第180羽♡ 緒方霞と時任蓮司(下)
「ボクがこのスレッドのコメ主だという理由を聞かせてもらえるかな?」
「まずこのスレッドのある掲示板ですが海外のサーバー、それも最近主流のクラウドサーバーではなく、ほぼほぼ管理が放置された物理サーバーに作られたものですね。こうしたサーバーはセキュリティレベルが低く、ちょっと穴を付けば俺みたいな素人でも簡単に入ることができます。そして穴の中からスレ主のIPアドレスを確認したところ、先輩が通う首都理工化大学新宿キャンパスからアクセスしたことがわかりました」
「なるほど……だが新宿キャンパスに通う学生は数百から数千単位でいる。ただそれだけでボクと決めつけるのは根拠が弱いのでは?」
そう……俺は接続元IPアドレスが理工化大新宿キャンパスであることは特定できた。しかしそこから先、理工化大の誰かまでは特定できなかった。
だが……
「今日現在、白花出身者で理工化大新宿キャンパスに通っているのは先輩一人です。白花出身者で理工化大に通っている人は他にもいますが、町田キャンパスにある理工学部や薬学部などが多いですね。進路指導課では名前は伏せてありましたが、理工化大志望と告げたら各学部の入学人数までは教えてもらえました。スレッドにはコメ主は元卒業生で一昨年の元非公式生徒会メンバーだったと書いてあります。先輩の白花在学期間と一致します」
「残念ながらボクは非公式生徒会ではないよ、生徒会役員だったことはあるけど」
「仰る通り、一年の二学期から芸能活動を再開する三年の任期途中で辞任されるまで生徒会広報だったそうですね。ですが生徒会役員だからと言って、先輩が非公式生徒会と関係がないとは言いきれません。でも俺も先輩は非公式生徒会ではないと思います。なぜならこの掲示板の内容にはいくつかの嘘があり、その一つはコメ主が自らを非公式生徒会役員だと名乗っていることです。また先輩は当時の生徒会長の指示で非公式生徒会を調べていたと聞いています」
以前、非公式生徒会について加恋さんに聞いた時、生徒会長在任中に非公式生徒会を調べたが何も出てこなかったと言っていた。調べたのは他でもない蓮司先輩だったのだ。
「彼等を調べていたことを知っているのは当時の生徒会役員でボクを含めても三人だけだ……そのうちの一人は絶対言うはずがない。加恋会長か……そう言えば会長の妹は今の天使同盟一翼だったね。君と会長が繋がっていても不思議ではないか」
「はい、ですが先輩が元生徒会役員でそれも加恋さんの側近だったとは考えもしませんでした、知ったのは偶然です」
俺は生徒会についてはほとんど調べていない。宮姫から教えてもらった話では、元々は一つだった生徒会と非公式生徒会だが、10年以上前に分裂して互いに無関係になっており、現在の生徒会は非公式生徒会へのコンタクトすらできないからだ。
もしアイドルレッスンの帰りがけに加恋さんが絡んできて教えてくれなければ、一学年離れている蓮司先輩と加恋さんに繋がりがあると思わなかった。
「元側近だよ、聞いているかもしれないがボクは加恋会長と仲違いしている。全く……あの人はいつも余計なことばかりしてくれるな」
「現生徒会長の雪村先輩も、先輩と同様にある事件を境に袂を分けるまで加恋さんの側近だったそうですね。そして加恋さんが、現生徒会と距離があるのもその事件が起因している」
「あぁ……そうだよ。だが当時、加恋会長にも報告したが、結局ボクは非公式生徒会の足取りを掴むことができなかったよ」
「そこなんですけど、俺はむしろ先輩は何かを手掛かりを掴んでしまったのではないかと疑っています。ただ蓮司先輩が深入りすると、二年前に天使同盟だった加恋さんと雪村先輩に被害が及ぶことかもしれなかった。だから加恋さんには何も見つけられなかったと嘘の報告をした。そして調査依頼はそこで打ち切りのはずだった。でも先輩は加恋さんが卒業し、自身がこの春卒業しても密かに調査を続けていた。恐らく二年前から天使同盟一翼で盟友ともいうべき雪村先輩のためですが、今年新たに天使同盟に前園と宮姫が選ばれたことで、蓮司先輩はますます抜けられなくなった」
「なるほど……君が言うようにボクが非公式生徒会を調べる動機が十分にある。だけどその掲示板に書くことで、非公式生徒会側にボクが特定されるリスクがある。メリットがないように思えるが」
「恐らくですが、このスレッドを見ても非公式生徒会が動くことはありません。なぜなら内容の大部分は、ネット上に溢れる非公式生徒会に関する情報の良いところ取りなんです。つまり非公式生徒会が漏れた情報が含まれてたとしても、優先度の低い情報です。現にこの掲示板は荒らされることも、妨害されることもなく数か月以上残っています。
また、この掲示板を書いた人物の目的は、非公式生徒会とコンタクトをとることでも非公式生徒会の情報をばら撒くことでもないです。書いた人物と同じように非公式生徒会を探る人物と繋がること、そして自分の知らない情報を入手する事です。じゃなければわざわざ、接続元がバレる可能性がある海外サーバーの掲示板に書き込んだりしません」
「つまり君は、この掲示板に書いた人物は身元特定されることを前提に書いたと言うのかい?」
「はい、俺はまんまと引っかかり先輩の前に姿を出しました」
「なかなか面白い話だが、結局のところ掲示板に書いた人物がボクだと決定付ける証拠がないのでは?」
「そうですね。でも証拠がなくても掲示板を書いた先輩は俺に協力してくれるはずです。俺は先輩が持っていない情報を持っていますから、そして先輩は俺みたいなのが現れるのをずっと待っていたはずです」
「……君はなかなか食えないやつだな。できれば凜やすずちゃんのそばにはいてほしくないな、危なっかしいからね」
向かい合うように座る先輩は机の上で腕組みしたまま、わずかに微笑を浮かべる。
「ついでに言うと今年の天使同盟が発表されたのがGW明けの5月7日で、この掲示板のスレッドが書かれた5月12日は前園の誕生日です。恐らく先輩は前園を守る決意を固めるために敢えてこの日にしたのでしょう。そして先ほど前園のパリ行きを容認するような発言をしたのも、海外なら非公式生徒会から前園を遠ざけることができるかもしれないからです」
「……そこは空気を読んで黙ってて欲しかったな」
「あ、すみません」
――いけない
ついオタクの悪い癖で、自分の中で結論づけたことを饒舌に話過ぎた。
良くないな。
深く深く反省。
その後、俺と先輩は情報交換を行い。日を跨ぐ前に車で家に送ってもらえた。
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