第39羽♡ 猛妹注意!(上)

 

 朝はスマートフォンの目覚ましアラームが鳴らなくてもいつも同じ時間に目が覚める。

 

 平日でも休日でもそれは変わらない。


 リナの部活のある日なら休日もお弁当を用意しないといけないし、

 部活がなくても、外出しなければ朝昼のご飯を用意する。


 たまには昼頃まで寝てたいと思うこともある。

 

 だけどやらなければならないことは沢山あるし、何よりお腹をすかせた義妹もどきが暴れ出す。


 パパっと準備を終わらせる。

 何でも早め早めにやっておけば困ることは少ない。

 

 逆にやらなければいけないことを溜めてしまうとおっくうになるし憂鬱に感じる。

 

 日曜夜六時半からの定番アニメが放送されている時、次の日の宿題が終わってないと焦るのに似ている。


 まだ薄暗い明け方、今日も起きようとする……。

 だけど、どういう訳か体が動かない。


 体調不良か?

 それとも金縛りか? 


 とにかく体が重い……。


 ひょっとして、これが心霊現象ってやつだろうか?

 でも俺に霊感があるとは思えない。


 もうすぐ十六歳になるけど、今までの人生でお化けを見たことはない。

 

 もちろん今までなかったからと言って、今日この場でお化けをみないとは限らないが……。

 

「角は敏感なの触っちゃダメだよ、あふ~ん」


 ん?

 何かが聞こえた気がする。


「そこは尻尾だよ~うへへっ」


 すごく聞き慣れた声がする。

 というか小悪魔だけあってやっぱり角や尻尾生えてるの?

 

「わたし妹だよ、でもいいよね? 愛があれば関係なし~きゃうううん」


 ……こんなおバカなこと言うヤツは一人しかない。

 

 それより何でこいつ俺の部屋にいるんだ?

 まぁそんなことはどうでもいい……。


「起きろ~そして離れろ~義妹もどき!」


 俺は目を開けると同時に立ち上がろうとする。

 しかし妹がぺったりくっついてため動けない。

 

 辺りを見渡すと、ここは俺の部屋でもなくリナの部屋で、寝ていたところはベッドですらない。

 

 折りたたみテーブルの横で、俺もリナも雑魚寝している。

 

 そう言えば昨晩、リナと一緒に期末テスト勉強にしている途中少し休憩するつもりで、少しだけ横になったな。

 

 で、そのまま朝まで寝てしまったようだ……。

 

「ス~」


 僅かに寝息が聞こえる。

 リナはまだ夢の中のようだ。

 

「起きろよ~リナ」

「ス~」


「俺は今日前園と出かけるし、リナは部活があるだろ?」

「ス~」

 

「遅刻したらさくらに怒られるぞ」

「ス~」


「部活の顧問や先輩にも怒られるぞ」

「ス~」

 

――駄目だ、全然起きない。

 どうしてこんなに寝起きが悪いのだろう?


 疲れが溜まっているのか? 

 ここのところ毎日、試験対策勉強をさせてたからな。

 

 もっとリナがびっくりするようなことを言わないと起きないか……。

 

 よし――。

 

「早く起きないとスマホの中を見ちゃうぞ」

「ス~」


……いや、それはダメだ。絶対にやってはダメ。

 親しい仲でもプライバシーは大事……。

 

 それにSNSの鍵アカウントに、俺の悪口がたくさん書いてあったらどうしよう……そんなの見たら二度と立ち直れない……。

 

「クローゼットの中の下着を見ちゃうぞ」

「ス~」 


 クローゼットの中のを見なくても

 洗濯の時、リナの下着は大体見てるしなぁ……。

 

 当たり前のように洗濯物として出してくるけど羞恥心あるのか?

 

 リナを起こすにはまだ足りない。

 更に強烈なヤツ言ってみよう……どうせ聞いてないし。 


「寝てるうちにキスしちゃうぞ」


「ん……いいよ」

「なっ!? 起きてるの?」


「ス~」


 なんだ寝言か……。


「兄ちゃんしゅき……むにゃむにゃ」

「はぁ……俺もだよリナ」


「えへへっ……ス~」

 

 不思議なことに寝たままでも会話が成立する。

 

 はぁ……人の気も知らないで……。

 

 リナは俺にくっついたまま無邪気に眠る。

 もう互いに子供じゃないからもう少し離れないといけない。

 

 本当の兄妹じゃない俺たちはいずれ離れ離れになる。

 その日に備え、兄離れ、妹離れしないといけない。 

 

 そうは思うけど、もう少しこのあいまいな関係に浸っていたい。

 だって居心地が良いから……。


 家から一歩出たら高山莉菜は俺よりずっと先を走っている。

 

 学園内アイドルの一人で、全国トップクラスのアスリートで。

 俺はついていけなくて、とっくに置いてけぼりだ。


 高校だってわざわざ俺と同じ学校を選ばなくても、日本中の高校からスカウトが来てたはずなのに……まだ俺のそばにいてくれる。

 

「ん……?」

「おはようリナ……」


 妹はようやく目を覚ました。

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