第43羽♡ 美少女エルフを餌付けすることにしました
スマートフォンに届くメールは限られている。
友達や家族とのやり取りで使うこともほとんどないから。
連絡手段として使うのは
届くメールも通信キャリアからのお知らせメールとか学校から行事や注意喚起などの一斉通知されたもの、後は送信元や本文の内容が怪しい迷惑メールとかさほど重要なものはない。
唯一重要と言えないのは天使メールだ。
以前は数日に一回程度しかメールボックスを着信チェックしていなかった。
最近は毎日欠かさずチェックしている。昨晩は寝てしまったから今天使メールを見ようとしてるけど。
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From:abc23sg234tttghytbadcz0983vds@bkidee234.co.bize
To:XXXXXXXXXXXXXXXXX
Subject:天使メール(六月十四日)
こんばんは緒方霞
こちらは白花学園高等部非公式生徒会です。
本日の堕天使遊戯判定結果をお送りします。
・癒しの天使 宮姫すず 獲得ポイント-3 総合ポイント:-122 総評:もっと頑張りましょう
・櫻花の天使 赤城さくら 獲得ポイント-3 総合ポイント:-124 総評:もっと頑張りましょう
・気ままな天使 高山莉菜 獲得ポイント+2 総合ポイント:+38 総評:普通です
・月明かりの天使 望月楓 獲得ポイント+2 総合ポイント:-89 総評:もっと頑張りましょう
・放課後の天使 前園凛 獲得ポイント+5 総合ポイント:+71 総評:素晴らしい
総合判定結果:もっと頑張りましょう
本日のワンポイントアドバイス:遠足は家に着くまでが遠足です。
期限までに目標が達せられない場合、あなたは大切なものを失います。
それでは明日も楽しい学園ライフを!
※このメールは癒しの天使を含め、第三者に見せることを禁じます。
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文面はいつもと同じ、どこかゲームスコアのように見えるから緊張感はない。
だけど自分の名前や、皆の名前が出ているのを見ると気持ちが良いものではない。
そしてバカにしてるようにも見える一文。
「遠足は家に着くまでが遠足です」の示す意味、恐らく非公式生徒会は俺と前園が遠出することを知っている。
俺と前園が出かけることは、天使同盟の五人と俺しか知らないはずなのに。
メールの中に出てくる『ポイント』については相変わらずよくわからない。
低いとゲームオーバーになる?
高いと何かが起こる?
そもそも、非公式生徒会は何をもって判定結果を出しているのか。
この辺は協力者である宮姫にも意見をもらいたいところだけど、このメールを誰かに見せることは禁止されているためできない。
送信元メールアドレスは前回からまた変わっている。
恐らくは今回も今までと同様に使い捨てにするだろう。
非公式生徒会がどんなメンバーで構成されているかは不明だが、IT分野に詳しいメンバーが含まれていることだけは確か。
天使メールの中に非公式生徒会に繋がるヒントがないかは引き続き調べる必要がある。
メールチェックを終えると、丁度新宿に着いた。
私鉄大田急線の改札口を出て地下通路を通り、前園の待つRJ新宿駅西口改札を目指す。
五分ほど歩いた西改札口前には待ち合わせをしている人が前園の他にも沢山いた。
その中から改札外の化粧品の広告の横で赤いキャップに、白の薄手の長袖カーディガンとアメコミのプリントTシャツ、青のスキーニージーンズの前園はすぐに見つかった。
ただし、話しかけようにも欧米から来たらしい外国人旅行者数人に囲まれている。
女の人も含まれていることから、ナンパされているわけではなさそうだ。
旅行者の持つ観光ガイドブックやスマートフォン画面を交互に見つつ、身振り手振りも加えて話をしている。
知らない人間が見れば前園も旅行者一行の一人の見えてしまうかもしれない。
蒼の瞳と薄い金髪の前園は旅行者一団メンバーの一人と言われても何ら違和感がないから。
しばらくすると一行は前園に手を振り、離れていった。
俺はようやく前園に話しかけることができた。
「おはよう」
「緒方、おはよう」
