの言った事、事実と全然違うから! そうだよねお凛ちゃん」

 「あ、あぁ……うんうん」

 

 ふたりとも即座に否定するが顔は真っ赤なままだし。混乱しているように見える。


 大丈夫か前園、宮姫……。

  

 「妹ちゃん一応聞いておくけど、隠しカメラや盗聴器の類をしかけてないよね?」

 「しかけておりませぬ。S級スキル『ケルベロスの嗅覚』を使っただけなのじゃ」

 

 何故か語尾がコロコロ変わる。

 どうでもいいけど妹よキャラぶれしてない?

 

 「凜さん、すず……驚くのも無理はないわ、でも女子サッカー部員で実証実験した限り『ケルベロスの嗅覚』の的中率は80%強よ!」

 

 ――80%強!?


 なんてヤバい的中率……マジ半端ないよS級スキル『ケルベロスの嗅覚』!


 ……で誰が付けたのそのネーミング?

 

 「女子サッカー部員を怪しげな実験に巻き込むな」

 「あら、皆面白そうだからってノリノリで参加したわ」

 

 「でも20%は外れるんだよね。リナちゃん当たってないから! 全然ハズレだから、わたしとお凛ちゃんは普通に寝ただけ!」


 「すずがそう言うなら、そういうことにしておくよ。ぐふふっ」


 当事者に完全否定されたのに全然余裕の義妹もどき様、果たして昨晩の真相はいかに!?

 

 そもそも匂いを嗅いで昨日の宮姫たちの言動が再現できるってどんな仕組みだよ?

 冗談抜きで異世界転移して女神に能力貰ってきたとか!?

 

 だが能力の出どころより、至急確認しておかないといけないことがある。

  

 「なぁリナ、そのスキルだけど俺には使ってないよな?」

 

 リナが俺にくっついてくる時は、大抵くんくんしてくる。

 ひょっとして俺を探っていたのでは!?

 

 「……どうかな。兄ちゃんに後ろ暗いところがなければ気にする必要ないのだ」

 

 我が愛しの義妹もどき様は目を細め怪しげにほくそ笑む。

 

 すみません後ろ暗いところは沢山あります。

 どうかご勘弁を! 

 

 「凛ちゃんとすずちゃん楽しいお泊り会だったんだね。いいなぁ~今度はわたしも参加してみたい」

 

 今日も今日とて曇りない瞳をキラキラさせる穢れなき天使な楓さん。

  

 「楓、さっき話したけど明日からしばらくパリに行くから帰国したらお泊り会やろうぜ、良かったら妹ちゃんやさくらも」

 

 「あら……嬉しいわ凜さん、でもリナとわたしは部活の夏大会が終わったらで」

 

 「さくら今年の夏は代表合宿もあるよ。協会からレター届いてるでしょ」

 「……そうだったわね」

 

 リナとさくらは年代別女子サッカー日本代表の常連だ。

 年に何度か代表合宿に招集され海外遠征もある。

   

 「前園は気を付けて行って来いよ」

 「おう。緒方と楓はオレがいないからってイチャイチャし過ぎるなよ」

 

 「凛ちゃん……わたしとカスミは親友だしイチャイチャとかしないから!」

 「はっはっは、そうだったな」


 楓が全力で否定し、前園はいつものようにニカっと笑顔を浮かべる。

 

 ……完全否定されるとがっかりした気分になるのはどうしてだろうね。

  

 「ちょっといいかしら……凜さんがいない間だし、望月さんや皆にも申し訳ないのだけど、週末カスミ君を借りたくて」

 

 「どうかしたの赤城さん?」

 

 「実はおじい様から縁談の話を頂いてるの。でもわたしは断りたい。そこでカスミ君には偽カレシとして協力してもらいたくて」

 

 ……ん?


 ひょっとしてこの前、さくらとふたりで時任先輩に会いに行った日に途中で言われたおじいさんの誕生日会の件か?


 ここのいる五人と俺が個別に一日ずつ付き合う話があって、前園、楓とは終わったけど、さくら、リナ、宮姫はまだ消化していない。

 

 だから週末、俺がさくらに付き合うのは恐らく誰も反対しないだろう。


 ただし一つだけ気になることがある。

 この場にはただ一人、俺とさくらが婚約していることを知っている人間がいる。

 

 ――宮姫すず


 俺の幼馴染で、堕天使遊戯では協力関係。

 宮姫にはこの後、個別に話を通した方が良さそうだ。

 

 今日のノルマも含めて……

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