幕間3♡ 天使になれなかった天使
本編と違い、三人称視点となります。
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――7月19日木曜日の放課後。
白花学園高等部第二校舎中央螺旋階段下。
激しい感情をそのまま体現したようなレッドブラウンの髪の少女は、不機嫌な表情を隠さず、彼女よりもやや小柄な黒髪マッシュボブの少女を問い詰めていた。
「どう言うつもりかしら? 彼には近づかないと言う約束だったはずよ」
「そうだったかな? どうもボクは最近、物覚えが悪いみたいでね」
「ふざけないで」
「別にふざけてなんていないよ」
「ふん、まぁいいわ……で、どうだったかしら? 久しぶりに話してみて」
「そうだね……懐かしいと思ったよ。あいにくボクの事は憶えていないようだったけど」
「それは残念ね」
「あぁ。でもこれで良かったのかもしれない。ボク等の出会いは幻として消えたとしても」
「あなたがそう言うなら別に良いけど」
レッドブラウンの髪の少女は気の毒と思う反面、ほっとしている自分に気づいた。ライバルは一人でも少ない方が良い。
「ひょっとしてボクが彼にちょっかいを出すとでも思ったのかな?」
マッシュボブの少女はやや目を細めると、ポニーテールの少女にイタズラっ子の様な笑みを向ける。
「……くだらないゴシップ情報を信じるわけではないけど、以前のあなたはそうした噂が絶えない人だったから」
少女は顔を下に向け、不本意そうにもう一人の少女の意見に同意する。普段は目立たないように偽装をしているが、その瞳が放つ光は眩いほど強く、やはり油断できる相手ではない。
「噂はでたらめばかりで、本当の事は何一つないよ。それに今のボクは自粛期間中でね、無理に危険を冒してまで、キミ達の問題に首を突っ込むようなことはしないよ」
「でもあなたが本気に出せば、あっという間に今の状況をひっくり返すことができるわ。風見刹那さん」
「赤城さくらさん、それは買い被り過ぎだよ。ボクは平凡な一生徒に過ぎない。
「そうかしら、今年の天使同盟は才能の秀でた人物が選ばれている。でも条件は他にもあるわ」
「
「本来なら才能が有り、彼ともゆかりのあるあなたは天使に選ばれるべきだった」
「実際、内定を示すメールも貰っていたからね。去年のうちに……」
「ところが
「とても残念だったよ。でもね、ボクより彼女の方が天使に相応しいと思うよ」
「確かに彼女は素晴らしい才能の持ち主よ……でも何を考えているかわからない」
「人の考え何てわかるものではないよ。それにキミ等は、いつも仲良さそうにしているじゃないか」
「えぇもちろんよ。望月さんは誠実だし、何事にも一生懸命で好感が持てるわ、あれが演技に見える?」
「そうは思わないな」
「わたしもよ。だけど調べれば調べるほど、彼女には謎が多い。だから風見さん、引き続き望月さんを見守ってもらえるかしら?」
「あぁ構わないよ。どうせボクは暇だしね……」
「代わりにあなたが元いた世界に戻りたいのなら、いくらでも手を貸すわ」
「それはありがとう、赤城グループの社長令嬢が言うなら本当に何とかなりそうだね。だけど遠慮しておくよ。ボクは今の生活に満足している。それにこれ以上キミに貸しを作ると後が恐いからね」
「恩を着せるつもりはないわ。仮にわたしのお願いをあなたが断ったとしても、あなたを元居た場所に戻してあげたい」
「……そうだったね。キミは人の痛みを理解し、常に誠実であろうとする素敵な人だった。だからボクも迷ってしまう」
「何をかしら?」
「いいや、何でもない……」
刹那は古くからの知り合いである前園凜を応援するつもりでいた。
ただひょんなことから知り合った、赤城さくらも気に入っている。
ふたりのどちらかが泣くところは見たくない。
しかし、ただ一人しか選ばれない以上、どちらかが泣く事になる。
場合によっては、ふたりともかもしれない。
(緒方君……キミはなかなかに罪深いね。でも面白いよ)
劇が始まる以前に、舞台を降りた刹那は観客として、事の成り行きを見守る。
彼女は
舞台袖から介入することがあっても……
こうして放課後の螺旋階段下で行われた密談は、誰に知られることもなく幕を下ろした。
この学園で非公式生徒会と呼ばれる異形の存在を除いて……
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