「さっきの人達は旅行者か?」
「あぁ、浅草に行こうとしてたみたいなんだけど、彼らから聞こえた声だと明らか違う電車に乗ろうとしてたから、話しかけて説明してた」
「すごいな。やっぱ英語得意なんだな」
「それがさ、あの人達が使ってたのフランス語だったんだよ」
「前園はフランス語も話せるのか?」
「七歳までカナダに数年間住んでたから多少な、住んでた町が英語圏とフランス語圏の人が半々くらいだった自然と憶えた。
その頃は普通に話せてたんだけど、久しぶりだから結構忘れたよ」
「それでもできたならすごいだろ」
「まぁそうかもしれないけど。勉強不足が身に染みたよ。それより出かけようぜ」
「了解、今日はどこに行くんだ?」
「東王線に乗って中尾山まで行って美味しい空気を吸う!」
◇◇◇
私鉄東王線で中尾山の最寄り駅である中尾山下まで特急で一時間ほど。
中尾山方面の東王線の下りは新宿駅発となるため、難なく座ることができた。
私服のせいか、いつも以上にラフに見える前園が横に座ってる。
車窓から差し込む日に照らされて、妖精の様な美貌の同級生は今日も輝いている。
他の乗車客も前園をチラ見する。
視線が集中しても慣れているのか特に気にしてる様子はない。
「昼飯だけど、おにぎりとおかずを少しだけ持ってきた」
「ありがとう緒方、中尾山下の改札を出たところにヘブンズ・マートがあるから買っていくか、名物の山菜そばを食べるかどっちかって思ってたけど助かるよ。
緒方の作ったお弁当は
「大したものは作ってきてないよ、そう言えば前園は普段は購買のパンやカフェテリアのランチが多いな」
「一人分だとお弁当作るのが面倒でだからな、緒方ほど料理は得意じゃないし」
「あれ? 前園って一人暮らしなのか?」
「シ~っ」
前園が顔近づけてると、耳元で俺にしか聞こえない声で囁く。
「知らない人ばかりだけど、周りに聞こえるように喋るのはマズいかな。
二人暮らしだけど、母さんは今仕事でパリに行ってる。
何なら今晩そのまま泊まりに来るか? ふたりきりで過ごせるけど」
「え?」
間近にある蒼の瞳はイタズラな光を宿し俺を見ている……。
「妹ちゃんや楓にバレたら怒られるか」
「そうだよ。それに俺は一応男だし」
「あまり男って感じがしないだよな緒方は……女の子みたいに綺麗な顔してるし」
そう言えばこの前、前園には間近で素顔を見られたんだっけ?
あの時もマスクと眼鏡はしてたんだけどな……。
「これでも普通の男子高校生だ」
「じゃあ夜は狼になるとか?」
「わからんけど、理性が壊れたらそうなるかもしれない」
「なるほど試してみたくなるな……」
「……ダメだろ。あと近いから離れような前園」
小声で喋っても近すぎて前園の吐息が当たるからドキッとする。
「うぃ~」
ようやく前園が離れた。やれやれ
それにしても周りからの視線が痛い。
男性目線が特に。
「ただのクラスメイトですから」と周りに叫びたい。
白花学園高等部の『放課後の天使』様は無防備なところがある。
たまに距離感が壊れる。同姓の楓やリナがドキドキするのも仕方ない。
特別な感情がなくても、前園はイケメンでさらに美少女にしか見えないから。
「なぁ弁当一人分を作るの面倒なら、来週から前園の分も俺が作ろうか?
今も親父の分を合わせて毎日三人分作ってるし、三人が四人になってもあんまり変わらない」
「マジで!? でも皆に怒られそうだな……」
「ん? どうしてだ?」
「どうしてときたか。あのな~女ってのは緒方が思ってるより嫉妬深いんだよ。オレも含めて」
「すまん。全然わからん。お弁当とどう紐づくのかが」
「緒方は相変わらずアレだな……。でも面白いかもしれない」
腕組みして思案する前園は何か思いついたのか、途端に笑みを浮かべる。
「お言葉に甘えてお弁当をお願いしてもいいか? お金はちゃんと払うから」
「わかった。お金は気にしなくても良いぞ、趣味みたいなものだし、食べてもらう人が増えると嬉しい」
「……緒方は、良いお嫁さんかお母さんになりそうだな」
褒めているのか、呆れているのかわからない曖昧な表情を浮かべている。
どう頑張ってもお嫁さんにもお母さんにもなれないだろ。
ともあれ週明けのお弁当作りが楽しみだ。
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