第97羽♡ 夜這いではありません!


 ――前園、宮姫との三人だけのモップ会を終えた放課後


 事後報告のため俺と楓、リナ、さくらの四人が一昨日と同様に空き教室に集合する。


 「兄ちゃんお疲れ様」

 「ありがとうリナ、宮姫は変わりないか?」


 「昼休みが終わった後、体調不良ですぐに早退しちゃったよ」

 「そっか」


 はぁ……溜息しかでない。

 さっき話をした時は体調が悪そうに見えなかった。早退したのは100%俺のせいだ。

 

 「どうやらひと悶着あったようね。凜さんの様子はどう?」

 「教室では普通にしてたけど、帰りのホームルームが終わったら話しかける余裕もなく出ていった」

 

 「そう……」

 

 「俺の考えが甘かった。互いを嫌っているように見えなかったし、落ち着いて話せば何とかなると思ってた」

 

 「仕方ないよ。凛ちゃんとすずちゃんが長い間どうにもできなかったことをカスミが解決するのは難しいよ」

  

 「まぁそうなんだけど」

 

 最初から苦戦するのはわかっていた。 

 だからそれなりには準備をして臨んだ。

 際どい話になった時のために覚悟もしてたつもりだった。

 

 それでも実際に確信に近づくと腰が引けてしまう。

 

 軽はずみで言えば取り返しがつかなくなる。

 既に傷を負っているふたりをさらに深い傷をつけてしまうかもしれない。


 そう頭によぎると宮姫を制止することもできず、ただの傍観者になってしまう。


 「兄ちゃんはよく本当に頑張ってるよ。よしよし」

 「……ありがとうリナ」


 小さな手で頭を撫でられると思わず泣きそうになる。

 ダメな兄ちゃんでごめん。

  

 「わたしをギュッと~~~してもいいよ兄ちゃん」

 

 今度は両手を広げ、俺が抱きつくように促してくる。

 え……良いの?

 

 「ちょっと待ちなさいリナ」

 「そうだよリナちゃん、ここ学校だし誰かに見られたら大変だよ」

 

 そうだよな。

 さすがに学校で抱き付くのはまずいよな。

 楓とさくらの前だし……

  

 「じゃあ続きはお家でふたりきりの時にね兄ちゃん」

 「家の中でもダメよ! カスミ君はドスケベド変態なんだから」

  

 すみません。

 家の中でも気を付けます。

 でもドスケベド変態はヒドイですさくらたん。

 

 「そうだよリナちゃん、ふたりきりでもやっていい事とやってはいけない事があるから」

 

 楓さんや……仰る通りだと思うけど、先日の勉強会は途中でとてもけしからんコスプレイベントがありましたよね。どちらかと言うとやってはいけないことじゃないかな。もちろん素晴らしいおもてなしでしたよ。強いて言うなら写真撮影タイムがなかったのが残念無念だけど。と言う訳で撮影タイム付きコスプレ勉強会第二弾をお待ちしております。

  

 「リナとカスミ君を同じ家にいるといつか事故が起きそうね。まぁそれはそれとして、この後どうするつもりかしら?」

 

 「時間を空ければ解決する問題ではないし、早いうちに前園、宮姫と別々に話がしたい」

 

 「そうね……わたしたちも明日以降はなるべく凜さんやすずと話をして解決の糸口を探るわ」

 「頼む、でも前園たちはしばらく俺とは話をしたくないかもしれないけどな」

 

 前園の期待に応えることはできず、宮姫からすれば今日のモップ会は俺に裏切られたと感じているかもしれない。

 

 「わたしは凛ちゃんもすずちゃんもカスミと話したがってると思う」

 

 「どうしてだ楓?」

 

 「不安な時は誰かと一緒にいたくなるでしょ」

 「そうだな……でも宮姫は家族がいるし、前園は一人暮らしみたいなもんだけどバイト先に親しい人がいるみたいだから、俺じゃなくても」

 

 「「「そうじゃない!」」」

 

 「ん? 三人同時に大きな声で否定するからビックリなんだけど……ところでリナ、今日遅くなるなら晩御飯は適当に食べてもらって良いか?」

 

 「兄ちゃん今日バイトの日だったっけ? それとも凛ちゃんかすずの家に夜這よばいに行くのか?」

 

 「え!? 夜這い? ダ、ダメだよカスミ、日本は近代化されて以降は一夫一妻制、将来の伴侶になる人以外とそういうことは……でも凛ちゃんかすずちゃんのどちかがカスミのお嫁さんになるなら問題のない? で、でもそうしたらわたしはどうすれば……」

 

 楓さんがという言葉に過剰反応し、謎の賢者タイムに入ってしまった。

 最近の流行とかオタク知識には疎い楓だけど、勤勉のため国語辞典や古語辞典に載っている言葉には詳しい。

 

 「楓が今考えてるようなことはないから。そもそも宮姫の家はともかく前園の家はどこか知らないし」

 

 前園は俺の家には何度か来たことのあるけど、俺は前園の家がどこにあるかは知らない。宮姫の家はこの前も帰りに送ったばかりだし、子供の頃に遊びに行ったこともあるから知っている。

 

 「帰りに宮姫に会ってくる。スマホで連絡しても今日は出てくれないかもしれないし、直接話すべきことだと思うから」

 

 「そう、ではカスミ君はすずのとして寄り添ってあげて」

 「わかった」

 

 幼馴染として校外で宮姫に会う分にはフィアンセ様は問題ないらしい。

 

 だけど俺と宮姫はまだ今日分のを終えていない。

 さくらが知れば怒るだけで済まないようなことを俺はやる。

 

 「カスミ君を信じてる。あと嘘は好きじゃないわ」

 「あぁわかってる」


 心の暗いところを見透かされているのか悪いことができない様に言葉で鍵をかけてくる。

 

 さくらを傷つけたいわけではない。

 

 だから俺は嘘を重ねる……

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