第96羽♡ 大切な友達
「あなたはもう必要ないって言ってるの前園さん」
「すずすけ……どうして」
前園は宮姫の肩から手を離す。
「わたしね本当は白花じゃなくて
でも両親が白花の卒業生だから絶対白花の方が楽しいからって押し切られて入学したけど、ここでの学園生活はあまり期待してなかった」
宮姫は淡々と話を続ける。
「初めて前園さんと出会った時は衝撃だったな。絵本から出てきたお姫様みたいな子って本当にいるんだなって……腰の辺りまであった長い髪が風で揺れると金色と銀色の粒が溢れるようで……言葉を失うくらい綺麗だったし目を離すことができなった。
だから思ったの、わたしはこの子に出会うために
仲良くなりたいって……そうしたら同じクラスで出席番号も隣り合わせだからこれはもう運命だと思って一人ではしゃいでたの。
今思うとバカみたいだけどね。後は前園さんも知ってる通りだよ。
自分に無関係なことでも、納得できなければ相手が誰であろうと立ち向かう小さな前園さんは眩しかったし素直に憧れたよ。あなたの役に立てるなら、わたしはどんなことでもしようと思った。毎日忙しかったけどね。
そんな日々がいつの間にか、かけがえのないものになってた。
平凡になるはずだった学園生活がそうじゃなくなったの。
でもね、ある日それらは全て幻だってことに気づいた。前園さんとわたしは決して重ならないことに」
宮姫は、前園を罵倒するわけでも
でも自身と前園を繋ぐ未来がないことを淡々と告げる。
前園は黙ったまま聞いている。
「宮姫いいか?」
「何? 緒方君」
「前園と考えや目標の違いが出てくるのは仕方ないとしても、ふたりが関わらないというのはやり過ぎだと思う。そうせざる負えない困った事情が別にあるんじゃないか?」
例えば非公式生徒会。
俺たちに干渉してくる正体不明の組織。
宮姫と俺に毎日キスをすることを強要するような連中だ。
俺が知らないだけで宮姫に何らかの圧力が掛かっている可能性は十分にある。
「何もないよ」
「それに宮姫……いやすーちゃんらしくない。俺の知るすーちゃんは今も昔も優しい女の子だから」
「それは緒方君の勝手なイメージだよ。わたしはそんなんじゃない」
「高等部に入学した直後もリナやさくらを助けてくれただろ、あいつらはどうしても目立つからクラスメイト達と最初は距離があった。でも宮姫だけは話しかけてくれたから助かったって」
全国レベルのサッカー選手としてその妙技が映る動画を他人が勝手にアップロードした結果、大バズりしてしまい同世代では知らぬものはいないほど有名人になってしまったリナと、同じく経営者としてマルチな才能を発揮しメディアから何度も取材を受けているさくら。
それまで知り合いでなかった普通の高校生が話しかけるとしたら敷居が高すぎるふたり。
中等部時代から白花に在学し、学園内で影響力のある宮姫がそばにいてくれたおかげでリナとさくらは少しずつクラスに溶け込んでいき、今のように普通に友達を作れるようになった。
「悪いと思ったけど、前園と宮姫の過去を少し調べさせてもらった。ふたりは美術部以外でも常に一緒にいたんだな。バスケサークルや前園のバイト先なんかも、これまで互いを支えてきたんだろ」
「過去の話だよ」
「
「……分かったような事言わないで。10年前に突然いなくなったかーくんに何がわかるの!?」
少し苛立つように口調で宮姫は俺に問いかける。
「すーちゃんを置き去りにした俺が宮姫にあれこれ言う資格はない。でも前園は別だ。前園は宮姫にとって今も一番大切な人だろ!」
「……緒方君はどこまで知ってるの?」
「恐らく少ししか分かってない、でもふたりがどうあるべきかわかってると思う。宮姫と前園は離れちゃダメだ」
「決めるのは緒方君じゃないよ」
「そうだな……前園一つだけ教えてくれ! 前園凛にとって宮姫すずはどんな存在だ?」
「すずすけは憧れでお姉さんみたいな存在で、誰よりも大切な……友達」
「……ありがとう前園さん。でもわたしはもうあなたの友達にはなれない。だからこの先は一緒にはいられないの。じゃあ」
宮姫はそう言い残すと、今度こそ空き教室から出て行った。
ただ願うのは友達ではなくその先にあるもの
ふたりは友達同士に戻れない……
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