第120羽♡ はじめての夫婦ライフ(#10 混沌)
人生は山あり谷あり……
わたしは後何年生きるかわからないけど、これから嬉しい事も辛い事もたくさんあると思う。
そして今日はたまたま辛い日だった。
ただそれだけのこと……
とは言え、家族に学校のそばで女装してバイトしてるのがバレる男子高校生なんてわたしの他にいるだろうか。
もし、いるならどうこの場をどう切り抜けたら良いか教えて欲しい。
白のカチューシャと青基調のふんわりとしたパフスリーブ半袖のワンピースと腰をラインを強調する編み上げコルセット、フリルをあしらった純白エプロンと白のニーハイソックスと黒のローファー。
胸元が強調されるのが難点だけど、ユニフォーム自体は最高にかわいいと思う。
コンセプトを考えたのが変態紳士の店長というところがおぞましいけど。
「いらっしゃいリナちゃん、お姉ちゃんに会いに来てくれたの?」
「え?……まさか、兄ちゃ……でも、そんなわけ……だけど、その涙ボクロは間違いない。でも女の子で!? あわわわわっ」
「ん? どうかした? お姉ちゃんの顔になんか付いてる?」
こうなればヤケクソだ!
下手に言い訳してもダメなのは分かってる。
だったらこっちのペースで押し切るしかない!!
「さくらちゃんもいらっしゃい。リナちゃんと一緒に来てくれたの? お外は暑かったでしょ。ゆっくり涼んでね」
出来る限り最高の営業スマイルをきめる。
いいよいいよわたし!
切れてるよ切れてるよ!
最高にかわいいよ!
ヒャッホー!
「えぇ、ありがとうカスミン」
「カスミン? でもあれは間違いなく兄……」
「リナちゃんどうかした? お話があるなら今度ゆっくりね。さてと……お姉ちゃんお仕事あるから戻るね。さくらちゃん、妹をくれぐれもよろしく」
「……わかったわ」
話を一方的に切り上げたわたしは、再びキッチンに戻った。
ふたりが帰るまでホールに出るつもりはない。
加恋さんには引き続きふたりの様子をみてもらうように頼む。
リナは明らかに動揺していた。
一方さくらは冷静だった。
さくらはこれまで店に来なかっただけで、女装して働いていることを知っている。また少し前に、宮姫が以前所属していたバスケサークルに潜入調査の際にこの姿を見ている。
一方リナは何も知らない。
わたしが話をしてないから当然だけど。
どうやら部活上がりのふたりは昼食時間帯ということもあり、昼ご飯を食べに来たようだ。
さくらはパスタランチ、リナは和風ハンバーグステーキを注文した。
さくらは普通にしているようだけど、リナは下を向いたまま食が進んでいないようだ。
体調不良以外で食べることが大好きなリナが食欲不振なんてありえない。
気にはなる。
だけど今は仕事中。
後で話をすればいい。
リナならきっとわかってくれる。
そしてさくらも……
そもそもさくらは今更、わたしが女装して働いていることで何か思うところはあるかな?
考えられるとしたら明日婚約者としておじいさんに紹介する男が、普段は女装してカフェレストランで働いてるという現実。
こんなの全然大したことでは……ないこともないか。
親族に婚約者を紹介するのは人生の一大イベントだよね……。
わたしは淡々とやればいいと思ったけど、平静を装ってるだけでさくらは明日へのプレッシャーでナイーブな常態かもしれない。
そんな大事な時に改めてわたしの痴態を改めて見たら、こいつはわたしの苦労も知らないで何をやってるんだ?って気持ちになるかもしれない。
あれ?……何だか今すぐふたりと話をした方が良い気がする。
このままだと取り返しのつかないことになる!?
「加恋さん~ちょっと」
わたしは小声で加恋さんを呼ぶ。
「ほーい今度は何?」
「もう一度あのふたりと話をしておきたくて……わたしの休憩ですが早めにとっても良いですか?」
今の時間帯は、加恋さんがシフトリーダーだ。
なお店長は休暇となっている。
「別に良いけど15分で終わらせてね。何なら空いてるスタッフルームを使っていいよ」
「ありがとうございます」
「後で良いけどアタシもカスミンに話があるんだけど、昨日から楓がカスミンの家に行ってるじゃん。楓はどんな感じ?」
……あれ?
どんな感じも何もわたしは昨日からさくらの家に泊ってるから家のことは知らない。知ってるのはリナだけ。
楓は加恋さんにどう説明してウチに泊まりに来たの?
何だかわたしもわからないことだらけになってきた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
注:緒方君はカスミンになっている時は、一人称が「俺」から「わたし」に変わります。
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