第181羽♡ 義妹と実姉と非公式生徒会

   

 「はぁ」

 「どうした緒方、会うなり溜息とは?」

 

 「今日もリナが俺にお世話させてくれなくて、朝は一人で起きるし、洗濯物も自分でするし、掃除機をかけようにも部屋に入ってくるなと言うし」

 

 「年頃の女子なら普通じゃないか。まして高山は緒方と同い年だし」

 「そうなんだけど寂しいんだよ~俺はリナのお世話がしたいんだよ! ちきしょうがぁ!」

 

 ――7月23日火曜日午前9時

 白花学園高等部第三新聞部部室。

 

 エアコンのない狭く蒸し暑い部屋で俺はクラスメイトの広田良助と世間話をしていた。


 「俺にも姉がいるができる限り関わりたくない」

 「お前お姉さんいたの? 全然知らなかった。北川さんのことと言い、もう少し自分のことを話せよ」

 

 広田には北川さんと言う同級生の彼女がいる。

 だがちょっと前まで俺には知らされていなかった。

  

 「隠しているわけではないが4歳年上の姉がいる。だが見た目も中身もあれは悪魔そのものだ」


 「小悪魔っぽいってことか?」

 

 「そんなかわいい存在ではない、強いて言うなら大悪魔だな」

 「大悪魔ってそれはあまりにも酷いんじゃないか」 


 「いや……大悪魔でもぬるいな。実姉にメイド喫茶の接客練習に付き合わされたらどう思う? おかえりなさいませでござるご主人様~と猫なで声で囁くんだぞ」

 

 「……それはちょっときついかも、広田のお姉さんメイドさんだったのか」

 「先日まで池袋の居酒屋でバイトしてたが、秋葉原のメイド喫茶に鞍替えしたんだ」

 

 「それで接客練習か」


 「うむ……萌え燃えきゅるるんぱとか、萌え燃えじゃんけんとか、オムライスに魔獣の絵を書いて、めしあがれ~毒キメラ注入とか、実姉に言われると背筋が凍るぞ、それに最近の昼飯は練習で使ったオムライスばかりでな……いい加減飽きた」

 

 「何だか大変そうだな……ところで魔獣の絵って何だ? 普通ネコとかかわいらしい絵じゃ?」


 「よくわからんが、かわいい絵じゃなく劇画タッチの絵で個性を出しているそうだ」


 「本当によくわからないな」

 「なぁ緒方、俺の代わりに姉の接客練習に付き合ってくれないか?」

 

 「悪いが遠慮しとく」

 「代わりと言っては何だが、俺の持っているブルピュアのレアアイテムを譲る。何なら他のソシャゲアイテムでも構わん」

 

 ブルピュアのレアアイテムは欲しい。

 だが安請け合いして俺はトラブルに巻き込まれることが多いし、いつも碌な結果にならない。

 

 そもそも今は時間がない。

 たとえ一度だけと言われても絶対にうんと言わない様にしよう。

 

 「広田じゃないとダメだろ、それに姉弟は仲良くしておいた方が良い、後で後悔することになる」


 「緒方は高山との間で後悔するようなことがあるのか?」 


「あるさ、それもな……さて、そろそろ本題に入ろう。時任先輩から聞いた。第三新聞部は何代にも渡って非公式生徒会を調査対象にしているらしいな」


 「あぁ……だが部としては片手間で調べているだけだ。非公式生徒会については数年前に学園側から必要以上に深入りするなと警告された事があるらしくてな。それでも構わず調査していたら、不可解な事件に見舞われたらしい。それで当時の部長が非公式生徒会には深入りしないことを決めた。今もお蔵入りとまでは行かないがそれに近い扱いだ」

 

 学園も非公式生徒会とグルなのだろうか。

 それとも非公式生徒会が学園に対し、一定の影響力を持っているのか。

  

 「……怪しいな」

 「あぁ、だが第三新聞部にもさすがに学園を敵に回すようなリスクをおかす部員はいない」

 

 「広田はどうなんだ?」

 「俺も基本は同じだよ。長年追いかけているテーマのついでに非公式生徒会を調べているに過ぎない」

 

