第32羽♡ ここはオレに任せろ!
前園凛とふたりで校舎四階屋上出口で話をしていただけ――やましいところは何もないはずなのに、赤城さくら、高山莉奈の両名になぜか追い詰められ現在大ピンチな状況。
既に退路は断たれているし、逃げたところで確実に捕まる。武力ではさくらに勝てる可能性は万に一つもない。
「ふたりとも部活終わったのか~お疲れ~調子はどう?」
とは言え、さくらにぶち殺されたくもない。
良い解決案が浮かばないが、とりあえず何気ない日常トークでこの場を切り抜ける……ことができればいいけど。
「えぇお陰様でコンディションは上々よ……それよりカスミ君はわたしとリナが朝練をしている間にここで前園さんと何をしていたのかしら?」
「ソーシャルゲームと今度の土曜日出かける件を話してだけだよ。そうだよな前園?」
「あぁ……ひゃん!?」
「やや、どうしたのだ凛ちゃん?」
「緒方の
「このくされゲス野郎がぁ~! どさくさに紛れて何してるだぁ兄ちゃん!」
「わたしの前で堂々とわいせつ行為を働くとはずいぶんいい度胸ねカスミ君」
「ワ、ワザとじゃないぞ! 不可抗力だから!」
確かに今一瞬だけど、なんか大きくて柔らかいものに触れた。
あれが胸だとすると、先日のリナのそれより明らかにご立派な感触でしたマーベラスでした……すみません。
しかし困った。明らかにさくらの怒りボルテージが上がっている。
マジで怖い……。
背中に嫌な汗をかき始めている。
「浮気した男は大体そんな風に言い訳をするってネットに書いてあったわ」
「さくらさん。ネット情報はあまり参考ならないこともあるよ。ははは」
「ところでさっきから大事そうに前園さんの手を握っているのはどうしてかしら?」
「手を握ってないと階段から前園が落ちそう気がして……でも大丈夫そうですね。今離すね」
さくらの迫力にのまれた俺は、これ以上ないくらいヘタクソな言い訳をした後、前園の手を放した。
「なぁ緒方、さっきはこのままふたりで保健室で秘密のお医者さんごっこしたいって言ってたけど、あれはもういいのか?」
前園は俺が話した自分の左手を見ながら、無実の俺がさくらから確実に死刑判決を受ける内容を告げた。
ちょっと前園のぉお?~何言ってくれちゃってるの!?
「ふふふ……どうやら発情した駄犬は今すぐ人生最後の
「さくらさん……躾は間に合ってます。お、おーいリナ~、いやリナちゃん、赤城さん色々誤解されているようなので、兄ちゃんを助けてくれないかな」
恐怖のあまり、なぜか我が妹に助けを求めた。
この際何でもいい! 妹~今こそ真の兄妹愛を見せる時だ! 日頃から鍛えているその妹力を見せてくれ!
「兄ちゃん……ごめ~ん助けられないや……でも骨はちゃんと拾うから心配しないで。とりあえず
何ぃ~? ガチの念仏唱え始めた~!?
田舎で小さい頃からばぁちゃんの念仏を横で毎日聞いてたから、自然と丸暗記してたな。
このままだと、あの世へ一直線じゃないか俺!?
「ではカスミ君~愛とアオハルのお仕置きいくわね。人生の最後くらいは男らしく
さくらは右肩をぐるぐる回すと、俺を駆逐するための攻撃態勢に入る。
「いや~~~~さくらさんやめて!」
「
「じゃ死んで♡」
さくらが右拳を俺に向けて振り上げたその瞬間――!
「はいストップ! 緒方が変なことするわけないじゃん。ごめん赤城さん、妹ちゃん、オレの悪ふざけが過ぎた」
さっきまで俺の陰に隠れていた前園がスッと前に出るとふたりに深々と頭を下げる。
「「な……」」
あっけにとられたさくらとリナは固まっている。
「この通り~許してください。緒方は全然悪くないから」
「……ちょっと顔を上げてくださいな前園さん。わたしも緒方君を本気で正拳突きするつもりはないわ。軽い平手打ちを数発だけよ」
正拳突きも平手打ちも、俺がノックアウトされるっていう意味では変わらなくない?
入学早々、さくらに無礼を働いた運動部の先輩を平手打ちした時、舌を出したまま延びちゃってたよね。
あの時「一割の力でやったのに加減が難しいわ、
僕も戦闘力五以下の脆弱な地球人です。平手打ちでも死にますから!
