第11羽♡ 天使は放課後まで待てない(上)
「お~い、緒方起きろよ~!」
教室の自席で眠る俺に話しかけてくるヤツがいる。
そう言えば、毎度この時間にこの声で起こされている気がする。
えーと誰だっけ?
駄目だ……眠気で考える気にならない。
セーラー服を着てなくても機関銃を持っていなくても……俺は夢の途中。
学校で寝るのはとてもカ・イ・カ・ン~♡
「なぁ緒方、今日のオレはいつもよりかわいいぞ!」
やれやれオレ様でございましたか……。
オレ様がすっげ~かわいいのは知ってるよ。
会う度にびっくりしてるし……。
「あのさ~いつもよりかわいいとか、口走っちゃったのに放置されるとすげぇハズいんだけど……」
確かに『自称かわいい』は少し勇気がいるかもしれない。
でも心配無用だ。
実際普段もかわいいし、今してるであろうテレ顔もきっとかわいいから……。
「なぁ緒方? お前もう絶対起きてるだろ? 顔見せろよ~挨拶は顔を向けるって小学校で習っただろ?」
小学校?
そんな昔のことは忘れた。
人は忘れるから生きていけるんだ。
大切な事も辛いこともな。
……なんて爺臭いかな今日の俺。
小学校って四年くらい前まで通ってたんだよね。
そんな昔でもない。
でもずっと前の事のように感じるのは何故だろう。
「起きないとイタズラするぞ~」
イタズラ?
何をするつもりだ?
でも今起きたら負けた気がする。
眠さに勝るものはなし。
白雪姫も眠れる森の美女も本当はもう少し寝たかったんじゃないか?
王子様もなかなかせっかちだよな。
少し待ってあげればいいのに……。
人によっては寝起きの顔は恥ずかしいから見られたくないらしいぞ。
そんなの俺はどうでもいいけど。
「いいんだな? どうなっても知らないぞ?」
俺は今、うつ伏せで寝ている。
まさかバケツで頭から水をかけたりとか、チョークまみれの黒板消しを頭の上に落とすとかしかないよね?
暴力反対!
ラブアンドピースで頼む!!
まえぞ……
「ふぅ~~~~~~」
「うわっ……!?」
耳元に突然冷たい何かを吹きかけられた。
背筋がゾクっとするのと同時に全身に電気のような刺激が流れたのと、ほのかに甘い匂いを感じた俺は座ってた椅子を蹴って跳ね起きた。
「おっ、やっと起きたな」
白と金色の中間のような髪をした碧眼の少女は神秘的な雰囲気を醸し出し、後ろ手を組んで俺を見つめている。
「何すんだ!? 前園」
「……キミこそオレをどうするつもりだい? 緒方霞君」
僅か十センチ先に前園凛の恐ろしく整った顔がある。
身長百七十センチ弱、俺が数センチ高い程度でほとんど変わらない。
視線の高さがほぼ一緒。
蒼の瞳には俺が映り込み、先ほど俺の耳元に息を吹きかけたであろう柔らかな唇も俺とほとんど同じ高さにある。
……つまりだ。
もうちょっとでキスができてしまいそうな危険な距離に俺と前園はある。
ごくっ――。
思わず息を呑む。
天使に見つめられた俺は魔法にでもかかったように動けない。
「あれ? 緒方って近くで見ると意外に……」
何かを見つけた前園は無警戒な眼差しのまま、俺との距離を更に詰めてくる。
あと残り九センチ……。
残り八センチ……。
距離が短くなる度、俺の緊張の度合いが増していく。
朝のホームルーム前の教室には当然クラスメイト達がいる。
俺と前園が近すぎることに気づき、少しずつだがざわつき始めている。
これはまずい――!
理由は全く分からないけど前園が止まらない。
なら俺が前園から離れればいいのだが、変わらず動けないし言葉も出ない。
ひょっとして俺が前園と離れたくないのか?
こいつが凄い美人だから?
どちらが原因かわからないし、どちらも正解、またはハズレなのかもしれない。
でもそんなことはどうでもいい!
前園、頼むから止まってくれ――!!
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