第175羽♡ 消えた義妹もどき
――7月22日日曜日の夜
バイト後にさくらの家に寄った後、夜九時過ぎにようやく家に辿り着いた。
「戻ったか兄様よ、ご苦労であった……して例のブツは?」
「ははぁこちらに」
「ふむ」
お殿様のようにふんぞり返り偉そうにする義妹もどき。
今日もかわいいじゃねーか。
「むっ?」
「どうかしたか?」
「ない! プリンがないのだ!」
「ちゃんと買い物バッグの中に入っているだろ」
「そうじゃないのだ! わたしはプリン5個買ってきてと言ったのに3個しか入ってないのだ!」
「悪い……帰りに寄ったコンビニがちょうど商品補充前の時間帯だったみたいで、3個しか残ってなかった」
「なんてこったぁ! 兄様よ、プリンが足りなければ、他のスイーツを買ってくるのが正しき兄の務めでしょうが、このままでは妹が飢えて死んでしまいますよ」
「いいえ、食欲魔人の妹が食べ過ぎで体調を崩さないようにすることが兄の務めであります。プリン3つでもカロリーは十分です。飢えることはありません」
「違ーーう! 試合に負けて今のわたしはとても傷ついているのだよ! モスト・デンジャラス・ブロークン・ハートなんだよ! 今日くらい優しくしてくれてもいいでしょうが!?」
「え、モスト・デンジャラス? 何それ? プリンで何とかなるなら大した心の傷じゃないだろ、いつも優しくしてるし」
「全然優しくないし。そんなんじゃいつか妹が家出するぞ! キックボードでどこまでも、そしてどこかの辺境伯爵にゲットされて、深窓の令嬢として中庭でスイーツを
「キックボードで家出するのは大変では? 辺境伯爵は、リナが食っちゃ寝するのに呆れ、寝ている間に段ボールに詰めて、そっと駅前の公園に置くのでした」
「ええっ!? わたし捨てられちゃうの!? おかわりは三杯までで我慢しますので誰か拾ってください! おやつは毎日でお願いします!」
「食べ過ぎだろ、エンゲル係数がどこまでも上りそう」
「育ち盛りなんだよ! たわわに実ったボディを作るためには仕方ないの! でも兄ちゃんと話したかったのはそんなことではない。どうだったさくらの様子は?」
「まぁちょっとは落ち込んでいたけど、大丈夫だと思う」
「ふーん、一応確認だけどさくらに変な事をしてないよね?」
「するわけないだろ、そんなことしたら今頃、首と胴体が別々にされてるわ!」
「兄ちゃんにその気がなくてもさくらがその気だったかもしれない……よし」
いつものようにクンクン匂いを嗅いでくる。
恥ずかしいからやめてほしい。
まだお風呂に入ってないから汗臭いに決まっている。
「ふむふむ……ハグまでか、ならギリ許そう」
「あのさぁどうして匂いを嗅ぐだけでまるで見たかのようにわかるの?」
「前も説明したけど、これはケルベロスの嗅覚と言ってわたしの固有スキルなのだ」
「だから何でそんな固有スキルを持ってるの?」
「令和の高校生は女神様から貰った固有スキルを一つか二つ持っているのが常識でしょうが」
「どこの世界の常識だ? そんなことあるかぁ!」
「とりあえず兄ちゃんが何もしていないのはわかったよ。だが傷心のさくら嬢に付け入るチャンスに何もしなかったのは、紳士と言うよりヘタレと云えなくもない。でもまぁわたしへの純愛を貫いたということで、うへへっ」
「何を言っているの? 妹よ」
「さぁ遠慮しなくていい。かわいい妹の足腰が立たなくなるまで愛してくれたまえ! カム・ヒア! マイ・ブラザー! うふーん♡」
『テクニシャン』とプリントされたダサTと紺の短パンに身を包む義妹もどきは身をよじる。
だが残念な事に全くもって色っぽくない。
「よし、わかった」
「え?」
「だから愛せばいいんだろ?」
「そ、そうだけど……って兄ちゃん? いえお兄様、いつもなら『そんなことできるわけないだろが~』と叫んだ上で、わたしの頭をぐりぐりするところでは?」
「頭をぐりぐりするなんてとんでもない。これまでの分も合わせて今日は優しくするよ」
「えっ? 優しくされちゃうのわたし? つまり優しくあんなことされちゃうの!? ダメ、やっぱりダメなのだ兄ちゃん、今は部屋着だし、下着もかわいくない。そもそもわたしと兄ちゃんは兄妹でそうしたことをするのは……」
「俺は気にしない」
「ほ、本当に!? で、でもわたし楓ちゃんや凛ちゃんほどパイパイが」
「リナのそのままがいいんだ」
「ぬぐはぁあーー!? い、いいの? 兄ちゃん引き返すなら今だよ? 世間様にバッシングされるかもだよ? SNS大炎上必至だよ?」
「かまわない。リナと進むのなら、それがいばらの道でも」
「そ、そこまでの覚悟が!? なら何の問題もないのだ。15年守ってきたこの身を捧げるだけ……って無理無理、絶対無理なのだ! 兄ちゃんが良くてもわたしがダメなのだ! と言うか、わたしにやましい事を考えちゃダメなのだぁあああ! うぎゃあああーー!」
断末魔の叫びをあげ、全身をピクピクさせながら、その場に倒れる。
ダサTの隙間から白いお腹とおへそが見える。
沢山食べるのに、お腹はいつもペタンコだ。
胃袋がそのまま四次元に繋がっているとしか思えない。
「おーい妹よ、大丈夫か?」
3分ほど、床で延びた後、再起動して立ち上がった義妹もどきに声を掛ける。
「うん大丈夫、わたしはもう寝るね、おやすみ緒方君。 プリンありがとう」
「おやすみリナ、お腹を冷やさないように気を付けろよ」
自室に消える妹を見送る。
ふ~。
今日も圧勝だったな。
そして我が妹はポンコツかわいかった。
おバカな妹も少しは懲りておとなしくなるだろう。
でもまぁ2、3日もすれば元通りだろうけど。
……そう思った。
だが翌日からリナはこれまで真逆に変わる。
寝起きに抱きついてくることも、洗濯物を頼むこともない。
それどころか、話しかけても用があるからと避けられる。
何より俺のことを兄ちゃんではなく緒方君と呼ぶ。
何これ?
遅めの反抗期か?
もしかして近々キックボードの乗って家出を?
さすがに家出をすることはなかった。
だけどポンコツかわいい義妹もどきのリナはどこかにいなくなり、代わりに大人しい普通の女子高生高山莉菜がいる。
そして俺は、莉菜に大いに苦しめられることになる。
おバカじゃない莉菜には、かわいいしか残らないから……
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