第131羽♡ はじめての夫婦ライフ(#21 誕生日会という名の戦 その5)

 

「わたしが現在赤城グループで働いている件につきましてお答えさせて頂きます。一年程前に父伝えで十代向けの化粧品開発のため、現役学生として参考意見が欲しいとの話を頂いたのがきっかけで、プロジェクトに関わるようになりました。もちろん社員待遇ではなく、準委託契約です」

  

 「さくらさんには多額の報酬が発生しているとの噂がございますが」


 「赤城グループから頂いた先月の給与は確か三万七千円ほどです。時給制のため毎月変動しますが、大体プラスマイナス一万円以内です。放課後にアルバイトをしている同級生から聞いた限りでは特別高いとは思いません」


 さくらは慌てる様子もなく淡々と告げる。


 え? マジで?

 ……全然高くない。

 

 俺がカフェレストランで貰っているバイト料の方が多い。

 

 「そ、そうですか。でも、さくらさんには自身が代表を務める会社がありますよね。赤城グループの名をチラつかせて相手企業に対し、不当に優位な契約を結ばせてるとの噂が耐えません」

 

 「商談の際に赤城グループの名前を出すことはありません。仮に赤城グループへの橋渡しを頼まれてもお断りいたします」

 

 「さくらさんにその気がなくても、あなたを利用しようと近づいてくる輩はきっといます。それに現在赤城グループ内で参画しているプロジェクトに、取締役の娘であるあなたから不当に圧力が掛かっているとの話もあります」

 

 「わたしは分を弁えて発言しています。出過ぎるような事は言いません」

 

 「ですが実際に苦情が上がっているのです。もっと周りを気にした方が良いんじゃないですか?」

 

 「助言頂きありがとうございます。今後も発言には気を付けるようにします」

 

 「そもそも学生のあなたと社会人が同僚扱いされたり、さくらさんの意見の方が重要に扱われたとしたら、良い気分がすると思いますか? 学生は学生らしく仕事は辞めて学業に専念されるべきでは?」

 

 「わたしは……」

 

 さくらは視線を落とし、途中で黙ってしまう。

 

 さすがにこの言い草は酷い。

 しかもさくらを見て、親戚連中がまた笑っている。

 

 さっきから何なんだこいつらは?

 あまりにも理不尽過ぎる。

 

 そもそも何の権利があってさくらを傷つける?


 ゴシップ記事の様に証拠らしい証拠も提示せず、憶測だけで批判めいたことを言ってくる。

 

 それに都合が悪くなるとすぐ話を変えて、延々といちゃもんをつけてくる。

 

 めちゃくちゃ腹立たしいし、俺が代わりにこいつらを怒鳴りつけてやりたい。

 

 ……でも


 こいつらは何のためにこんな無駄な議論をふっかけてくるんだ?

 

 ただ気に食わないだけじゃないよな。

 

 こいつらは今の地位を守りたいし、さっきの話からすると親戚一同で会社の重要ポストを独占したいわけで。

 

 でもこんな非公式な場で馬事雑言を並べたところで、安吾氏がさっき言ってた新人事制度導入がひっくり返るはずもない。


 ――いや待て

 もし新人事制度導入を安吾氏が聞く前から知ってたとしたら、話が変わってこないか?


 この場には会長と取締役、つまり会社の絶対的なトップがいるわけで、このふたりの鶴の一声があれば、まだ計画はストップできるはず。

 

 そして今現在、楽して稼げてるこいつらにとって、新人事制度は死活問題になる可能性があり、何としても阻止したい。でも手ぶらでは優位な交渉は無理だから何かしら切り札が必要。


 狙いはその辺か……。

 

 それっぽいことで話をふっかけ準之助氏側にボロを出させ、交渉のためにネタを掴むと仮定すると今までの言動は理解しやすい。

 

 安直な発想だし、今のところ大したことは掴んでいないだろうけど。

 

 だがスキャンダルまで行かなくても、一言でも失言があれば目的は達成できる可能性がある。動画などで隠し撮りしておいて使えるところだけ加工してしまえば。


 こっそり撮影してそうな怪しいヤツは……ダメだ。人が多すぎる。

 この場にいる全員が全員、敵じゃないかもしれないけど区別がつかない。 

 

 となると余計なことは言わず、さっさとこの場を終わらせた方が無難だろう。

 

 特にさくらや準之助さんはあまり喋らない方が良い。万が一余計なことを言ったら取り返しがつかない。

 

 だが失言をするのが俺なら被害は小さい。さくらのフィアンセとは言え、現状赤城グループに対し、影響力もない部外者だし、失言したところでバカな高校生の戯言で終わるんじゃないか?

 

 ……だよな。

 なら仕方ないか。 

  

 出しゃばるつもりはなかったけど、俺がこの茶番を終わらせる。

 

 いいよな? 

 さくら

 

 覚悟を決めた俺はフィアンセを一瞥いちべつする。

 すると目が合った後、僅かに口元が緩んだように見えた。

  

 あれ? 

 ちょっとさくらさん?

 

 ……もしかしてこれって


 はぁ……やっぱ面倒だな。

 でもまぁ……今更引くのは無理そうだし……やるしかないか。

  

 道化たちと戦う前に俺は全てを悟った。

 これは巧妙な罠だ。

 

 恐らくこの場の人間のほとんどが最初からめられている。

 もちろん俺も含めて……。

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