 「テーマというのは?」


 「ふっ、よくぞ聞いてくれた。失われし超古代文明シモーキ・タザワだ、私見では黙示録に出てくる神々の怒りに触れた塔は下北沢南商店街にあるワイルド・バーガーの地下約800メートル地点に埋まっている可能性が高い」


 「なんだって!?」

 

 「それだけではない! 最近下北沢で古着屋が急増しているのも、毎年行われるカレーフェスも全てはシモーキ・タザワ復権を狙う古セタガヤ人の陰謀だ! そして古セタガヤ人工作部隊が非公式生徒会だと俺は仮説を立てた」

 

 「……それマジで言ってるの?」

 「冗談など言わん」

 

 「あっそう……」

 

 

 えーとど……どうしよう。

 目の前にとんでもないアホがいる。

 

 いや、前々からアホだとは思っていた。

 だがしかし、ここまで超ド級のウルトラアホだったとは……。


 いいじゃないか。

 古着屋巡りも毎年あるカレーフェスも楽しいのだから。

 

 それよりシモーキ・タザワって何だ? 

 古セタガヤ人って何だ? 

 現セタガヤ人と何が違うんだ!?

 

 蓮司先輩には現在も非公式生徒会を調査している組織として紹介されたのが第三新聞部で、しかも信頼できる人間として名前が挙がったのが偶然にも俺の数少ない男友達の広田良助だった。

 

 俺はバイトのない貴重な夏休みの一日に登校した。ところが蒸し暑い第三新聞部の部室でオカルト雑誌ですらそりゃねーだろ!と否定しそうな超古代文明シモーキ・タザワ説を広田を押し付けられる。

 

 真顔でトンデモ発言をする広田に頼って非公式生徒会の足取りを掴めるのだろうか。絶対無理だろこれ!

 

 いや……ここは友人を信じよう。

 相手は非常識な非公式生徒会だ、これくらいの非常識が必要かもしれない。


 「古セタガヤ人工作部隊である非公式生徒会について何か掴んでいるのか?」

 

 「もちろんだ、学則として生徒は一つ以上の同好会、または部活に所属しなければならない。同好会については、五人以上の生徒を集めれば認可されるため現在学園内には無数に存在する。これまでの調査で俺は同好会の中に非公式生徒会下部組織があることを突き止めた」

 

 「マジか!? でも今は夏休みだし、同好会は活動していないだろ」

 「だからこそ調べるには都合が良い」

 

 「なるほど……では早速はじめよう」

 「待て緒方、俺はまだお前に協力するとは言っていない」

 

 「え? そうなの?」


 「必要以上に非公式生徒会と関わることは相応の覚悟が必要だ。協力するにはこちらの条件を吞んでもらう」


 またそのパターンか、さくらといい加恋さんといい、最近条件を付けられることが多い。俺が無茶な要求ばかりしているせいもあるが。

 

 「条件とは?」

  

 「なに簡単な事だ……緒方には我が第三新聞部に入ってもらう、現在部員が7人しかいなくてな。部活動としての活動要件を満たしていない、このままだと同好会扱いになり、この部室を明け渡さなければならない。だが緒方が入部してくれれば部員は8人となり最低必要人数を満たせる」

 

 「でも俺は放課後バイトがあるし」


 「たまに顔出してくれるだけで良い、それに天使達にモテモテな緒方霞は学園一の怪異と呼ばれている。存在そのものが第三新聞部としては調査対象だ」

 

 言われてみると周りには俺が一番の怪異と言うか、不思議ちゃんに見えるかもしれない。

 

 実際の俺は陰キャでつまらないヤツなのに。

 

 こうして俺は女子サッカー部に続いて第三新聞部も兼務することになった。

 でもまぁ幽霊部員OKなら何とかなるかな。 


 「さぁ同志緒方、今こそ超古代文明シモーキ・タザワの秘密を解き明かそう」

 「お、おう」


 広田の眼鏡が鋭く輝く。 

 代わりに俺の花粉対策眼鏡はずり落ちた。 


 俺の狙いは非公式生徒会だ。

 超古代文明シモーキ・タザワはどうでもいい。

 あとこころざしは絶対に違う。




※※※※※※※


明けましておめでとうございます。

2025年もよろしくお願いいたします。

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