第132羽♡ はじめての夫婦ライフ(#22 誕生日会という名の戦 その6)
どうやらフィアンセ様は俺が前線で戦うことがご所望の様のようだ。
急に大人しくなったのは俺に火中の栗を拾わせるため。
そうだよな……さくらがあんな簡単にやられるわけないよな。
リアル悪役令嬢で冷徹で無慈悲な大魔王だし。ついでに白花学園では天使もやってたりする。
と言う訳で愛しのマイハニーのためにいっちょやるか……
「お話し中すみません……ちょっといいですか?」
「何かしら? 私は今さくらさんと話をしています。後にしてください」
さくらを完全に打ちのめしたと思っているのだろう。
親戚の女性は嬉々とし、やや興奮しているように感じる。
「さくらさんが疲れてるようなので、少しだけお願いします。それにさっきボクのことも何か言ってましたよね? 確か将来赤城家の当主になるとか」
「ふん、あなたみたいな子がなれるわけないでしょ」
「ええボクもそう思います。でもそれって淳之介さんにご自身もあるわけがないと思ってることを問い
「くっ……」
「どうかしました?」
「何でもありません」
「ところで先ほどから厳しい事を仰られておりますが、会社や赤城家の行く末を心配されてのことですよね」
「もちろんです。当然じゃないですか!」
「では準之助さんや安吾さんと同じですね。先ほど準之助さんの話を聞いてて思ったんですが、たとえ厳しい状況でも赤城家の人達ならその知恵と志で、乗り越えられるから、敢えて新人事制度を導入しようとしているのではないでしょうか」
「ですが問題が沢山あります!」
「なら社員の皆さん全員の意見を合わせ、より良いものを提案または代案を出せば良いんじゃないですか。安吾さんも皆さんの働きぶりには感謝しているって仰られてましたよね。きっと皆さんの意見を必要としていると思います」
「……そうかもしれませんが、取締役がさくらさんに特別待遇を与えるような現状を改めてないと新人事制度は説得力がありません」
この人も創業者一族だからこれまで会社内で恩恵を受けてきたはずで、さくらの待遇を改めるというなら、創業者一族全員の待遇も改めてないと整合性がとれないと思うけど……。まぁ触れない方が良いか。
「聞いた限りだと、さくらさんの仕事はアルバイトみたいな感じで、特別待遇というほどでもないと思うのですが。強いて言うなら高校生で皆さんの様な優秀な人たちと働くことができるのは特別待遇とも言えなくもないですね」
「緒方さんの仰る通りです。わたしは情熱溢れる人たちと仕事をすることができてとても幸せです。これまで大変勉強になりました。ですがわたしと赤城グループとの契約は満了となり今月で終了です」
やられたふりをして、大人しくしていたさくらが突如復活し、自身が遠からず赤城グループから離脱することを告げる。これで新人事制度にさくらの存在がネックになるという言いがかりも成立しなくなる。
「……しばらく経ったら別契約で戻ってくるのでは!?」
「学業や部活が忙しいのと自社業務もありますのでありません。今後は社外から皆さんのご活躍を祈念いたしますわ。これまでご指導いただきありがとうございます」
言い終えると、さくらは深々と礼をする。
彼らの希望通りさくらは赤城グループから離脱するが、追い出したのではなく、出ていくのだ。肩透かしを喰らったように感じているかもしれない。
「最近の若者は進んで発言したがらないと聞いたがそんなこともないな……」
安吾さんが沈黙を破り、威厳のあるゆっくりとした口調で一同に語り掛ける。
「皆の意見よくわかった。今日の様に時には議論をぶつけ合い切磋琢磨し、赤城グループの明日を切り開いて欲しい。私はここにいる人全てに期待している」
「最後に皆ともう一度、酌み交わしておきたい」
安吾さんがグラスを掲げると皆、慌ててグラスを持つ。
「では皆の検討を祈り乾杯!」
「乾杯!」
グラスの音が鳴り響いた後、自然と拍手が発生する。
事態が呑み込めず当惑したままの人、苦虫を嚙み潰したような顔をしている人、最後まで事態を静観していた人など、ホール内には様々な思惑が交錯しているように見える。
しばらくして誕生日会はお開きとなった。
こうして一部親族による現赤城家当主への反乱は失敗に終わった。
この反乱は偶発的なものでないこと。
また失敗も含めてシナリオ通りだった可能性が高い。
誕生日会が終幕を迎えるまで俺の知っている赤城家の人達は誰一人慌てていなかった。
後でさくらと答え合わせをしよう。
今は何事も無かったように可憐な笑みを浮かべているフィアンセ様は、嬉々として答えてくれるはずだ。
でも正直あまり関わりたくない。
ドロドロしてて胃痛がしそう。
親愛なる赤城さくら様。
今日みたいのがセレブ世界の日常なら、ボクには無理ぽーでございます。
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