第157羽♡ 緒方霞黒歴史ノート

  

 宮姫からの突然の電話に出るため、俺はリビングルームにリナを残し、慌てて自室に戻る。

  

 「もしもし」

 「ごめん緒方君、そろそろ家を出るところだった?」

 

 「まだ家にいるよ、でもそろそろだけど、どうかしたか?」

 「ううん……やっぱり大丈夫、電話切るね」

 

 「まだ多少は余裕があるから」

 

 「そう……じゃあちょっとだけ、お凛ちゃんの事だけど」

 

 「うん」

 

 「正直に言うと悔しい……お凛ちゃんが日本に残りたい理由が、わたしじゃなくて緒方君がいるからってところが」

 

 「カレシがいるって言った方が、ノーラさんを説得しやすいと思っただけで、深い意味はないだろ。前園の一番は今も宮姫だよ」

 

 「そうかな……でもわたしはこの前、お凛ちゃんに酷い事を言ったでしょ。仲直りしても、あの言葉は消えないよ」


 『あなたはもう必要ないって言っているの前園さん』

 

 仲直りを願う前園に宮姫が告げた非情な一言。

 宮姫の本音は逆だったとしても、前園はあの瞬間、言葉を失うほどショックを受けたのは間違いない。

 

 でも……

 

 「あの時、俺は宮姫の気持ちを顧みずに、無理にふたりを仲直りさせようとして、宮姫を追いつめた。宮姫は前園を守るためには、突き放すのが一番だと思ったから、敢えてきつい事を言ったんだろ? 前園はわかっているし、気にしなくても大丈夫だよ」

  

 「かーくんはこんなわたしでも、まだ優しくしてくれるんだね」

 「当然だろ。これでもすーちゃんの幼馴染だし」


 違う――幼馴染じゃなくても、俺は何度だって助ける。


 宮姫も前園も……。

 

 ふたりはもう離れてはいけない。

 もしどちらかがいなくなれば、ふたりとも幸せにはなれない。

 

 宮姫と前園は、決して覆らないBAD ENDが確定してしまう。

 

 そんな事は絶対にさせない。

 

 「そう。じゃあお願いがあるの聞いてくれるかな」

 「あぁ」

  

 「わたしはまだお凛ちゃんと離れたくない。もっと沢山話をして、たまにケンカして、泣いて、また仲直りして、手を取り合って、いつか一緒に大人になりたいの」

 

 「そうか……」

 「あと緒方君の事をちゃんと話がしたい」

 

 「俺の事?」

 「うん」

 

 「足が臭いのが我慢ならないとか?」

 

 「はぁ……真面目な話をしてるのに。そういうところ直さないと女の子にもてないよ」

 

 「スミマセン気を付けます。ごめん、そろそろ時間が」

 「そうだよね、話を聞いてくれてありがとう、あと頑張ってね」

 

 「あぁ任せておけ! じゃあ」

 

 宮姫との通話を終わらせる。

 

 『任せておけ』か……陰キャなのに、全く似合わない事を言ってしまった。

 

 キモっ!

 最高にキモ……!


 そんな事を言っても許されるのは、ファンタジー小説のイケメン主人公だけだろうが!

 

 こうして銀河の歴史に残らない緒方霞黒歴史ノートには、新たな一ページ『幼馴染に任せておけとドヤる痛いクソザコな俺氏』が追記された。

 

 とほほ。

 

 でも宣言した以上、前園と宮姫を離れ離れにはさせない。

 

 絶対に……

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