「なら良かった。ところでふたりとも本当は緒方が悪い事しないのをわかってて意地悪なこと言ったでしょ」
「……もちろんよ。そもそも前園さんのような淑女が金魚のフン以下のカスミ君の手に負えるはずもないわ」
「それはありがとう赤城さん、でもオレはガサツだから淑女ではないかな」
「ご冗談を……あなたほど気品と優雅さを併せ持つ人はいないわ」
「そんなに褒められると照れるな。赤城さんはあまりオレと話をしてくれないから、避けられていると思ってたよ」
「……前園さんがあまりにも素敵な人だったから遠慮してただけよ」
ん?
なんか変だ、さっきからさくらの口から出るのは、前園の称賛ばかりだな。
「赤城さんは中学まで三条院女学院に通っていたんだよね。こんな綺麗な子がうちに来るなんて正直戸惑ったよ。
でもオレはもっと仲良くしたいな、普段も気軽に話しかけてくれると嬉しい」
「そんな……恐れ多いわ」
「そう言わずオレのことは名前で呼んでくれないか」
「い……いいのかしら、それでは凜……さん、わたくしのこともさくらと呼んでくださいまし」
「さくら」
「はい……凛さん」
キラキラした目で、見つめ合うさくらと前園、前園はいつものイケメンモードだけど、さくらの様子がやはりおかしい。顔が真っ赤だ。
「さくら、キミは美しいね、これからもオレのそばにいてくれるかな」
「もちろんですわ」
「ありがとう」
前園が自然な動作でそのまま楓を抱きしめた。
さくらはされるがままになっている。
「なぁ兄ちゃん」
「何だ? 妹よ」
「わたしもさくらと一緒に颯爽と登場したつもりなのにビックリするくらい目立ってない……」
「そんな日もあるさ妹よ……」
「なぁ兄ちゃん」
「何だ? 妹よ」
「我が女子サッカー部のエースがチャラいイケメンにあっさりナンパされちゃったんだけど」
「そうだな、イケメンってすごいなぁ……」
「なぁ兄ちゃん」
「何だ? 妹よ」
「わたしは学園中の女子全てが凛ちゃんの嫁になっても不思議とは思わない」
「そうだな。前園ならやりきりそうだな」
「イケメンマジ恐い! くわばらくわばら」
「どうしたのかな妹ちゃん? さぁキミもおいで……」
「はい~♡」
目がハートになったリナが前園の腕の中に吸い込まれていく。
「言ってるそばから前園にナンパされるなよ~!」
「ごめんね寂しかったかい?」
「はい寂しかったですぅ~わたしをぎゅっとしてください~」
「こうかな?」
「きゃううううう~~~凛ちゃん、しゅきしゅき、ラブラブラブ~♡ フォーエバー!!!」
その日、白花学園第二校舎屋上付近でイケメン少女前園を中心に高密度百合結界が展開された。
その光景はあまりにも気高く美しく尊かった……。
拝啓、脳内におられます縦ロールの百合百合お姉様 (名前はまだない)へ
望月楓、高山莉菜と続き、三条院女学院史上最強の逸材と言われていたらしい赤城さくらまでイケメン前園凛の手中に堕ちました。
この世に前園に勝てるイケメンまたは美少女なんているのでしょうか?
まぁとりあえず……いつものやります!
波乱ですわ~またしても波乱の展開ですわお姉様~!
赤城さんまで前園さんのものになってしまいましたわ~!
可憐ですわ~
「……ん?」
よくよく見るとさくら、リナとハグをしたままの前園が目配りをしている。
口の動きを読むと「早く逃げろ、ここはオレが引き受けた」だと~!?
何それ!?
超カッコいいんですけど~!
前園さんマジイケメン!
惚れるわ~!
現世でも異世界でも転生したら前園さんの彼女になりたいです。
とりあえずありがとう、そしてさらば前園……。
生涯、君の雄姿を忘れないよ。
三人の少女達が抱き合う姿を横目に立ち去るのをバレないよう物音に気を付けてひとり教室に戻った。
◇◇◇
「カスミ~凛ちゃんとどこで何をしてたの? わかりやすく何があったのか今すぐ説明してくれるかな~」
いつも通り笑顔のまま怒りモードの楓が声をかけてきた。
「前園、さくら、リナの三人が屋上出口で抱き合い、白い花が咲き乱れるのを俺はただ見守ってた」
「何を言ってるかさっぱりわからないんだけど」
「はい――すみません」
親友のご機嫌は斜めのまま。
怒られると思って省略した部分を含め、包み隠さず楓に話したところ、怒りは収まったが散々小言を言われた。
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