番外編第2羽♡ 緒方霞縞パン裁判 その2
※本編と違い三人称視点となっています。
時系列としては 第121羽から数時間後のお話となります。
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(これはあかん! マジ恐いよ兄ちゃん――!)
高山莉菜は怯えていた。
彼女の右手を掴む望月楓の左手が先ほどより一層力強くなったから。
なお画面越しの前園凜や宮姫すずには、ふたりが手を繋いでいることは角度的に見えない。
「兄ちゃんが今より近い関係になりたいというなら、わたしが断る理由はないよ」
今からほんの3分ほど前のこと……
この場での形勢逆転を狙い、莉菜は勇気をふり絞り、隣に座る楓にイキってみせた。
イキられた楓は一瞬
一見華奢な少女にしか見えない楓の凄まじい握力は容赦なく莉菜の右手にギリギリと食い込む。
莉菜は本能的に悟る。
隣にいる少女は捕食者の頂点に君臨する獅子に等しい。
小動物の様な自分が嚙みついたところで薄皮一枚を傷つけるのがやっと、楓の一
この場を切り抜けるため、莉菜に残された選択肢を二つ。
一つはこのグループミーティングで現在、主導権を握る凛に自分の味方に引き込み、莉菜優位に話を進めること。
もう一つは「緒方霞縞パン疑惑」の全真相を知る赤城さくらがこのミーティングに参加し、カスミの無罪を主張してもらうこと。
一つ目については、凜は掴みどころのない性格をしており、事前に意識合わせをしておくか、莉菜が凜も強く共感できることでも主張しない限りは不可能である。
二つ目は、さくらとは未だに音信不通により目途が立たない。こちらも厳しいと言わざるを得ない。
「オレたち5人の誰のパンツでもないとすると、緒方はスケベ心を満たすために何らかの方法で入手したってことになるかな」
「緒方君サイアク! へドロ以下!」
「……そうだとすると、ちょっと複雑だよね」
「でもまぁ健康な男なわけだし、多少はスケベなことに興味をもつのは仕方ないだろ」
「そうだよね……そうなんだけど」
凜が上げた霞の犯行動機に対しすず、楓が理解を示しつつも苦言を呈す。
認めざる負えない部分もあるが、恋を純粋に綺麗なものと夢見る
(楓ちゃんもすずも自分以外に兄ちゃんがそういう視線を向けるのが嫌なんだよね)
他ではない自分だけを見てもらいたい。
スケベな事を考える対象が自分だけなら、嫌だけど辛うじて許せる。
インターネット上にあるであろうムフフな画像や動画の閲覧は当然アウト。決して許すまじ。
年頃の乙女にとって男性のムフフは規制対象だらけなのだ。
「お凛ちゃんは平気なの?」
「ん? 気にはなるよ。でも自分の意見ばかり通すわけにいかないし、ちゃんと大切にしてくれるなら……」
言い終える前に凜は途端に顔を背けて黙ってしまった。
「お凛ちゃん……」
先ほどまで少年のようだった前園は恋する乙女の顔になり、健気な一面を見せる。
同姓の莉菜やすずからしても、乙女な前園凜は愛おしく感じる。
(凛ちゃんは凄くかわいい……でも負けない)
この場にいないさくらも含めて、莉菜にとって油断できる相手は一人もいない。
「でも緒方がそのパンツを履いて一人喜んでたら、オレもドン引きする」
「うん……それはキツイね」
「止めてお凛ちゃん! 考えたくもない! 緒方君の超超ド変態! 今すぐ爆発四散して!」
「さすがにカスミもそこまでは……でもひょっとして」
霞が縞パンは履くことに関しては、全会一致で有り得ないこととされた。
とは言え、すずは霞の縞パン姿をしっかり考えてそうだし、楓は楓で何か良からぬことを思案してそうに見える。
「……でどうする? 皆モヤモヤしてるなら緒方に直接聞いてみるか? でもなぁ……そのパンツは緒方の部屋にあったんだろ? 変なものが部屋にあったとしても、カノジョでもないオレ等があれこれ追及する権利あるかな」
「そうだよね……」
現状さくらを含めて五人は霞と親しい関係にあるがカノジョではない。
カノジョとそうじゃない人では、霞に言っても大丈夫なことや、大丈夫じゃないことがきっと変わる。
まして下手なことを言うことで霞に嫌われたくない。
大きなリスクを背負い、対して重要でもない真実を追求するくらいなら、何も知らないふりをしてやり過ごした方が無難ではなかろうか?
好奇心のまま突き進むことに、四人の少女達を不安を覚え始めていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ところで、そのパンツを見つけたのは楓だったよな?」
「うん」
「緒方の部屋をガサ入れでもしたのか?」
「ううん。昨日の夜にカスミと電話で話した時、部屋の入室許可をもらってたから掃除機をかけようと思って、そうしたらベッドの上にアレが置いてあったから」
「つまり隠してあったんじゃなくて、部屋の目立つところにパンツが置いてあったことか」
「うん。だからビックリしたの」
(し、しまったぁ――! ごめん兄ちゃん!)
莉菜はその時、一連のパンツ騒動について、緒方霞が無罪であることを隠していること以外にも自分に非があることをようやく自覚した。
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